僕の思いは君の声 2話

 
 

 駅から徒歩15分くらい歩くとようやく優一の家に着く。
その間、東京じゃ信じられないような何もない田舎道が続く。しかも今は冬ということもあって本当に何もない。春になるとこのへんは桜できれいなんだよ、と優一が言うので、次は桜の季節にでも来てみようと思った。

 優一に会うのは二か月ぶりだろうか。
The Worldは表向きには平穏を取り戻したようだったが、完全にはぬぐい去ることの出来ないバグやシステム、それを取り巻く様々な陰謀、そして恩師でもあるオーヴァンの所在………そういった数々の問題と根本から向き合いたくて、俺はNAB社に入ることに決めた。しかし優一には、まだどうしてもそのことを伝えられなくて、やりたいことがあってNAB社でインターンすることにしたとだけ伝えていた。学校と職場を行き来する生活はあまりにも忙しくて、はやく卒業して大人になりたいと思って仕方ない。本当は毎日でもシラバスを通じて優一に会いたかったし、声だけでもいいから聞きたかった。でも、それすらも難しいくらいに業務に忙殺されてしまう日々で…。

「亮、寒くない?」

「ん、まぁ……平気」

 曖昧な俺の返事に、ふふ、と優しく笑う優一。
忙しくて約束を守れなかった時も、寂しくて急に電話で呼び出してしまった時も、そんな風に笑ってくれた。いつだって彼は俺を許してくれる。

 男ふたりが歩くにしてはちょっと不自然なくらいぴったりと寄り添いながら、そして実はこっそりコートのポケットに指先を忍び込ませながら俺たちは冬の道を歩いていた。
河原近くの風の通り道。仙台の風は東京よりずっと冷たいはずなのに、なんだか温かい気がした。

「もう着くよ」

 ふと顔を上げると、視線の先に味わい深い昔ながらのアパートらしき建物が見えてくる。東京ではあまり見かけないタイプのそれを見ていると、優一がブレグ・エポナではしゃいでいた理由が分からなくもない。

「はーい、初心者1名様ごあんなーい」

「誰が初心者だ」

 ガスパー風の口調でドアを開いてもてなす優一を後目に、俺はアパートの中に入る。
閑静なアパートの一室。以前来た時と同じ場所に、彼の住処はあった。

「おじゃまします」

「おじゃまされまーす!」

 玄関を上がるとすぐ、キッチンスペース、そして浴室があり、突き当たったドアの向こうに小さな和室が間取られている。
生活するのに必要な最低限度の設備がついているだけのシンプルな空間。しかし、なんとなく以前来た時と雰囲気が違う気がする。

「なんか、変わったか?」

「そう?とくに変わってないと思うけど……」

「なんだろうな。なんか広くなったような」

「うーん、掃除したからかなぁ……」

「ああ、たぶんそれだ」

俺はコートを脱いで、ちょっと広くなった和室の真ん中に佇む、これまた味わい深い感じの小さな炬燵の中に、そそくさと入りこむ。

「ふふ、寒かったよね。東京はもう少し暖かいもんね」

 コートを片しながら、楽しそうに優一は言う。しっかり温められた炬燵の中はまるで天国だ。俺はその心地よさに身体を預けつつ、キッチンで何やら準備を始める優一を眺めた。

「なんか温かいもの飲む?……というか、亮。ちゃんと手洗ってね。洗わないとお菓子あげないから」

「へいへい」

 なんか母親みたいなこと言うな、と思いつつ、俺はしぶしぶと炬燵からでて洗面所に向かう。
トイレとバスルームが一緒になった小さな洗面所。浴槽はまだ濡れているようだった。冬だというのに、朝風呂に入ることがあるんだな…と思ったものの、次の瞬間にはその理由について思いを巡らせる。俺は熱いお湯でかじかんだ手をしっかりと温めてからキッチンでお湯を沸かす優一の下へ戻った。

「ねぇ、亮。お茶がいい?それとも紅茶?全部パックのやつしかないけど」

「うーん、そうだな」

 背中を向けたまま、戸棚をガサガサとあさる優一。
首までしっかりと温まりそうな白い毛糸のセーターに、身体のラインにぴったりのジーンズ姿という、別になんの変哲もない格好なのに、なんだかちょっと色っぽく見えるのはなぜだろうか。俺は思わずその無防備な背中にぴったりと寄り添った。

