「……っ、お願い………ハセヲ……っ…ね、ぇ………」
目の前に広がるあまりにも妖艶な光景に、俺は目を離すことが出来ないでいた。
シラバスは俺の上に馬乗りになった状態で、肌のほとんどを眼前に晒し、腰を頼りなさげにくねらせている。
彼の熱く高ぶった中心とふたりの結び目が、視界の真ん中でまざまざと揺れていて、普段の彼からは想像できないほど全てがあまりにも淫らだった。
「……ハセヲ、動いて、よ……」
「だめだ。」
シラバスと交わるようになってしばらくが経っていた。
お互いの好意を確認してから自然と抱き合うようになっていったが、彼の受け身すぎる態度に少し不安を覚え始めていた。
もちろん俺は、彼に向ってしまう欲望を抑えることなんて出来そうになかったので、思うがままに彼を抱いていたし、そして彼も、ハセヲがしたいようにとかハセヲのためだとか、そういうことばかり言いながら、なされるがままに抱かれていた。
なんというか自分ばかり気持ちが急いていて、彼は本当に俺と交わりたいのかどうか分からなくなってきていたのだ。
本当に俺のことが好きなのか?
本当は俺のことを優先して、断れないだけなんじゃないか?とか、そんなことすら思ってしまっている。
「今日は、あんたが全部ひとりでやるんだ」
「……で、も……………」
彼は確実に混乱しているようだった。
いつも通り、彼の衣服を乱暴に脱がせ、柔らかい肌をがむしゃらに吸い上げ、その慎ましげに揺れる胸の飾りや、誰にも見せたことのない隠された後穴なんかをじっくり味わったあと、俺はおもむろに彼を身体の上に馬乗りにさせた。下からゆっくりと、柔らかくとろけた場所に俺自身をじっくりと突き入れた後、後は自分で動くようにと命じたのだった。
「俺は、あんたが気持ちよくなっているところが見たい」
いつも俺ばかりが求めてしまっている気がして、嫌だった。
俺の身体で、俺に興奮して、淫らになるところを見せて欲しい。
ちゃんと俺のことが好きだって見せつけて欲しい。
そんなことを思いながら下から眺めていると、シラバスは上に跨ったまま愛おし気にキスをしたり、俺の様子を伺いながらゆっくりと腰を動かしたりしてくるものだから、俺はそれらを全て拒絶して彼の身体を突き放した。
「ハセヲ……?」
「……なぁ、シラバス。お前いっつも俺のことばっかり気にしてるだろ。違うんだ。そうじゃない………」
「…………?」
「今日は、お前が気持ちよくなることだけ考えろ」
「で、でも……それじゃ、ハセヲが……」
「俺はお前が、自分のために気持ちよくなってるところが見たいんだよ」
俺をがむしゃらに求めて欲しい。俺が好きならできるだろ?なんて我儘で自分勝手なことを言ってしまいたかった。
困った表情を浮かべるシラバスをもう一度しっかり見つめると、ようやく理解したのかシラバスは目を閉じてゆっくりと腰を動かし始めた。遠慮がちでたどたどしいその動きは、俺の興奮をより一層搔き立てたが、迫りくる衝動をぐっと堪えながらその様子をうっとりと眺めた。落ち着かない様子で、前かがみになったり、膝を立てたりと悪戦苦闘しながら彼なりに良い体位を探しているようで、途中何度か俺の方を見てきたが、俺はじっと見つめ返すだけで決して動こうとしなかった。正直、何度も思わず腰を動かしてしまいそうだったが…
ようやく良い体位が見つかったのか、またゆっくりと腰をくねらせはじめる。浅く咥えこんだ俺自身を、おそらく彼の気持ちの良いポイントに何度も擦り付けているようだった。
「……っ……ぅ、ぁ………っ」
甘い声を漏らしながら、腰を回し、肌を震わせる。
段々と彼の中心も張りつめてきて、先端からはトロトロと蜜がこぼれはじめていた。
「……っ、……ハセヲ……っ…」
「ん?気持ちいいか?」
「…っ、あ、…ぁ……っ…………」
シラバスの入口は熱く高ぶった俺自身をしっかりと咥え込み、動くたびにぬるぬると花開く。時折腰や太ももがぴくんと跳ね、そのたびに甘く喘ぐものだから堪らない。
「…ん、ぁ…っ、ハセヲ……っ……」
「……ん?」
「…っ、…っ………やっぱり、動いて、よ……」
「だから、駄目だって、何度言わせ…………」
「…っ、だって……こんなの、や、だ……」
ぎゅっと閉じられていた瞳が、うっすらと開かれ、熱くとろけるような視線が俺の心を絡めとり、締め付ける。
欲望と懇願に溢れたその瞳に俺は焦がれるような衝動を感じずにはいられなかった。
「…シラバ、ス………?」
「僕、ハセヲのこと好きだから…………」
「………」
「………ハセヲのこと………ちゃんと好きだから。………だから………っ………」
ああ……
やっぱり彼は、なんでもお見通しだ。
まるで俺が考えていたことを知っていたかのように、そんなことを言うものだから。
「僕だけじゃ……やだ。ねぇ……ハセヲ、お願い……」
「……っ………全く、しょうがねぇなぁ………」
「……っう…っ、あ………」
俺はぐっと彼の身体を乱暴に引き寄せる。そのままぐったりと倒れこんできた細い身体を抱きとめ、柔らかくとろけた彼の中に何度も腰を打ち付けた。
「…っん、ぁ……あっ、ハセヲ……っ…ハセヲっ………っ!」
一層に甘い声であえぐシラバスをぎゅうと抱きしめながら、がむしゃらに腰を動かす。
俺は何かを根本的に勘違いしていたのかもしれない。こうして肌を合わせて、抱き合って、何度も名前を呼びあって、どんなに身勝手に求めてもシラバスは絶対に逃げなかった。
いつでも、何があっても、彼がそこにいてくれるという圧倒的な確信があったから、俺は自由でいられた。そして彼は、そんな俺に求められることを誰よりも望んでいた。俺にとっても彼にとっても、そんなことができる相手は、今は、間違いなくお互いにしかいないのに何を不安に思っていたのだろうか。
「………い、っ……や、ぁ……で、ちゃ………」
「いいぜ。出せよ……」
「……やっ、あ……ぁ…っ…!!」
ひときわ高い声で喘ぎながら、小刻みに肌を震わせて果てる彼を一層に抱きしめ、熱くて甘い唇を吸い上げる。愛おしくてたまらい存在を全身で感じながら、優しく絡みつく内側に欲望を解き放った。
「……っ、ぁ………は、ぁ………」
ぐったりと俺の上で項垂れる身体を撫でながら、腕の中にある確かな存在を嚙みしめるようにしっかりと抱き寄せる。
すると彼も俺の腕をぎゅう…と掴んで離さなかった。
「………もう、こんなの………なしだよ……」
「んー。そうだな。悪いことしたな」
お互いを思いながら抱き合うことが何よりも気持ち良いと気がついたものの、先ほどの淫らに腰をくねらせながら甘い声を零すシラバスを思い出すと、たまにはああいうのもお願いしたいかもな、なんて思ってしまうのだから仕方ない。
しかし今そんなことを言ったら本当に拗ねてしまいそうだから、そっと胸の奥に閉まっておくことにした。