僕らの特別

 
 
 
 

1.

 
 
 
 
 
 
 
 

 15歳の誕生日を迎えてすぐの頃、僕の身体に変化が起きた。変化が起きたという言い方はちょっと変かもしれないけど、少なくともこの体験を期に、僕の身体がちょっと変わって、リード君との関係も少し特別なものになったんだ。

 それはリード君の家にいつも通り遊びに行った時のこと。
ほとんど毎日、暇さえあればリード君の家でゲームをしていたから、その日もいつもと変わらずおじいちゃんに買ってもらったゲーム機を持って遊びに行った。人間の世界でいうと、団地みたいな雰囲気の集合住宅の一角にリード君の家はある。家の中は、食べ物とか洗濯物とか色々なものがごちゃごちゃと混ざり合ってひとつになったような匂いがするんだけど、窓をいっぱいに開けているリード君の部屋は、太陽の匂いと溶け合って、なんだかとても居心地が良かった。

 ゲームをするようになってからしばらくして、僕たちは時々女の子の話をするようになった。リード君は以前から女の子に興味深々だったし、綺麗な女の子が大好きだった。僕も少しは興味があったけど、それ以上にこの魔界で起きる出来事や、みんなと過ごす時間が楽しくて、女の子のことを特別意識する余裕がなかった。だからリード君の語る性的なことはよく分からなくて、ちょっとセクシーな女性の写真を見ながら、「入間くんはどんな子がタイプなの?」なんて聞かれても、ちょっと困ってしまう。でも、甘いお菓子みたいに柔らかそうな肌を見せる女の子の写真を見ていると、お腹のもっと奥のあたりがムズムズしてきて、身体が熱くなるのが分かった。ひとりでいるときも、時々その感覚を思い出して、その時は自分の性器を少しだけぞもぞと触ってしまうんだけど、おじいちゃんやオペラさんがすぐ隣の部屋にいるかもしれないと思うと、なんだかいけないことをしているような気持ちになり、僕はこの気持ちに、そっと蓋をするよう努めていた。

「ねぇ入間くんは、いつもどうしてるの?」
 今日もふたりで女の子の写真がたくさん載っている雑誌を眺めながら、リード君が興味津々といった様子で僕を見つめる。
「何が?」
「むらむらした時、やっぱり写真を見ながらする?」
 何の話をしているのだろう。でも、きっとこのムズムズする気持ちの話をしているに違いない。そうだ、リード君なら何か知っているかもしれない。

「リード君はどうしてるの?」
「え? 僕は、いつも好きな女の子見ながら抜いてるよ。ほら、この子とか、かわいい…」
「ど、どうやって……?」
 僕は思わず質問してしまう。そんなことを聞くのはなんだか恥ずかしいことのような気がしたけど、リード君ならきっと大丈夫。

「入間くん、抜いたことないの?」
「う、うん……。たぶん」
「そっか」
 リード君は、ふーんそうなんだ、といった様子でパラパラと雑誌をめくる。でもそのページは、読めない楽譜を見ているみたいに、パラパラとめくられるだけで、彼はページの中身を見ているようには思えなかった。くすりくすりと、沈黙の時間に紙のこすれる音が鼓膜をくすぐる。

「ね、ねぇ、リード君……」
 僕はなんとなく気まずい雰囲気に耐えきれなくて思わず声をかける。しかし、何を言えばいいのだろうか。抜くって何を?どうやって?なんて聞くのも変な話だし、僕の頭は思った以上に真っ白だ。

「入間くん、抜いてあげよっか?」
 唐突に切り出される。僕はリード君の提案が何を意味しているのか分からず、思わず「いいの?」と答えてしまう。
「入間くん、本当に知らないの? 今まで本とか漫画でも見たことないわけ?」
「う、うん……。変かな?」
「いーや。入間くんが箱入り息子なの、もう嫌というほど見てきたし。それにしても、本当に理事長は過保護っていうか、うーん、凄い…。これが英才教育ってやつなのか?」
「あははは……どうだろうね」
 うーん、と目を細めながらリード君は心底不思議そうな顔で首を傾げた。そして、「よし!しょうがないなぁ、入間くんだから特別だよ」と一言添えて僕の目の前に座りなおした。

