Episode 10. Kissing the shoreline / Voyage Day5 (R-18*)

 
 
 
 
 
 
 

「だいぶ波紋の扱いにも慣れてきたな」
「やっぱり、この矯正マスクのおかげでしょうか」
 トレーニング3日目からつけ始めた波紋の呼吸矯正マスク。ジョセフやシーザーも修行の時に使用していたといわれるその器具は、その名の通り波紋の呼吸を身につけるのに絶大な効果を発揮していた。
「でも今日はそれ、取っていいから。今夜は港のカクテルパーティーに行こうと思うんだ」
「港の?」
「ああ、今朝買い出しに行った時、店のおばちゃんが教えてくれたんだ。島のみんなで騒いでるからぜひ遊びに来いってさ」
「いいんですか? 一応修行中ですよ」
「ここでの滞在もあと2日で終わりだ。少しは楽しまないと」
 その言葉にヨシュアの胸がちくりと痛んだ。1日1日を積み重ねるごとに、ジョセフとの距離がぐんぐん近くなっていく中、確実に別れの日が近づいているのも感じていた。ずっと考えないようにしていたけど、泣いても笑ってもあと2日。2日過ぎれば、きっとまた今までと同じ生活に戻る。
 ジョセフはヨシュアの口元を覆うマスクに波紋を流した。何をしてもびくともしなかったマスクは、ジョセフの波紋であっけなく外れる。解放され、一日の修行ですっかり汗だくになった肌を、夕方の寂しい空気が優しく撫でる。
「お疲れ。それじゃ一休みしたら港に向かうから、準備しといて」
「はい。お疲れ様です」
 一足先に帰路へ向かうジョセフの背中をヨシュアはぼんやりと見つめた。あと2日。修行が終わったら一体どうなるのだろう。波紋を学ぶことで知らなかった世界を理解し、波紋エネルギーに身を委ねる方法を体得することで確信を持って行動が出来るようになった。しかし未来に広がる膨大な時間、ジョセフへの想いとどのように向き合えばいいのかまだよく分からなかった。毎日毎日が楽しかった。瞬間瞬間が輝いて見えた。そんな時間があっただけでも自分はきっと幸せに違いない。

 ヨシュアは一人で帰路につく。いつもみたいにジョセフと一緒に帰っても良かったが、なんとなく今日は少しだけ一人でいたかった。夕闇に溶ける淡い夏が、記憶の残り香みたいにほんのりと香る。ヨシュアは大きく息を吸い、波紋に身を委ねた。世界は随分と静かだった。あるのはウッドウォークを歩く、コツコツという甘柔らかい木の音。風が吹くたびに揺れる木々の微かなざわめき。見知らぬ虫の声。そして、遠くの方で聞こえる波の音。

 つまり、それは沈黙だった。

 人の音が何一つとして存在しない世界。ヨシュアにとっての沈黙は静寂と等しかった。静寂は時に圧倒的な騒音のような圧力を持つ。そんな世界では、肌は寒さと暑さの些細な変化を感じ取り、目は世界に開かれ、耳は世界を立体的に描き出す。大地の香りが、潮のざわめきが、雨を蓄えた木の肌が、匂い立つ。木々がざわめく、世界に静かな拍手を送るかのように。そして大地に葉を落として、何かがパチッと弾ける。ヨシュアは束の間の美しい静寂を抱きしめた。今はこの静寂だけが愛おしかった。
 太陽を隠した森たちは影の隙間から太陽を見せる。スポットライトみたいに照らされた大地の隙間から、キラキラと。深すぎる森はその足元に星を散らす。