「亮?」

「お茶もいいけどさ、こっちの方がいいな」

そう言いながら後ろからぎゅっと優一の身体を抱きしめる。

「わわっ!! 亮!!?」

「優一さ、風呂入っただろ?」

「……え!? な、なんで?」

「ん?さっきからすごいい匂いだし……髪ちょっと濡れてるし……」

 浴槽も濡れてたし、証拠を残しすぎだろと思いながら、俺は後ろから優一の耳たぶあたりに鼻を近づけてみる。案の定、ふんわりと甘いシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。そのまま首筋に移動しぴったりと肌に鼻を寄せて匂いを嗅ぐと、優一はぴくりと肌を震わせるものだから困ったものだ。

「……っ…りょ、う……」

 清潔感のある石鹸の香りと一緒に、優一の優しい素肌の香りが胸の中いっぱいに広がる。それと同時に、少し上ずった声で俺の名前を呼ぶものだから、身体の奥でうずく熱い欲望がむくむくと膨れ上がってきてしまう。

「準備しておいてくれたの?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「そう?本当に?」

 俺は後ろから抱きしめていた腕をそっとセーターの中に忍び込ませる。柔らかくて温かい感触が指先を幸福で満たしていく。いつもだったら、ゆっくりじっくり脱がせてその滑らかな肌や張りのある筋肉を味わっていくのだけど、今は先に確認したいことがあったので、早急に優一のジーンズに手をかけた。

「……っ、りょ、亮!!!?」

 少しだけ抵抗らしきものを見せる優一の腕を押しのけて、ベルトを外し、下着ごとズボンを乱暴にずり下ろす。
そしてそのまま指先をおしりの割れ目にそっと押し当ててみる。

「やっぱり」

 押し当てた指がにゅるりと、第一関節まで簡単に飲み込んだ。
そこはほぐされて既に柔らかくなっていた。

「……っ、ぁ……っ…………」

「エロいなぁ……」

 耳元でそっと呟くと、優一の耳がさぁっと赤くなるのが分かった。俺はそのまま中途半端になっていた彼のズボンと下着を一気に引き下ろす。バサッと衣服が床に落ちると同時に、優一の小さくて張りのあるおしりがつるりと露わになった。既に柔らかくほぐされたそこに、一気に腰を打ち付けたい衝動にも駆られたが、キッチンに腕をついて無防備におしりを突き出している優一を眺めていると、もう少し焦らしてみたくなってくる。

「そんなにしたかったの?」

「………ち、違……っ…………」

「でも、もうこんなに柔らかいじゃん。俺が来てから準備すればいいのに。何考えてほぐしてたの?」

 そんなこと聞かなくたっていいのに、やらしいことを聞いてもっともっと困らせたくなる。俺は目の前の白くて柔らかな丸みにそっと指を這わせながら、割れ目に隠れた小さな穴を優しく撫でる。
それだけで、ぴくりぴくりと身体を震わせるものだからたまらない。

「…っ、ぅ…………や……」

「……やじゃないだろ。なぁ優一。何考えてた?」

 わざとらしく、指先が入るか入らないかの入口あたりを優しく撫でる。
時々少しだけ指先を忍び込ませてみると、きゅぅ…と内側が俺の指を飲みこんで締め付けるものだから堪らない。

「……っ、ぅ……りょ、う…」

「教えてよ。そうじゃないと、ずっとこのままにする」

「…っ、そんな………ぁ……っ…」

「お願い。優一」

 耳元で優しく懇願すると優一の身体がびくりと跳ねる。その隙に、忍ばせていた指先をぐっと押し入れ、第二間接のあたりまで咥えさせる。本来何かを入れる場所ではないそこは、柔らかくなっているとはいえ、指を押し出そうと抵抗してくる。ぎゅっと引き締まった内壁が俺の指を翻弄してくる生々しい感触を味わいながら、その絡みつく壁を優しく撫で回し、優一の意識を徐々に追い立てていく。

「……ぁ、や、……だ、め…………」

「優一、教えて」

「………っ、亮のこと、考えて、た……っ………」

「俺のこと?どんな?」

「…はやく……会いたいっ………なっ……て、…………っ………」

「……それだけ?」

 今度は一度指を引き抜いて、おしりの肉をぐっと横に押しひっぱる。すると先ほどまで咥えていた穴が、開かれた割れ目からしっかりと顔を覗かす。本来ならぴったりと閉じているはずだったそこは、先ほどまで指を咥えていたということもあって、ぴくりぴくりと震えている。なんだかとても物欲しげだ。