「じゃあズボンおろして。下着も脱いじゃっていいよ」
「え!?」
「え!?じゃないよ。抜くんでしょ?ちんちん出してよ」

 ケロっとした様子でそんなことを言い出すものだから困ってしまう。でも、僕の身体をふわふわと熱くしている何かが、下半身をむくむくと好奇に震わせているのが分かる。
 僕は覚悟を決めて下着ごとズボンを脱いで床に腰をおろした。そこはすでにちょっと大きくなり出していて凄く恥ずかしかったけど、リード君は顔色ひとつ変えず、僕のそこをぎゅっと握ってきた。

「……わ! ちょっ! リード君…!!!?」
「ここをこうやって弄るんだけど。入間くん弄ったこともないの?」
「……っ!…あ、あるけど……!」
「出したことは?」
「な、何を!!?」
「あ、うん。大丈夫。なんでもない」

 全てを把握しましたといった様子で、リードくんは僕の性器を上下にこすったり、ちょっとひっぱたり揉んだりと乱暴にもみくちゃにしていく。他人にそんなところをそんな風に触られるなんて初めてだったし、そうされればされるほど、身体の奥に隠れてうずうずしていた熱が、どんどん大きく膨らんでいくのを感じて、僕は怖くなった。

「…あ、や、…やめて…!…リード君、僕………っ…!」
「大丈夫。僕も初めはちょっとびっくりしたから。でも、大丈夫。すごい気持ちいいよ」

 リード君は嘘をつかない。僕に嘘をついたことはない、と思う。それにリード君はこれが何なのか分かっていて、こうしているんだから、きっと大丈夫。でも、押し寄せてくる見知らぬ衝動が怖くて、僕は思わずリード君の身体にしがみついた。

「リード君、リード君…!…ほんとに、これ、大丈夫なの? なんか……ぼ、く……」
「どんな感じ?気持ちいい?」
「…あ、なんか、怖い…………」
「へーきだよ。僕に任せて」

 僕はリード君の肩にぎゅっとしがみつきながら、身体の奥から迫りくる何かに必死にあらがう。いつもベッドで弄ってる時とは比べものにならないくらいの、何か大きなものが迫ってきていて、怖くてあらがいたいのに、頭の奥ではそれを出したがっている。

「入間君、我慢してる…?我慢しないで、出しちゃって平気だよ?」

 何か分からないこの熱の渦を、身体の外に出せということだろうか。僕は出したい気持ちと出したくない気持ちの中でぐちゃぐちゃになりながら、リード君の乱暴な指先の動きを感じた。僕のほっぺをつねったり、無邪気に手を繋いでくる彼の指先が、今日はすごく熱くて気持ち良くてドキドキしてしまう。性器に絡むその指先が、我慢したいという気持ちをとろとろに溶かしていく。すると身体の奥からじんわりと熱いものが走りぬけ、僕の頭の中は真っ白になった。

「…ぁ、ぁぁ……っ……」

どうしよう、すごく気持ちいい…。

「あ、出た。」

 リード君がぼそりと呟く。
自分の下半身に目を落とすと、そこにはねっとりと白い何かが、性器から溢れてリード君の指先をたっぷりと汚していた。

「!!!?え!!? わっ!わーーー!ごめんね!わ!なにこれ!?!?」
「入間くんの精子」
「わーーーーーーーーーーー!」
 僕は何がなんだか分からなくて、思わず叫んでしまった。リード君が「アハハッ!入間くんおもしろっ」といつもの調子で笑うから、別に普通のことなのかなぁ?と思えてきた。僕は自分で汚してしまったものをそそくさと片付けて、出しっぱなしだったおしりをちゃんとズボンで隠した。その間にリード君は台所からカルピスみたいな白いドリンクと、チープなパッケージが可愛らしいお菓子を一緒に持ってきてくれた。

「入間くんのことだから、お腹空いたでしょ?」
「!!! お菓子!ありがとう、リード君!」

 僕はオペラさんが作ってくれる料理も、学食のご飯も好きだったけど、それらとは違った雰囲気のお菓子とドリンクを出してくれるリード君が大好きだった。どこで食べるお菓子よりも甘くて、素朴で、懐かしい味がする。

