Religion 2 Paz/Togusa(R-18)

 
 
 
 
 
 
 
 
3.
 
 
 
 
 課長への報告はそこそこに、夜の街に繰り出した俺らは行きつけの飲み屋を避け、あえて少し高価なバーへと足を伸ばした。
今までの日常とは違うのだと、お互いのゴーストに刻みたかったのもあるし、単純に美味い酒が飲みたかったのもある。半地下になったそこは、薄暗いバーではあるが乱れた雰囲気はない。気の利いた音楽や調度品が訪れる人に特別感を与え、誰もが一段上の喜びを味わうことができる空間。

 俺は一本の赤ワインを入れ、隊長をもてなす。
トグサも隊長になり以前よりこういった場には慣れてきたようだったが、少し落ち着かない様子でワインに口を付けた。

「……うまっ………!」

 気取らない感想が相変わらずトグサらしい。ブラウンの瞳を嬉しそうに揺らしながらワインを見つめる様子は、好奇心溢れる少年のようだった。
彼はワインに押されるように、今日あった会議の話や家族の話、9課の今後についてを語り、俺はそれを静かに聞いていた。酒が入るとトグサは肌が少し上気し艶っぽくなる。ワインでほのかに黒くなった唇が、言葉を紡ぐたびに滑らかに動く様子を見つめていると、トグサが突然にっこり笑い、俺にささやかなキスをした。

「今日は機嫌が良いですね、隊長」

「敬語はやめろ・・・いつも通りでいいよ」

 珍しく、というか初めてかもしれないトグサのキスは、うっかり忘れてしまいそうなくらいささやかなものだった。
他愛のない会話を愉しみながら、他愛のないキスをする。こんな素晴らしい時間が果たしてあるだろうか?良い音楽を聴きながら、良質なワインとチーズを口に入れた時のような、いや、それ以上の極上のひととき。お互いにふわふわした気分に浸りながら、肩を寄せ合い、過去や未来、そして目の前の風景に思いを馳せていた。

 
それで終わればよかったのだが ――――――――――

 

 バーで一通りの酒や肴を愉しんだ後、俺はトグサに深い口づけをした。トグサはやはりいつもと同じように、キスを受け入れ静かに見つめてきた。俺はそのままトグサの頬や首筋に口づけし、少し乱れたシャツの上から肌の温もりを探った。

「パ、パズ………?」

「静かに。今日は気分がいいんだ………」

 俺は彼のシャツのボタンをひとつ外して、白い胸元に優しく触れた。
トグサは激しく抵抗するというわけでもなく、うつろな目を俺に向けながら何か言いたそうな顔をしていた。

「いいところに、連れていけって言ったのはお前だろ。隊長」

「そういう意味じゃ………」

「同じ意味だろ」

 トグサの首筋に噛みつくようなキスを繰り返し、震える皮膚の繊細な反応を愉しむ。
昼間のトグサの言葉を覚えていた俺は、トグサが今までと同じようにキスに応じる意味を悟った。躊躇すればすべて途中で投げ出され、なかったことにされるのは目に見えていた。すべてを刻み、忘れることや、投げ出すことのできない状態まで何としてでも追い込みたい、という焦りが湧き出てくる。

(俺が焦るなんな……)

自嘲しながら、しかしいつしか忘れていた興奮を思い出しながら、必死に抗う男にキスを降らせた。

「パズ……ちょ……待って……ここ店だぞ……!」

「そうだな」

 さすがの俺もこんな素敵な店で致すのは少々気後れしたので、少し多めのチップを置き、席を立つ。トグサがなかなか立ち上がろうとしないので、腕を掴んで引きずるようにして店を出る。目の前のご馳走を今更放り出すつもりもない。それにお前は今日、意味を求めてしまった。
だからもう戻れない。

「パズ……どこに…………」

「どこがいい? どこにでも連れて行ってやる」

 トグサの目が艶やかな色を浮かべたような気がした。
どこにでも、どこまででも、この黒い道の先へ連れて行ってやる。
トグサの言葉が耳に届く前に、俺は欲望の先を見据えていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「パズ……、や……だ…………!」

 シャツを取り払い、露わになった胸の飾りを舌で弄ぶ。女性のそれとはまた違うささやかな表情や反応が目新しく、逆に妙な興奮を覚える。俺はそれを大層気に入り唇や指先で何度も愛撫した。

「……! パズ、そんな触るな…………!」

「でも、喜んでる、ここ……」

「……そんな、こと……」

 固くなった胸の飾りを舌先で何度も転がしながら、可愛い食べ物を味わうかのように何度も優しく愛撫する。トグサは顔を真っ赤にしながら、俺が与える反応ひとつひとつを受け止めているのが分かった。義体のように刺激を増幅することも切り離すこともできない生身特有の純粋な反応は支配欲をかき立てる。糊の効いたズボンの上から、優しくトグサ自身に触れると、確実に熱を帯びているそれは素直に反応した。