 まるで海の底みたいに。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Voyage -Day 5 (R-18*)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 日没後、二人は港町へ出かけた。初めて港に到着した時の印象は閑静な船着き場というイメージだったが、今日は意外にもたくさんの人で溢れ返っていた。一体どこに隠れていたのだろう。1軒しかないと思われたバーは、2、3軒オープンし、華やかなシーフードレストランや屋台が軒を連ねている。その間をカップルと思われる様々な人々が行き交っていた。
「こんなに人がいたんですね!」
 そして、そこにいる人々はマンハッタンの人間たちと比べてオープンでフレンドリーな雰囲気だった。すれ違うだけで目を合わせてにこやかに挨拶し、みんな上機嫌だ。それに都会だと場所にふさわしい服装を求められるが、ここにいる人間たちはちょっと目立ちそうな露出の多いファッションや、独特な化粧をした人も多く歩いている。それによく見ると、ほとんどのカップルが女性同士や男性同士だった。
「ジョースターさん、これって……」
「うん。きっとヨシュアの思ってる通りだよ。ファイヤーアイランドは同性愛コミュニティの島なんだ」
 ジョセフの言葉の通り、すれ違う同性カップルたちは街中にも関わらずキスをしたりハグをしたり、オープンなスキンシップをしている。ヨシュアが少し気後れしていると、ジョセフが優しく肩を抱いた。それは家族や友人にしてはちょっと不自然な距離なのに、周囲が二人を見る目は優しかった。
「俺たちもそういう風に思われてるんでしょうか?」
「だろうな。というか実際そうだし」
「なんだか、恥ずかしいです」
 そんなことを言うのも束の間、ジョセフがさらりと唇を奪った。それは挨拶にしては長すぎる、恋人同士のキスだった。ヨシュアは思わず周囲を意識して顔を背けるが、ジョセフはお構いなしに再びぐっと唇を寄せた。
「ジョースターさん…っ……」
「何もおかしなことじゃないだろ?」
 その瞳はまっすぐヨシュアを愛していた。ヨシュアは瞳に吸い込まれるように、街の喧噪で焦がれるようなキスに答えた。

 二人はそのまま埠頭近くにあるバーへ足を踏み入れた。店員は二人を見るなり「あらやだハンサムなカップル!」と黄色い声を上げて騒ぎ出した。ヨシュアはいたたまれない気持ちになって思わずジョセフを見るが、ジョセフは満更でもない顔でヨシュアの肩を抱きながら適当な料理と酒を注文した。店員は男のような体軀をしているが女のような顔をしていて、喋り方も独特だった。
 周囲はカクテルパーティーということもあって、立食形式の丸テーブルが港に沿ってあちこちに置かれている。複数人で盛り上がるテーブルもあれば、二人の時間を楽しむテーブル、良い相手がいないかとテーブルの間を彷徨い泳ぐ者と様々だった。
「なんだか落ち着かないです……」
「そう縮こまることもないさ。誰もヨシュアを咎めたりしない」
 ジョセフの言葉にヨシュアの心は半分だけなだめられた。しかし残りの半分は相変わらず重たい鉛のようなものに縛られている。それは間違いなくジョセフの家族のことだった。ヨシュアは考えすぎないように、適当に周囲の人間たちを観察していると、先ほどの店員がビールジョッキとエビや牡蠣がたくさん乗った2段重ねのブッフェスタンドを運んできた。
「はい、お兄さんたち。今日はこの店で一番新鮮なヤツを乗せといたから、楽しんでね! それと、そこの坊や!」
 坊や?と思ったが、おそらく自分のことだと思ったヨシュアは、店員の方を振り返った。
「なんか元気ないじゃない。せっかくのパーティーなんだから楽しまなくちゃ!これ、サービスしとくわ」
 そう言うなり、店員はテーブルの上に綺麗なブルーのカクテルを置いた。
「え!いいんですか!」
 店員がにっこりとほほ笑むので、ヨシュアはそれを手に取り一口だけ飲んでみる。するとそれはバニラのようなパナップルのような甘くて不思議な味がして、ヨシュアは思わず笑みをこぼした。
「これ美味しいです!ありがとうございます!」
 店員は満足気な顔をした後、ジョセフの肩を叩いて「ありがとうございます!なんて!ちょっと可愛い過ぎじゃないこの子。大事にしなさいよ」とお節介を言って鼻歌混じりに去っていた。