「入間くん、その……大丈夫? 無理させちゃったかな?」
「ん?ううん、大丈夫だよ」
「そっか」
「ちょっと怖かったけど、凄い……気持ち、良かったし……」
 怖くて、ちょっと恥ずかしい気持ちでいっぱいだったけど、今はとてもすっきりした気分だった。それもあってか、出されたお菓子がとても美味しく感じられて、僕は思わず「おいしー」と言いながらむしゃむしゃと頬張ってしまう。

「はぁ、入間くん、ほんと、面白いなぁ……」

 リード君が心底驚いたような呆れたような様子で僕を見ていたけど、彼の口元は嬉しそうに笑っていた。

 この日から、僕は自分の中に沸き起こるこの衝動が「欲」なんだということ知り、それがほとんど毎日のように沸き起こるようになっていった。この欲望の衝動を「抜く」ことを覚えてから、定期的にそれを抜き取ろうという気持ちに駆られたけど、やはりおじいちゃんが与えてくれたあの部屋で、それをするのは悪いことのような気がして、どうしても一人で弄ることが出来なかった。だから僕は、リード君の家に行っては、あの行為を求めるようになっていった。

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2.

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「入間くん、気持ちいい?」
「……うん、きもちい……ぁ、でちゃうかも……」

 学校が終わるとすぐにリード君の家に行く。ゲームをしたり、お菓子を食べたりするより前に、僕とリード君はズボンを脱いで、お互いの性器を触り合う。
 リード君の話によると、彼はもうかれこれ2,3年は自分で自分の性器を触って抜いていたらしい。僕は、自分で自分の性器を触るより、リード君に触ってもらった方が気持ち良かったし、とにかく、僕はリード君とこの家でするのが安心できて好きだった。
 ベッドの上で、お互いの性器をぴったりとくっつけて一緒に抜き上げる。僕のもリード君のも、触れる前はまだふわふわと柔らかいけど、すぐにむくむくと大きくなって、まるで背比べをしてるみたいにピンと伸びてくる。よくわからないけど、リード君のが大きくなると、ドキドキと興奮しちゃうんだ。お互いのものを触り合っていると、時折彼の腕や太ももなんかが僕の素肌に当たるんだけど、柔らかくて、すべすべしてて、凄く気持ち良いから、もっと触れてみたいなぁなんて思うようになっていた。今日はリード君の手で上下に何度もこすり上げて貰っている。お互いの性器をお互いの手で握り合うこともあれば、僕がふたりの性器をこすりあげることもある。どちらにしたって、気持ち良くて仕方ない。お互いの精子が飛び出すまでの束の間の時間。

「…ん…っ…ぁ、出ちゃった……」
「……っ………はぁ、あ…っ…………」
 僕のものが飛び出すとほぼ同時に、リード君も白いものをびゅっと出した。リード君は白いものを吐き出す直前になると、無意識なのか、いつもよりちょっと高くて甘い声をぽろぽろと漏らして、気持ちよさそうに目を閉じる。なんだか色っぽいその様子を見るのが好きで、僕はリード君を見つめながら一番気持ち良い瞬間を迎えるのが習慣になっていった。
 一度出すと、彼はちょっと疲れた様子で後片付けを始める。でも最近の僕は、一度出しただけじゃ、まだお腹の奥が少しむずむずする。日を重ねるたびにその感覚は大きくなっていく。

もう一回……したい。

 リード君がおしりを出したまま乱れたシーツを片付け始める。なんだろうこの気持ち。もっともっと、何かを欲しがっている感覚が僕の中にある。彼のおしりを見ていると、より一層、ふつふつと大きくなっていく。 
 僕は思わずリード君の身体をぎゅっと引き寄せた。彼はそのままあっけなく僕の腕の中に倒れこんできて、わーと驚いた声をあげた。

「ちょ、何?入間くん?どうかした?」
「リード君、僕、もう一回したい…!」
「え、え?」
「まだ、物足りない……。リード君、まだできる…?」
 後ろから優しくリード君の身体を抱きしめ、彼のおしりの隙間に僕の性器をぴったりと寄り添わせてみる。どうしようもない気持ちだ。僕は何がしたいんだろう。

「入間くん? じゃあ、もう一回、抜いてあげよっか?」
 リード君が僕の腕の中で提案する。もう一度弄れば満足するのだろうか。触れてもらって気持ちが高まった時の感覚は本当に気持ちいいけど、何かが物足りない。もっと、もっと、欲しい。