「そんな、とこ触んな……っ……!」

「無理だな」

 トグサの抑制などお構いなしにスーツのチャックを下げ、張り詰めて揺れる生の熱に優しく触れると、トグサが母音交じりの熱い吐息を漏らした。迫り来る快感に耐えている様子がとても色っぽい。人間という動物が持って生まれた温かな熱が指先に染み渡り、それは想像以上に艶めかしいものだった。俺は夢中にその熱を握りしめ、目の前で揺れる人間の欲望を余すところなく見つめた。自然に溢れ出す汗や匂いが、電脳の奥底に潜むゴーストを刺激し、どうしようもなく衝動的な気持ちに支配されていく。
 俺はトグサの体に中途半端に残っていた衣類を下着ごと剥がし取り、生身の肉体を無防備に曝け出させた。彼は逃げるようなおびえるような仕草を見せたが、俺はその曝された肉体を力強く抱きしめた。

「逃げるな」

俺はすかさず、自分に湧き起こる感情と欲望をトグサの首筋に刻んだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
5.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 トグサが何と応えたか俺の電脳には残っていない。
店を出た俺は近くのホテルに駆け込むようにチェックインし、彼をベッドに投げ捨てていた。トグサは逃げることも怒ることもしなかったが、俺が与える行為ひとつひとつに怯えているようにも見えた。

だから、ひとつだけ伝えた。

――――― 俺は、俺がしたいことをしている。それだけだ。だからお前もそうすればいい。

トグサは何も言わず、ただ静かに頷いた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

6.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……あと、トグサ、一応聞いておくが………」

「………ん?」

「今までに、こういうことは?」

 腰から太ももへ流れる丸みに指を滑らせながら、耳元で問いかける。
そして割れ目の間にひっそと隠れた彼の秘部に優しく指を這わせると、その指から逃れようと腰を揺らすので、非常に意地らしく魅惑的だった。

「…あ、あるわけないだろ……!」

 声を上げるトグサの反応は案の定という感じだが、同時に、今まで誰もトグサに手を出していなかったという事実が少々意外でもあった。
とくにバト-の奴。
それとも、俺の頭がいよいよいかれちまったのかなと、目の前の男に随分ご執心な自分に対して、よそよそしい笑いがこみ上げてきた。

「笑うなよ……」

「…いや、違う……つい……」

 俺は余計な考えを振り払い、トグサに軽く謝ってから、サイドテーブルにあった乳白色のボトルを拾い上げる。トグサはそれを見るなり、慌てて俺の腕から逃れようとするが、あまり力の入っていない彼の抗議はじゃれ合いとしか思えなかった。

「そういう無駄な抵抗は、逆に同意と受け取るもんだろ?」

「……いや、ちょっと待ってて…………」

「今更何を待てというんだ?」

 俺は手のひらから溢れるくらいたっぷりとローションを垂らし、指先に絡める。そしてトグサの足を抱えて開き、濡れた指先をゆっくりと秘部に押し入れた。トグサは、足先を頼りなさげに振るわせながら、必死で違和感に耐えているようだったが、彼の意思に反して秘部は、拒絶しようと言わんばかりに、きつく、熱く、抗う。

 力が抜けないトグサを見かね、彼を腹這いにさせて楽になるよう促す。しかし、逆に落ち着かないのか、全身が強ばり上手くいかなかった。結局、正面からトグサを抱きかかえ、首にしがみつかせるような格好になり、俺はかなりやり辛い体勢の中、彼の身体をほぐす形となった。
長めのキスをしながら何度も彼の窄まりに指を通わせ、柔らかくなるまで十分に探り入れる。不安げに揺れるブラウンの瞳は、必死に俺の視線を捕まえようとしていた。俺は額や頬に何度もキスをしながら、彼の不安げな瞳の色に応えた。

「トグサ、そろそろ、入れるぞ」

「……パズ…………」

 トグサの反応を待たず、俺は己自身を無理矢理ほぐした秘部にあてがった。慣らしたとはいえ圧倒的に狭すぎるそこは、力強く拒絶され非常にきつい。トグサが反射的に腰を引いたので、俺は逃すことなく引き戻した。

「……い、痛…………っ……痛い……」

「誰でもはじめは痛いさ」

「パズ、どうしよ……だめだ……やっぱ……」

「今更何を言う」

「……だっ……て………………」

 ゆっくりと腰を揺り動かしてはみたものの、強すぎる締め付けと、首を絞めるといわんばかりにしがみついてくるトグサの腕が、快感どころか苦痛極まりない。随分と滑稽な展開に頭を捻りながら、しかしこのまま引き返すわけにもいかず、とにかくゆっくりと彼の体をほぐしていった。