「なんだか凄い人でしたね」
「ヨシュアに色目を使うヤツは許さん」
「でも、カクテル美味しいですよ」
 ヨシュアが満足そうにそれを飲んでいると、ジョセフは呆れた顔を浮かべた。
「そういえば前も変な男に引っかかってたな。ほら、グランドセントラルで。もしかしてあいつにも酒を奢られたんじゃないだろうな?」
 ヨシュアはジョセフの指摘に、いつぞやのマルクスのことを思い出した。
「確かに…… お酒はおごってもらいましたけど…… 別に誰これ構わず飲むってわけじゃ……」
「今のヤツやあの時の男が、誰これじゃなかったら、一体誰が誰これなんだ?」
 ジョセフの正論にヨシュアはぐっと言葉を詰まらせる。ジョセフは額に手を押し当ててため息をついた。
「とにかく、酒には気を付けろよ。特に知らないやつからの酒は。何か入ってるとも限らないし。あんまり人から貰うんじゃない。いいな?」
「分かりました……」
 ピシャリと言われて、まるで父親にでも怒られたような気持ちなったヨシュアは、ほんの少し落ち込んだ。
「なんかヨシュアって、危なっかしいんだよな……」
「そんなことないですよ」
「じゃあ気が付いてる? 今このバーに、ヨシュアのことを見てる男、3人はいるよ」
「え!嘘!?」
「ほら、全然気が付いてないじゃん……」
 そう言いながらジョセフは周囲に見せつけるようにヨシュアの腰に手を回した。
「まぁここはアメリカ初のゲイとレズビアンの街とも言われてるから、アメリカ中から同性愛者が集まってくるんだ。だから今日はきっと筋金入りのパーティーさ。いつもはストレートとして生活してる男女が、こうやって解放感に浸りにくる」
「へぇ……」
「ほら、あそこ。あそこにいるのは作家のカポーティ。あっちは小説家のハイスミスじゃないかな? それにあの人は、なんだっけ? たぶん映画監督の……」
「え!嘘!どこですか!?」
 ヨシュアは思わずキョロキョロとあたりを見渡す。
「コラ! あんまりジロジロみるんじゃない」
「すみません……」
「俺たちの生きているストレートの世界では、彼らは生きにくい。隠しながら生きていくしかない。露呈すれば汚名を着せられ、犯罪者扱いされることもある。でも、この島では自由が与えられている。だから色んなアーティストが集まってくるんだ」
 ジョセフの言う通り周囲のカップルたちはびのびしている。その顔は間違いなく幸せそうだった。愛する人と当たり前のように日常を過ごせること。誰もがそれを享受する権利があるはずだという気持ちにさせてくれる。しかし今の社会ではそれはとても難しい。
「世の中はなんだか、ダメなことばかりですね。あれもダメ、これもダメ。そこから逃れようとしても、それも凄く大変で……」
「でも、きっと未来は少しずつ良くなるさ。ならないなら、俺は変えていきたい」
 ジョセフの目は未来を真っ直ぐ見据えていた。それは以前ブルックリンで夕陽を見つめる力強い眼差しと同じだった。ジョセフは常に大きな未来を夢見ている。そして、そんなジョセフには家族がいる。その事実にヨシュアの心は時々ぎゅっと締め付けられるのだった。

「でも…… 同性愛は認められても、家族は…… ジョースターさんの家族は………」
 ヨシュアは口にしかけたものの、恐ろしくて最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
「……俺はヨシュアも、家族も、手放すつもりはない」
「そんなこと……!」
「分かってる。そんなことは詭弁だって。でも今は…… ここにいる間だけは忘れてくれ」
 ジョセフの言葉はいつになく真剣な響きがあった。どんなに自由な愛を求めても、家族の愛は鉄壁だ。その事実だけはどんな時代になっても変わらないのではないのだろうか。ヨシュアは、ジョセフともっとしっかり話をするべきだと思ったが、今ジョセフがそれを望まないならと言葉を噤んだ。何を言おうとあと2日しかない。ここで過ごしてきた日々をヨシュアは忘れるつもりも、なかったことにするつもりなかった。
 ヨシュアがしばらく黙っていると、ジョセフが頬の痣をつんつんと突ついた。顔を上げると、シュリンプカクテルの大きなエビを口元に差し出した。
「食べよ。美味しいよ」
「……あ、はい。頂きます」
 ヨシュアは、ぱくっとそのエビにかぶりついた。
「ん!美味しいですねこれ。ぷりぷり」
「新鮮だな」
 ジョセフは朗らかな顔を浮かべて、ブッフェスタンドに並ぶ生牡蠣をペロリと口に入れた。二人は島で捕れた新鮮なシーフードを、地ビールやカクテルで楽しみながら夜の帳をのんびりと楽しんだ。終始ジョセフはヨシュアの肩を抱いたり、キスをしたり、マンハッタンにいたら出来ないスキンシップをたくさんした。いくらフリーダムな島とは言え、ヨシュアはそんな風に自由な世界へなかなか踏み出せない。ジョセフはいつだって軽々しく、どんなものでも飛び越えていく。

「俺も、ジョースターさんみたいに、強くなりたいです」
「なれるさ」
 ジョセフは冒険者のような綺麗な瞳で、じっとヨシュアを見つめた。大きな夢を見る瞳に、自分はどんな風に映っているのだろうか。その瞳に耐えられるほどのものを、まだ見つけることが出来なかったけど、ジョセフは何かの確信と喜びを持ってヨシュアを見つめていた。
「この修行でちょっとは、強くなってるといいんですけど……」
「なってる。ヨシュアはもう、十分に強いよ」
「ありがとう、ございます……」
 ヨシュアがはにかむと、ジョセフはそっと唇を寄せた。もう何度目になるのか分からないキス。ここ数日で数えきれないくらいキスをした。つい一週間前まではほとんど触れ合ったこともなかったのに。キスだけじゃない。セックスだってそうだ。半年前のたった一回のセックスじゃ知りえなかったことを、たくさん知った。一方的に憧れるばかりだった頃と比べると、ジョセフの様々な面を知り、今ではもう、あの頃以上にジョセフを愛している。