「リード君、もっと… 僕、もっと、したい……」
「入間くん…」
 さすがのリード君もちょっと困った様子だった。実際に何をしたらいいのか全然分からなかったけど、彼ならもっと色んなことを知ってる気がする。リード君はこの魔界の普通の生活を一番たくさん教えてくれるから。すごい身勝手だと分かっていても、彼に答えを求めてしまう。

「もう……入間君ってほんと、欲深いんだから…」
 そう言いながら、リード君は僕の腕の中でもぞもぞと動いて、再びの僕の性器を優しく触りだした。僕はわくわくした気持ちを抱えたまま、リード君のことをじっと見つめる。

「あのね、男の人と女の人なら、女の人の穴に………入れればいいんだ。それはすごく気持ちいいらしいよ。でも、僕たちにはその穴がない」

 悪魔でも女の人と男の人の身体は人間と似た感じなんだろうな、と思った。人間の身体のこともまだあまりよく知らなかったけど、ぼんやりと想像することはできた。

「男の子同士じゃ、できないの?」
「できなくは…ない、みたいだけど。でも、それはもう……」
リード君が口ごもる。

「穴に入れるのは、セックス…だから、たぶん。相手と繋がるということだから、そういうのは、こ、恋人とか、好きな人とした方がいいと思うよ。姉ちゃんが言ってた…」
「そっか…。リード君は、したことある?」

「………………………ない」

 その一言を言うまでに、なぜかいつもより長い間があったけど、リード君はまだセックスをしたことがないと告白した。もちろん、僕もあるわけがない。
 リード君の指先がゆっくりと優しく僕の性器を撫でていく。初めて触られた時と比べたら随分と丁寧な手つきだった。あの時は本当にもみくちゃという感じだったから。
 リード君の話を聞いて、おそらく、彼は僕とこうやって触り合う以上のことは出来ないということが分かった。お姉さんが伝えた話や、彼が知ってる魔界の知識が彼をそうさせていることは間違いない。
 もっと、もっと欲しいという気持ちが膨らんでいるのに、これ以上どうすることも出来ないと思うと、身体が強い飢えのよう衝動に苛まれる。もどかしくて、もどかしくて、何もかも全部壊してしまいたくなる。僕たちアブノーマルクラスは、この世界の普通を何度も壊して、ドキドキをいっぱい感じてきたじゃないか。今だってリード君の考えを壊して、もっとドキドキすることをしてもいいんじゃないか。そんな風に思えて仕方ない。

「でも……僕、物足りなくて仕方ないよ、リード君」
 僕は更に懇願してみる。何とかしてリード君の、悪魔の本能を刺激することはできないかと考える。そうすれば、もしかしたらリード君を抑えているものを壊せるんじゃないかと思った。悪魔の好奇心、潜在的な欲望。面白くて、ゾクゾクすることが大好きな彼らの心を呼び覚ませたい。

「………そんなこと言われても。あのさ、入間くんは、おしりの穴に………ちんちん入れるの平気なの?」
「おしりの穴?」
「そうだよ…。男の子同士でするってそういうことだよ?」
 リード君は呆れたような顔をして、「おしり痛くなりそう」と言いながら僕のほっぺをむにっと引っ張る。

「リード君は痛いの嫌?」
「そりゃあ痛いのはちょっと……」
「じゃあ僕のおしりに入れてみる?それなら痛くないでしょ?」
「入間くん!?」
「リードくんは、僕のおしりに入れたい?」
「……え…!? いや、僕は………というか、入間くんはどうなの? 嫌じゃないわけ?」

 リード君の目がキラリと光る。夜に浮かぶ電球みたいに。彼は確実にちょっと興味を持っているみたいだ。

「それでもっと気持ちよくなるなら、僕はいいよ。その方が楽しそうだもん」
 僕がそう言うと、リード君の目が好奇心でいっぱいといった様子で煌めく。悪魔の目だ。僕は悪魔のみんなの目がぎらぎらと光る時、すごく胸がドキドキする。
 リード君の手の中ですっかり大きくなった僕の性器が、さらなる興奮を求めて立ち上がっている。僕はリード君の前に横たわったまま、いつもよりちょっと大きく足を開いてみせた。すると彼は、まるで花の蜜を求める蝶々みたいに、僕の穴にそっと触れた。

