忘れたもの SAITO (ARISE)

 

俺は一体何を思っているのか、何を感じているのか分からないのだ。
ただ珍しく感傷的なだけさ。

 

俺はどこかへ行こうとしているのだけど、それは間違いなく自分で望んだことで、
逃げ出すためではないと感じていた。
それは、こうしてあんたと同じ風景を見て、あんたに見送られることを望んでいる、それが、すべてを物語っている。

 
 

どこの場所にいようと、執着や未練などなかったし、別に今生の別れなんて大げさなものも存在しない。
電脳ひとつでどこでも、誰とでも会うことができるし、酒だって飲める。生きてさえいれば。
ただ、何となく、見送られるたびに、訳もなく、感傷的になる自分自身に気がついていた。
しかしそれは、
何かが、どうだから、悲しいとか
何かが、どうだから、寂しいとか
そんなものじゃないんだ。

俺がこんな人間に成り上がらなければ、俺は今ここで感じている強い気持ちに名前をつけたり、
その気持ちや感覚の中で打ちひしがれることもできたかもしれない。
だけど俺は、この感覚が何なのか分からなくなってしまった。
いや、もしかすると、こんな感覚は、はじめから知らなかったのかもしれない。きっとそうだ。

 
あんたと飲んだ酒の味とか、あんたが話す異国の話とか、あんたと見た馬鹿みたいに明るい星の群れだとか
そんな馬鹿みたいな時間に馬鹿みたいに執着しているわけじゃない。決して。きっと。
どこかに行けば、あんたの代わりはいくらでもいる。
いつもそう言い聞かせているのに、あんたに見送られることを望みつつも恐れてしまう。

移ろおうと、奪われ滅びようと、自ら捨てようと同じことだ。
変わることに対して何の思いはない。
何ども俺の生活は移り、何ども奪われ、何ども変えてきた。
今更、なんていうことはない。
ただそれが”幸福だった”と思ってしまっている。だから厄介なんだ。

「何の変哲もない”幸福”の中にいたということ」に、名前があるのなら教えて欲しい。

 

終わることが分かる時、俺はその終わりがくることを悲しく思うこともあった。
終わろうとするまでの、この逃れようのない時間を悲しく思うこともあった。
そしてその終わり何度も見届けてきたし、俺自身の手で何度も終わらせてきた。
だから今回も同じことさ。

生きてさえいればいい。

 
 
 

俺は一体何を思っているのか、何を感じているのか分からないのだ。
ただ珍しく感傷的なだけさ。

 
 
 
 
 
 

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軍を転々として傭兵になったり、フリーランスっぽいスナイパーゆえの孤独とかあるのかなぁと。
基本一匹狼だけど、行き先でひとりくらい親友(戦友)を作って意気投合してたらかわいいなぁ。
おはむすたーみたいに。
サイトーさんやおはぎの胸の奥底にいるであろう戦友について考えると沼です。