「……っ……ぁ……パズっ……パズ……!」

 目を強く閉じて痛みに震えながらも腕の中で何度も俺の名前を呼ぶから、俺はそのたびに彼にキスを降らせた。彼はキスをするたびに、閉ざしていた目を開いて何かを確かめるように俺の視線を追う。静かに濡れたブラウンの色は、俺の胸に渦巻く黒い塊を溶かしていく。

「……っ……ぁ…………」

 だんだんとトグサの声が苦痛から湿り気を帯びた甘いものへと変わって行くのが分かる。慣れてきた内部から柔らかい水音が漏れ、甘い声に呼応するように部屋中に響き渡る。俺は腰を引き、抱えていた足を左右に大きく開かせトグサを見下ろした。
白く乱れたシーツに浮かぶ肌の色と、生々しくさらけ出された雄の結び目が艶やかに揺れる様は、非常に倒錯的で……欲望のうねりが腰の奥深くから疼くのを感じずにはいられなかった。

「いい眺めだな……」

「…っ……そんな、見るなよ…っ……」

 絡みつくように形を変える内側を味わいながら、溢れ出す汗や肌の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
トグサが俺の腰に足を絡みつけながら、自分自身をもどかしそうに揺らす。どうやら限界が近いようだ。俺自身も自分の奥底で構える強い衝動を感じていた。

「…ぁ…あ、や……パズ…っ…………」

千切れるほどの締め付けもいつのまにか滑らかになり、徐々にお互いの境界を失っていく。

トグサは一体どんな風に感じているのだろうか?
無機質な俺の肉体から与えられる熱は、果たして彼を満たすことが出来るのだろうか?
疑問からくる黒い塊を頭の端に追いやりながら、迫り来る欲望に身を委ねる。俺はトグサを抱き直し、無防備に晒された耳たぶや首筋に舌を這わせながら、滴る汗を舐めとる。

「…ぁ、あ…っ……!」

 息を呑むような熱い吐息を漏らしたトグサの様子に満足し、俺は張り詰めたトグサ自身に指先を絡ませ早急にしごきあげていく。熱く腫れあがった彼の欲望をすくい上げながら腰を打ち付けた。

「パズ………だめ、もう…もう………」

「言い訳は………後で聞いてやる……っ…」

「……んっ…っ…あ……それ……こっちの台詞………っ……!」

 トグサが勢いよく欲望を解放するのを見届けて、俺自身もトグサの腰に力強く欲望を解き放った。境界が溶け合うのを感じながら、肉体から溢れる熱を強く抱きしめた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
7.
 
 
 
 
 
 
 

―――――俺は、俺がしたいことをしている。それだけだ。だからお前もそうすればいい。

今思うと随分身勝手な発言をしたものだなと思う。
トグサがそれをどこまで理解していたのか、今更聞くつもりもないが、あまりロマンチックな解答を求めるのはやめた方が良さそうだ。

2本目の煙草に火を点け、隣で背を向けて丸くなる男の髪を撫でた。

「トグサ」

「………………」

「隊長」

「なんだ」

「なんだと思います?」

 薄茶色の、犬の毛のような髪を撫でながら、意地らしく問いかけてる。
しかし、トグサは相変わらずそっぽを向いたまま全く応えようとしない。

「トグサ」

「………………。」

「隊長」

「なんだ」

「煙草、吸いますか?」

 撫でていた髪を指に絡ませながら、何気なく聞いてみた。
するとトグサは気怠そうに体を起こし、俺の手を振り払いながら

「一本」

そう命令した。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Ep.

 
 
 
 
 
 
 
 

 それからというもの、別段今までと変わりない生活を送っていた。
強いていえば、キスと同じようにトグサと体を重ねる回数を少しずつ積み重ねているという位だ。お互いが多くを語ることはなかったし、おそらくこれからも語ることはないのだと思う。ただ思うのは、今なら何を語ろうとそれに応えるだけの覚悟はできているということだ。

 着地点などありはしない。
ただ続く道の先を見つめながら歩くだけだ。そこに誰がいようとも、誰もいなかろうと構わない。

「パズ、聞いてるのか?」

「ああ……聞いてない。」

 煙草をふかしながら、目の前にいる不機嫌な男を眺めるのが最近の楽しみになっている。
休憩中に仕事の話なんかしても聞いてるわけがないだろうと愚痴をぶつけると、さらに眉間の皺を深める。

俺はその表情を見届け、唇についばむようなキスを落とした。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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※パズトグ(小説)、パズトグ(R-18 /R-15) リクから
キスから始まるラブロマンス?的なパズトグでした。一応義体化前のトグサ隊長と、側近パズという設定です。
惚れているんだけど面倒な理由をつけて言葉にしない臆病でセンチメンタルなスケコマシと、まんまんと落ちる若パパ。
 
 
 
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