「………入間くんって、時々、ほんと……凄いよね……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 入間くんは、いつも僕を驚かせてばかりだ。
入学初日から大暴れして新聞の一面を飾るし、そのあとも毎日ドタバタしていて彼の周りは賑やかだった。
 正直、遠くから見てるだけで十分だった。それなのに入間くんはクラスメイト全員と仲良くした。理事長の孫だというのにとても素朴で、親しみやすくて、すっごく面白い。そんな入間くんと関わるうちに、僕はこのクラスが大好きになった。
 収穫祭の時に、入間くんとペアになって、一緒に知恵を絞りながらトップを目指して頑張った。この時の僕は、入間くんやみんなの足手まといになりたくない一心でがむしゃらだった。結果的に僕と入間くんが若王になったんだけど、周囲から賞賛と驚きの声の他に、「なんであいつが」といった否定的な声がちらほら聞こえなくもなかった。入間くんは誰がどう見ても、若王にふさわしいと思ったし、クラスメイトもなんだかんだで優秀なヤツばかりだ。僕はみんなのおかげで自分の能力をなんとか生かしながらここまでランクを上げてこれた。だから、あんまり自惚れたくはなくて、入間くんと仲良くしすぎることを心のどこかで恐れていたんだ。
 入間くんの傍には、アズ君とか生徒会長とか、彼の隣にふさわしい人たちがいた方がいい。僕が入間くんの隣にいるのは、ふさわしくない、そんな気がしていた。それでも入間くんは、たびたび僕の家に遊びにきた。凄く嬉しかったし、入間くんと一緒にゲームをしたり、遊びにでかけたり、時々一緒に勉強したりするのは凄く楽しかったんだ。そんな友達だからこそ、ふたりきりの時、こっそりエッチな話をするようにもなった。ただそれだけのこと。そんなの、男の子ならみんなそうでしょ?

 入間くんがエッチなものに多少なりと興味があるのは知っていたけど、まだ精通していないとは思っていなくて、ちゃんと自慰をしたことがないと言われた時、僕はちょっと困ってしまった。その告白を聞いた時、何事もなかったかのように流してしまおうと思った。だって僕が、あの入間くんに何をしてあげられると言うのだろうか。でも、入間くんは時々、僕に何か答えのようなものを求める時がある。何と言っていいか、彼はあまりにも俗世間のことに疎かったから、僕の教えるいちいちに本当に興味を持ってくれた。彼は、どこかで「分からないことはリード君に聞いてみよう」といった態度で、僕に何かを期待している時がある。あの入間くんに、そんなことをされたら、分からないことや知らないことも知っているかのように振舞いたくなってしまうんだ。彼の期待に応えたい。その一心で、僕は彼の精通を手伝ってしまった。でも実際、大きく膨らんだ入間くんの性器を目の前にした時、僕は妙に興奮してしまって、夢中になってしごいてしまった。まぁ、当の本人は全然気にしてないというか、満足気な様子だったから良かったけど。
 そしてそれ以降、入間君は自分の欲の在りかと大きさを知ってしまったようで、僕の家に来るたびにあの行為を求めるようになった。別に女の子としてるわけでも、悪いことをしてるわけでもないんだから、断る理由もなかったし、それに実際触り合ってみるとひとりでするよりも気持ち良くて、もっともっと気持ち良さを求めちゃったりして、とにかく僕はすっかり夢中になってしまったんだ。

「入間くん……い、痛くない?」
「大丈夫。大丈夫だから……はや、く……」
「でも、これじゃたぶん入んないよ…?」

 僕は今、入間君のおしりの穴に指を入れている。もちろん、たっぷりとローションを絡めて。
実は僕が15歳になった時、姉ちゃんからちょっとしたアダルトグッズをもらっていたのだ。その時は姉のくせになんて物をくれるんだと思ったけど、まさかここで役に立つとは。
 今はまだ恋人のような人はいなかったけど、もし出来たとしても、薬局でコンドームだとか、ローションだとか、そういうものを買うことは気が引けたし、僕の見た目はどうにも15歳に見えない。「あんたもそろそろ、そういうの、必要でしょ?」なんて言いながら、親がいない時にこっそりくれたんだけど、さすがは僕の姉といったところか。