 ヨシュアは自分を求める愛おしい唇に答えた。バーの真ん中で、ジョセフとキスをするなんてことは一生ないと思っていた。音楽が、人々の柔らかな話し声が、すぐ傍にある。それはいつもの日常の音だった。
 唇を離すと、心の底から嬉しさと安心が溢れ出てきた。この場にいる人々と同じように、肩を抱き合い、キスをして、幸せを語り合っている。まるで二人の愛が社会から認められたみたいに。大好きな人の隣で大好きな気持ちを見せることの喜びを、ヨシュアは目の当たりにした。

「ジョースターさん…… お、れ……」
「うん」
「……俺、今すごく幸せです」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 しばらく酒を飲み、何百回目かのキスをして、二人は港町から帰路についた。港はこれから賑やかな夜の満潮を迎えようとしていたが、二人はそろそろ二人きりになりたかった。夜の海に大きな半月型の月が浮かんでいる。世界は驚くほどに青い色をしていた。

「さっきのカクテル美味しかったですね。なんでしたっけ? カリブ?」
「マリブだな」
「そうそうマリブ。あの青いカクテル。俺アレ好きです」
 ヨシュアは酒を飲んですっかりほろ酔いだった。まるで高潮にいる貝のように幸せな気分だ。
「月の光ってこんなに明るいんですね」
「もう少ししたら、きっと星がよく見える」
 空を仰ぎ、月を眺めるジョセフの頬に、ヨシュアが小鳥のようなキスをすると、ジョセフもキスを返した。しかしそれはヨシュアのキスよりずっと深い、大人のキスだった。

「……ジョースターさんが、好きです」
「俺も好きだよ」
「ただの好きじゃないです。きっと、ずっと、好きです」
「俺もさ」
 そんなロマンチックな台詞を言いながら、貪欲にもジョセフの指先はヨシュアのシャツの下に忍び込んだ。その指は腹筋をなぞって脇腹をたどり、胸のあたりまでそろりと撫でた。
「ここではダメですよ」
 しかしヨシュアの抑止を無視して、ジョセフの指は悪戯な様子をやめなかった。
「……っ、ぁ、ちょっと! やめて、ください……っ」
「やだ」
 ジョセフは珍しく駄々をこね始める。
「家まですぐそこじゃないですか」
「……そういうの、今日はいらない」
 肌を撫でるジョセフの瞳は青い月みたいに、しっとりと濡れていた。
「ここでしたい」
 言葉と行動がほとんど一緒なジョセフは、ヨシュアが拒否も承諾もする前に砂浜に押し倒していた。白い砂がふわっと宙に舞う。夜の砂浜は太陽を忘れたみたいにひんやりと冷たかった。
「……でも、やっぱり外はダメです……」
「これはダメ。あれもダメ。これをしなきゃ、あれもしなきゃ。ヨシュアはそんなんばっか。なんだか……」
 ジョセフは不満げな顔でヨシュアを見下ろした。

「シーザーみたい」

 そして、子どもみたいに頬を膨らませた。まるで月の魔法にでもかかったみたいに、その顔は10代かそこらの少年みたいに艶めかしかった。
「ジョースターさんは、自由ですよね」
「そんなことはない。でも自由でいたいって思ってる」
「俺も、少しは見習わなきゃ……」
「そう。だから、今はここでするの!」
「それとこれは違う気もします、けど……」
 しかしヨシュアはもう拒もうとは思わなかった。何だか自分が気にしていた様々な制約が、すごく下らないもののように思えてきたからだ。
「……今日だけですよ」
 とはいえ、屋外でセックスをするなんてことはあまりにも恥ずかしかった。もし誰かに見られたらと思うと気が気でない。ここの島の住人がいくら寛容であっても、悪いことをしてる気がして堪らなかった。それでもジョセフは波紋を練りながら身体を撫で始める。それはいつもに比べてゆっくりとした動きだった。
「はぁ……なんか、きもち、いいです……」
「外だからね」
「酔ってるからですよ」
「そんなことないよ。むしろ酔ってると萎えるよ」
「そうなんですか?」
 二人はくだらないお喋りをしながらゆったりと抱き合った。
 
