「…っ、…ぁ……っ!」
今日、彼はすごく気持ちよさそうに声を漏らしている。いつもは恥ずかしそうに声を押し殺してしまうから、勿体ないな、もっと声を聞かせて欲しいなと思っていた。今日はどうしたんだろう? もし声を押し殺すことが出来ないくらい気持ち良いのだとしたら、凄く嬉しい。
「……りょ、う……っ………りょう…っ!」
「優一さん、どうしたの?」
「…ぁ……あ…っ………」
中は確かにとろとろに溶けてすごく気持ちがいいし、いつもより内壁がぎちぎちと締め付けて俺を離そうとしない。ぐちゅりといやらしい水音が容赦なく漏れて、中をたっぷりと満たしているのが分かる。
「……っ、あ、………まっ…て、……おかしく…て……っ……」
顔を真っ赤にしながら懇願する。いつも以上に表情がだらりと下がり、とても淫らだ。
「……っ、あ、こんなの…っ………ぁ……」
「気持ちいいの?」
「……っ、ぃ……ぁ…だ、め……っ…」
ぐりぐりとかき回すようにゆっくりと腰を動かすと、たまらないといった様子で首を横にふる。動くたびにはたはたとほとばしる汗が、顔の表面や髪をしっとりと濡らし熱に浮かされている表情に彩りを添えている。
「今日、優一さん、すごい、かわいい……」
「…っ……ぁ、や………ぁ、……っ……」
熱い吐息を何度も漏らしながら自分自身の手を胸元できつく握りしめている。その腕で俺自身を抱きしめて欲しいのに、何かに流されないように必死に耐えているようだった。とろとろと溶ける内側をかき回していると、時折どくどくと熱く脈打つ少し硬い感触に触れる。ここが彼の気持ちの良いポイントなのは既に熟知していたので、そこを意識しながら優しく擦ったり突き上げたりしてみる。
「…っ…!………だ、め…っ…あ、あ………!」
案の定、ビクビクと激しく体を跳ね上がらせ、甘い声で喘ぐ。これでようやく、彼の身体が内側の刺激に馴染み、より敏感になってきたということを理解した。長い日数をかけて何度もゆっくりと後ろの入り口を開発したかいがあったというものだ。
「ここが好きなの?」
「あっ、やっ………だ、め…っ……ぁ……っ…」
きっとすごい気持ち良いんだろうな、と思うと、腹の底からとてつもない甘美な疼きが迫り襲ってくる。いつも俺に語りかける優しい声は、一層に甘く、高い声色で言葉にならない音を漏らしている。じんじんとした刺激なのだろうか、少しくるしそうな、痺れるような刺激を想像しながら、それにさいなまれている彼を愛おしく眺める。
「…っ、……ぁ……も、う、…おかし、いよ…りょう……」
「気持ちいいの?」
「……ぅ、…すごい……へ、へん……どうし、よ……」
未知の刺激に正直に困惑している様子が愛おしい。俺はそんな彼を安心させたくて、今までで一番優しいキスをする。
「ねぇ、優一さん、このまま続けていい? 壊れちゃうかもしれないけど……」
「りょ、う……」
「でも、大丈夫だよ。すごく気持ちいいだけだから、きっと。だから……」
「亮……ぼ、く……」
不安げに固く握られた彼のこぶしをそっと解いて、背中に回すよう誘導する。ぴったりと体を絡ませてから再び彼の顔を覗き込む。
「優一さん、見て。こっち。目、開けて……」
「…ん……」
ぎゅっと閉じられていた目蓋をそっと持ち上げる様子を見つめる。目蓋が持ち上がると、一筋、つ…と繊細な涙が頬を伝った。健康的な白目は真っ赤に充血していて少し痛そうだった。
「怖かった…? ごめんね」
「…んン、大丈夫。大丈夫だよ」
潤んだ瞳を揺らしながらふんわりと微笑む彼の様子は、間違いなく俺の大好きな森野優一だった。
「…はぁ、ほんと、優一さん、かわいい。好き」
「…かわいいとか、言わないの………」
むっとした表情を作る彼はやっぱりかわいいとしか思えなくて、愛おしい顔に俺はまたキスを降らせた。少し緊張が和らいだのを確認できたので、またゆるりと腰の動きを再開する。