 僕はローションをたっぷり入間くんのおしりに垂らして、じっくり穴を解いていく。でも、そこは本当に何かを入れていいのかと疑いたくなるくらい、きゅっと閉まっているものだから心が折れそうになる。
 だいぶ時間をかけて、入間くんのおしりをほぐしていく。ちょっとエッチな雑誌でセックスのイロハみたいなものは見たことはあるけど、おしりの穴に関してはほとんど知識がない。僕は終始焦りっぱなしだった。でも、入間くんが望むなら……

「これだと、ちょっと痛そうだから、もう少し……もう一本くらい指が入ってからでいい?」
「…いいよ。リード君に任せる」
 にっこり笑いながら、僕に期待を寄せる入間くん。こんな時にこんなところで僕に頼られてもちょっと困っちゃうんだよなぁ。でも、嬉しくなってしまうから僕も僕だ。とにかく、入間くんが痛がったり、苦しんだりして欲しくないから、僕は出来る限りその穴が柔らかくなるまで優しく触ることにした。
 入間くんが僕のベッドに寝ころびながら、足を大きく開いている姿は、本当に想像したことのない光景だった。僕のベッドに女の子が寝ころんでいて、いちゃいちゃしてるところはもう何度も想像したけど、そんな想像を遥かに飛び越える強烈な光景に、ああ、さすが入間くんだな、なんて感心しちゃったりして。
 でも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。むしろ僕が指を動かすたびに、顔を赤くしたまま鼻にかかったような甘い声を漏らしたりするものだから妙に興奮する。入間くんの声は女の子みたいに高かったし、そんな気持ちよさそうな声を聞かされちゃうと本当に堪らない気持ちになってしまう。

「…ぅ、ん……ね、リードくん、ま、だ?」
「うん……そろそろ、入れちゃおっかな」
 正直僕も我慢の限界が近づいている。例え男の子相手とはいえ、僕は今、初めて挿入するんだ。一応今日で童貞とおさらばできるというわけだ。思わずごくりと生唾を飲んでしまう。

「入れるよ。痛かったから、言って……」

 僕はだいぶほぐれた穴から指を抜く。そこはとろとろに柔らかそうな様子で、ぽっかりと物欲しげに震えていた。すごく官能的なそれは一体誰のものだと思って改めて顔を見上げてみれば、熟れた果実みたいに美味しそうな入間くんがいる。なんだかもうわけがわからない状況だったけど、僕は凄く興奮しちゃって、すっかり臨戦態勢の自分の性器をあてがい、ぬち…ぬち…と入間君の入口を自分の理性の許す範囲でゆっくりと訪問する。

「……っ…! …ん、ぅぁ……っ………」
「入間くん? 大丈夫?」
「……ん、大丈夫。……はやく、はやく……っ………」

 ちょっと痛そうな声を漏らしながらも、入間くんは早く早くと懇願する。入間くんは悪魔界でも指折りのパワーを持つ、あの理事長の孫だから、魔力も欲も底なしなんだろう。もっともっと、早く早くと求める彼の姿に、悪魔としてのエネルギーを感じずにはいられなかった。
 僕はかなり強引ではあったけど、入間くんの蕩けて熱い肉をきゅうきゅうに押し広げながら、入間くんの中に全部収まるまで、じっくりと腰を進めた。入口がぎゅっと締まるから中はもっと狭くて大変なのかと思っていたけど、一番きついのは入口のところだけみたいで、僕の性器はどうにか全部入間くんの中におさまっていった。

「……入間くん、はいったよ…」
「……ん、ぜんぶ…?」
「うん。どんな感じ?痛くない?」
「…うん。…お腹がなんか…どきどきする…」
 自分のお腹あたりをぽんぽんと触りながら、いつもの入間くんのような能天気な感想を言う。でもそんなことを言いながら、ぎっちりと僕の性器を咥えこんでいるものだから、なんだか急に不安になってきてしまった。入間くんの身体の中に僕が入り込んでいるという、とても強烈な事実。ふたりを繋いでいる場所がすっごくやらしく濡れている。動いていいのだろうか?少しでも動いたら僕の方がちぎれてしまいそうだ。