 
 いつまでも、こんな風に過ごすことは許されないのだろうか。
 大好きな人と、ただ一緒にいたい。一緒に生きて、いつか死んでいくまで、こんな風に。でも、それは望んではいけないことだ。彼には守るべき家族がある。それは自分の知らない20年以上の月日を支え合った人たちだ。彼らはジョセフの事を信じて、ジョセフの帰りを待っている。これは変えられない真実であり、運命なのだ。
 でも今は。今この瞬間は、ジョセフがここにいる。ジョセフが紛れもなく自分を求めて、愛を向けている。

 
 

 ―—————ねぇ、シーザーさん。そこにいるんでしょう? あなたのせいでしょう? 俺をこんな気持ちにさせて、こんなに愛しちゃって、どれだけジョースターさんのこと好きなんですか?
 あなた達に挟まれて、こんなことになってる男の身にもなってください。二人でちゃんと愛し合ってください。
 ねぇ、なんで死んじゃったんですか? ———————

 
 
「ジョースターさん……」
「うん?」
「今もまだ、シーザーさんのこと、好きですか?」
 ジョセフはしばし沈黙した後、愛おしそうな顔を浮かべた。
「……シーザーのことが好きだよ。たまらなく愛してる。今でもヨシュアを見てシーザーを思い出してる」
「はい…… 知ってます」
「でも、もう…… 俺は、ヨシュアのことを愛してる。シーザーの代わりだとは思ってない。ヨシュアも愛してるし、シーザーも愛してる」
「ふふ、ジョースターさんって、たくさん愛してるんですね」
「うん……でも、それじゃやっぱりダメなのかな……」
「……俺には、分からないです。でも、そういうことは、あるのかもしれませんね……」

 話をしてるうちに、ジョセフの熱がゆっくりと身体の中に入り込んでくる。もうジョセフの熱をすっかり覚えてしまったヨシュアの身体は、簡単にそれを迎え入れた。それと同時に足に絡まっていたズボンも、はだけていたシャツも、ジョセフは全て剥ぎ取ってしまった。例え月夜の暗闇の中とはいえ、浜辺で丸裸にされるとは思わなかったヨシュアは、すぐに肌を赤くした。こんなにも恥ずかしくて仕方ない状況なのに、ジョセフの後ろに見えるのは星空で、息をのむほど綺麗だった。ヨシュアはジョセフに星空を見て欲しいと思い、自ら率先して馬乗りになった。ジョセフは寝転んで空を仰ぎ見るなり、その美しい風景に微笑んだ。

 すぐ傍で波のさらさらとした音が聞こえる。しかし海は真っ暗で何も見えなかった。夜の海は昼と迫力がまるっきり違う。ぼんやりと暗い浜から、波の音だけがやってくる。それでも岸辺ではいつもと変わらない波の逢瀬を繰り返していて、少し優しい。
 潮風は秋の色を帯びて冷たかった。丸裸だと少し寒くて、ヨシュアは温もりを求めてぎゅっとジョセフに抱き着いた。
「寒い?」
「ちょっと……」
「最近、夜が冷えるようになったな」
 ジョセフは自分のシャツをヨシュアに羽織り着せて、そのまま体を抱きしめた。ヨシュアはすぐ近くで自分を見上げる瞳を見つめながらゆっくりと腰を揺り動かした。ヨシュアの腰の動きに合わせて、ジョセフも腰を動かす。二人はただゆっくりと繋がり続けた。その動きはなかなか終わろうとしなかった。終わせたくなかった。この海辺みたいに、永遠に満ち引きを繰り返していたい。打ち寄せては引く愛の心地よさに、このままずっと、永遠にいられたら ―――――――

「ヨシュア、そろそろ……」
「……や、です」
「でも冷えてきたし」
「外でしようって言ったのはジョースターさんです」
 駄々をこねるヨシュアの髪をジョセフは優しく撫でた。
「それでも、いつかは終わらせなきゃ……」
 耳元で囁くジョセフに、ヨシュアは首を横に振った。ジョセフは今にも崩れてしまいそうなヨシュアに、精一杯優しいキスをした。
 それは波紋の気配が何ひとつない、ジョセフの純粋なキスだった。ヨシュアは思わず涙があふれた。それは遠慮なくジョセフの頬をはたはたと濡らしていく。

 ジョセフはヨシュアの岸辺に何度もキスを繰り返した。
 何度も何度も。
 例え何度押し返されようとも、海が岸辺にキスをするのをやめないように、ずっと続いていく優しい永遠を願って。

 涙が枯れるまで、二人はずっとずっと抱きしめ合っていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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