「今日は、このまま、ここだけで気持ちよくしてあげる。」
「……っ、……りょう……」
「いっぱい気持ちよくなって。俺、ここにいるから、大丈夫」
怖がらないでと、耳元で囁いてから、できる限り優しく彼のとろける内側に向けて律動を開始する。おおよそ、彼の敏感な場所や好きな刺激、ちょっと痛くて苦手な刺激なんかも分かってきていたから、あとはとにかくいっぱい気持ちよくしてあげるだけ。
「…っ………ぁ、ふ、…ぁ、……っ……」
素直な反応が珍しくて、愛おしくてたまらない。
少しだけ年上の彼。俺が10代の頃から大好きだった彼が、今こうして大人になった俺に、快楽や感情の全てを委ねてくれていることがたまらなく嬉しかった。昔は俺よりも少し背が高くて、ずいぶんと大人に見えたけど、今は俺の身体より小さくて、社会に出てやっと同じ目線に立てた。
「……ぁ、あ、…りょ、う……き、もち…………」
「うん」
俺のことを後ろからずっと見ていてくれた彼を好きになって、感情と欲望の赴くままに何度も抱き合ったけど、あの頃はまだ自分のことしか考えられなくて、今思うと俺は彼の優しさに甘えていただけだったんだなと気が付いた。
こうしてまた再会しても、また俺と向き合ってくれていることが嬉しくて、愛おしくて、だからこれからは俺もちゃんと考えていくと決めたんだ。
「…っ……りょ、う……ぁ、あ……も、う………」
必死にしがみついてくる彼の身体を力強く抱きしめながら、敏感な場所を執拗なくらいに攻め立てていく。彼の足が俺の身体に蛇のように絡みつき、離さないと言わんばかりの様子でしがみついているのが伝わってくる。汗で滑る身体を抱き止め、甘く突き上げるような声で喘ぎ続ける愛しい人を全身全霊で感じる。
今はとにかく最高に気持ちよくなってほしい。今までにないくらい。
「……いいよ、いつでも出して………」
角度を調整し、彼のお腹に向かって突き上げたり擦り付けるように動いたりしながら、とろとろに溶け合う中の温かさを堪能する。入口付近まで腰を引き戻して、少しだけ咥えさせた状態で腰をかき回すと、とても気持ちよさそうに顔を歪めた。
「…ん、ぅ………っ、ぁ、……や……」
快楽でいっぱいの様子を確認したタイミングで、かき回した腰を再び彼の奥へ突き上げるようにして進める。押し出すように、貫くように、それでもできるだけ優しく腰を動かしながら、彼の内側でうごめく欲望を絡みとっていく。
「…あ、ぁ、……い…………っ、…!……」
ひときわ甘い声を漏らすと、きゅうと内側の壁が閉まり、腹のあたりに温かな感触がほとばしるのを感じた。彼が果てたということを理解した俺は、そのしっかりと締まった内側に腰を打ち付け、一気に精を解き放った。
それから、お互いそのままぴったりと身体をくっつけたまま、しばらくそこから動けないでいた。俺は倒れこむように彼の身体に体重を預け、シーツに顔を埋めている。なんて声をかければいいかわからない。とにかく俺はすごく嬉しい気持ちでいっぱいだった。でも、彼が何を感じ、何を思ったのかを確認できるほどの勇気はなかった。
「亮、起きてる?」
ぽつりと、投げかけられる。俺の思いを見透かしているのだろうか。
彼は俺が言葉欲する時、必ず声をかけてくれる。
「うん」
でも、ただ相槌を打つだけで次の言葉が見つからない。
「その、今日、すごく……気持ちよかったよ……」
聞こえるか聞こえないかの声でそっとささやかれた。
率直すぎる感想に、俺は頭が熱くて、喉がきゅうと締め付けられて声も出なかった。そしてこの優しくて、幸福な、まどろむ心地にずっと浸っていたいと思った。
頭も胸もいっぱいな気持ちを抱えながら黙っていると、背中を優しく撫でられている感触が伝わってくる。俺は自分の目頭が熱くなってしまっていることを自覚し、おさまるまでこのままシーツの影に隠れていようと心に決めた。