「リード君?動かないの?」
「……う…いいの? い、痛いかもよ?」

 入間くんを心配しているふりをして、自分の困惑をなんとか隠そうとする。そんな僕の様子は入間くんからどんな風に見えているのだろう。
 男女の悪魔が性器を通して繋がると、子どもの悪魔が生まれる話は知っていた。愛し合ったふたりの悪魔がする行為だから、軽率にすると痛い目をみると姉ちゃんが酒臭い顔で語っていたのを覚えている。もちろん、男同士や女同士でも愛し合う悪魔がいることも知っていた。でも、僕はそんな大層な気持ちで入間くんと繋がったわけじゃなかった。ただ気持ちいいから、ただ面白そうだから。ふたりともそう思ったから繋がりあったんだけど、ここまできて、いよいよ頭の中が真っ白になってしまった。僕はただ入間くんをじっと見つめることしか出来なくて、それでも入間くんは、そんな僕に対していつもの柔らかい笑顔を向けてくれた。
 そしてそっと僕の腕を掴んで、身体を優しく抱き寄せてくれて――――――

「入間くん?」

 僕は入間くんの腕の中に倒れこむ。そこは凄くふわふわしてて温かった。あまりの心地よさにうっとりしてしまうくらい柔らかくてふんわりしてるものだから、思わず入間君の身体をギュッと抱きしめてしまう。するとそれだけで入間くんの中がきゅうと締まり、僕の性器を容赦なく絞りこんでくる。あまりの気持ちよさに思わず「ひゃあ」と変な声が出てしまった。

「……っ!!入間くん!!」
「リード君、動いてよ。動かないなら僕……」
 熱っぽく縋りつく入間くんの足が、蛇のように腰に絡みついてくる。やばい。なんか分からないけど、この状況はまずい気がする。欲望をぱんぱん膨らませて、とろけるような熱を溢れさせている入間くんが僕の自由を奪おうとしている。悪魔の本能的に、これは本気で食われるんじゃないかと一瞬で恐怖した。

「待って待って!入間くん、僕が動くから……あ…離し…っ…」
 入間くんの身体を突き放したものの、既に遅かった。
なんとか腕の中から上半身だけ逃れることが出来たけど、彼の足が僕の腰をがっちりと拘束して離さない。そして彼は滑らかに腰を揺り動かし始めた。ゆるゆるとした緩慢な動きだったけど、まだ繋がり慣れていないそこは、少し動くだけできゅっと締まり、にゅるにゅるとした感触でいっぱいになる。

「…ぅ、ぁ、あ……入間くん…! だ、め……」
「…ん、…リード君、気持ちいいの……?」

 あまりの気持ち良さに、うっかり倒れこみそうになる。今にも唇に触れてしまいそうな距離で、うっとりと熱い吐息を漏らす入間くんに僕は釘付けになった。僕は必死に腕の力をこめて、それ以上入間くんに近づかないように堪える。
 僕は入間くんと、一体何をしているんだろう。入間君はクラスメイトで、若王で、ただのオトモダチ。入間君の言うお友達というものは、こんなこともするのだろうか?
 しっとりと熱い入間くんが、ゆっくりと目を開いた。その瞳は湖みたいにたっぷり濡れていて、キラキラと艶めく欲望で溢れかえっていた。そんな欲望で張り裂けそうな入間くんを初めて見た僕は、頭の先から足の先まで入間くんでいっぱいになってしまって、僕は思わず入間くんの動きに合わせ浅ましく腰を動かしてしまう。とろとろに絡みつく入間くんの欲望が凄く気持ち良くて、もう何もかもが限界だった。

「……っあ、あ…いる……っ、僕、でちゃう……っ…!」

 頭の奥が、真っ白に弾け飛ぶ。
僕はそのまま入間くんの腕の中にぐったりと倒れこんだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 リード君が僕の腕の中にいる。
僕の腕の中におさまる悪魔なんて、リード君くらいじゃないだろうか。その大きさも僕との距離も、他の悪魔には難しい。そんな気がしているんだ。

 リード君と遊ぶ時、まず服を脱ぎ合うようになって、そろそろ1週間が経とうとしていた。初めはズボンと下着しか脱いでいなかったけど、少しずつ上着も脱ぐようになっていた。今では、裸になった方が気持ちいいから、ふたりきりになるとすぐ服を脱ぎ捨ててしまう。欲を「抜く」ためだけなら、性器を直接触ればいいのだけど、僕たちは抜くだけじゃ物足りなくて、もっと気持ち良くなりたくて、身体の色んなところを触り合ってしまう。
 今日もベッドの上で裸になって横たわる。さっきまでリード君の性器をおしりに入れていたから、ちょっとだけおしりが痛いけど、この上ない満足感でいっぱいだった。
 僕が仰向けで寝ころんでいると、視界にふわふわとリードくんのしっぽが入りこんでくる。ちょっとご機嫌な様子で揺れるそれをぼんやりと眺めていると、ふと、壁にかわいらしいアクドルの女の子の写真が貼られていることに気が付いた。