「…………そ、そんなとこ、見ないでよ…」

「でも、久しぶりだしさ。よく見ておきたい」

「……………っ、で、でも、…………やだ……」

「ん、で、話の続き。まだ終わってないけど?」

「……………っ……」

 今度は腰からおしりにかけての滑らかななラインに優しく指を這わせる。ほどよく弾力のあるすべすべしたそこはとても色っぽい。
まだ再会して30分も経ってないはずなのに、俺は一体何をしているのだろうか。あまりにも早急すぎて少々がっつき過ぎじゃないだろうか?と、今更になって思えてきた。
しかし元はというと、優一が証拠だらけで風呂に入っておくのが悪いんだ。彼の方が破廉恥だ、と言い訳をしながら今のこの状況を納得させる。そして何よりも、先ほどまで大人びたコートを颯爽と着こなしていた優一が、早くもこんな淫らな姿になっているという事実に、妙な興奮を覚えて仕方なかった。

 そんな邪な考えを走らせつつ、まじまじと半裸の優一を眺めていたものの、なかなか口を割ろうとしないので、俺はそっと優一の耳たぶに唇を寄せて出来るだけ優しく甘噛みしてみた。

「…っ……いっ…!」

「言わないと、言うまで舐めるよ、ここ」

 耳たぶに少しだけ歯を立てた後、わざとらしく音を立てて吸い上げる。
すると、ひときわ甘い声を漏らして身体を震わせた。

「…っあ……っ! だ、め…っ…!」

 首をすくませて逃げようとする優一を逃すまいと、俺は耳たぶや耳の付け根あたりに舌を這わせる。
筋肉や皮膚とは違う、硬いけど柔らかい軟骨の感触を舌でたっぷりと味わいながら、それを舌先で転がしたり、唇で吸い上げたりすると、優一は身体を震わせながら切なげに喘ぐ。そんな甘い様子が堪らなくて、俺の身体はどんどん熱くなっていく。

「優一?」

「…っ、……いっ……………たい、っ………」

「ん?」

「…………っ……いっぱい…したいっ……て……っ……」

 耐え切れなくなった優一がようやく甘い声を押し殺しながら、とても恥ずかしそうに告白してくれた。
正直すぎるその言葉につられて、防波堤が崩れるかのように俺の心に留まっていた気持ちが溢れだしてくる。

「………俺も。ずっとしたかった」

 抱いて、抱いて、何度も抱いて、めちゃくちゃになるくらい抱きたかった。
初めて優一と抱き合ってから、まだ数えられるほどしか肌を重ねていなかったけれど、だからこそ全ての夜を色濃く思い出すことができた。会えない時間に何度も思い出して何度も胸を焦がせていた。

「ずっと、会いたかった……」

 俺は今目の前に確かに存在する優一の身体を力強く抱きしめる。そして少し乱暴に顔を上向かせがむしゃらに唇を奪った。優一の甘くてくぐもった声を聴きながら俺は無我夢中で唇を吸い上げる。

「………、ぁ……っ、りょ、う……」

 無我夢中で誰かを求めてしまうなんてことがあるなんて知らなかった。こんなに恋焦がれることがあるなんて。会いたくて仕方なくて、抱きしめたくて仕方なくて。それなのに、どんなに思っても近くにいることができない相手が、今ようやく俺の腕の中にいる。それがこんなにも胸を焦がすことなんだと初めて知った。

「…っ、はぁ………優一、好き。すげぇ好き………」

 とろけるようなキスの合間に視線が絡む。
すると、優一はまたふんわりと優しく笑った。

「……うん。僕も好き」

 唇についばむようなささやかなキスをしながら、嬉しそうな笑顔を浮かべる優一。どんな時でも変わらないその笑顔に俺はどんどん甘えてしまいたくなる。
でも、ギリギリのところで俺のプライドがそれを許してはくれない。俺は雪崩れ込んでしまいそうな感情をぐっと抑える。

「……っ………なぁ、お前、いっつもオウム返しするよな……」

「そうかな? 同じこと考えてるんだよ、きっと」

 ああ。その表情も言葉も全部がずるい。絶対に勝てっこない。そんな気持ちにさせる。
俺は後ろからもう一度ぎゅっと抱きしめて、柔らかい髪に顔をうずめた。

「…………え、と、続き、向こうでする?」

「…………そうだな」

 このままキッチンでも床の上でも俺は全然構わないのだけれど、あんまり乱暴なことをすると優一の身体が可哀そうだ。ちゃんと布団を敷いて思う存分に抱く方がいいだろう。

「今日はもう、離すつもりないからな」

「……僕だって。……離さないから」

言葉が俺に落雷する。全身が丸焦げになりそうだった。

 
 
 
 
 
 
 
 

>>小説 Funfictionページに戻る