「リード君、その子、好きなの?」
「ん?あ、この子?かわいいでしょ?」
リード君が振り返り、その子の写真を見ながらムフフと微笑んだ。

「この子も好きだけど、でも最近、やっぱりイルミちゃんもかわいいなぁって思ってさ。ブロマイド買っちゃった……」

 僕はその発言に思わずぎょっとしたけど、とりあえず「た、確かにかわいいよねぇ…」と曖昧に返した。もしそのかわいいイルミちゃんが、僕だと分かったら、リード君はどうするんだろう。

「リード君は、もし、イルミちゃんと触れ合えるとしたら、どんな気分?」
「え!?そりゃもう、すっごいドキドキしちゃうよね!」
 何も知らない彼は、あっけんからんとした様子で、嬉しそうに話す。
確かに、僕がもしリード君じゃない誰か、例えばアメリさんとか……綺麗な女性ともし触れ合うようなことがあったらと想像すると、もうすごくドキドキしちゃって、恥ずかしくて、その想像を勢いよく揉み消そうとしてしまう。でも、リード君と触れ合うと考えると、なぜだか全然恥ずかしくないし、そこまでドキドキしない。いや、ドキドキはしてるんだけど、なんだかそういうドキドキとは違う気がする。
 僕はうつ伏せで寝転がるリード君のおしりを優しく撫でてみた。ドキドキ。うーん、ドキドキとはちょっと違う。どっちかというと、気持ちよくてちょっと興奮する感じ。

「リード君は、僕に触れて、ドキドキする?」
「え!どうしたの急に」
「その女の子と、僕と、違う?」
「そりゃあ違うよ!イルミちゃんは女の子だし、入間くんは…… あれ?でも、うーん。確かに、ドキドキしてないかって言われると、してる…… 気もする」

 うーん、と目を細める彼のおでこに、僕はちゅっと軽くキスしてみる。すると、彼は驚いたように目をわっと見開いて頬をりんごみたいに赤色に染めた。ドキドキ。

「きゅ、急にやめてよ入間くん」

 ちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべる彼が可愛らしくて、僕は思わずギュッと飛びついてしまった。なんだろうこの気持ち。よくわからないけど僕はリード君を抱きしめていたかった。

「入間くん!!!?」
「ちょっとだけ、ね? いいでしょ?」

 少しだけ身じろいだリード君にめげずに、しっかり身体を抱きしめる。こんなことをしても、リード君はしょうがないなぁ…なんて言いながら、僕の我儘を受け入れてくれる。
 よくわからないけど、僕はリード君の前ではすごくのびのびできる気がするんだ。クラスメイトや先生もみんな大好きだったけど、時々みんなのためにいい子でいなきゃって考えちゃう時がある。それは無理をしてるわけじゃないし、凄くささやかな思いに過ぎないんだけど、リード君と一緒にいる時は、本当に、何も気にしないでいられる。寝っ転がってお菓子を食べたって、裸でゲームをしたって、こんな風に他の人に見せられない欲望を見せたって、一緒になって笑ってくれる。一緒にドキドキしてくれる。僕の全部を見せて、そのままの僕でここにいてもいいんだって思える。そんなことが出来る友達はいなかったから、今僕はすごい嬉しいし、楽しいんだと思う。でも、それを友達と呼ぶのか、僕にはもうよく分からなかった。

「僕とリード君は、特別な友達なのかもね」
「何それ。親友とは違うやつ?」

 僕の腕の中でリード君がちょっと嬉しそうに微笑んでいる。柔らかくて温かくて、とっても気持ちいい。特別な友達。僕の特別でリード君の特別。ふたりだけの、そのちょっと特別で楽しそうな響きに胸がドキドキする。僕たちだけの特別なら、名前なんていらない、そんな気がするんだ。
 でももし、いつかそれに名前が必要になったら、それはその時考えればいいや。