「へぇ、いいじゃん、これ」
新しい玩具を手に入れた子どものように、ハセヲは嬉しそうにトンファーを振り回す。
今日は「中華三昧」と呼ばれる異文化交流型のコラボイベントが開催されていた。The Worldではこういった限定イベントが定期的に催されている。「中華三昧」ではフィールド全体に中華風のデザインが施され、PCの衣装や武器まで変わるということで、告知当時から大賑わいだった。
「ハセヲ、それ使うの難しくないの?」
「双剣とそんなに変わんねぇよ」
いつもだったらこういったイベント事に無関心のハセヲだが、今回は珍しくはしゃいでいる。なぜなら、このイベントに合わせて「カンフーアリーナ」が開催されているからだ。通常のジョブウェポンがカンフースタイルに変更され、お互い使い慣れない武器を使用してのバトルとなる。そのため、よりバトルにスリルを求めた強者たちが腕試しと言わんばかりに、アリーナに続々と集まってきていた。正直そんな危い企画に参加するつもりはなかったが、ハセヲは当たり前のようにシラバスを頭数に入れ、対戦登録をしてしまったのだった。
「俺からすると、そっちの棒を振り回す方が難しそうに見えるぜ?」
「あはは。振り回してれば当たるから、そうでもないよ」
「ふーん」
軽快な打撃音が、轟く歓声に混ざり合い新鮮な音楽を奏でている。
他愛のない話をしながら、お互いの武器を振り捌く。使い慣れた剣とは違い、確かにリーチも攻撃を当てるタイミングも違うから、ハラハラドキドキして仕方ない。しかし、目の前の剛腕なPCに臆することなく、果敢に飛び込んでいくハセヲの背中があるだけで、そんな緊張もわくわくした興奮へと変わっていく。
「シラバス!とどめだ!」
ハセヲが相手を足元から蹴り上げ、見事な連続技で宙に浮かせる。大抵そうなった相手には虹色のエフェクトがかかり、連撃可能状態へ陥る。
ハセヲが投げた敵を拾い上げてとどめを刺す。こんな戦い方をするようになったのはいつからだろう。仲間を頼らないプレイスタイルだったハセヲが、いつの間にか連携技を楽しんでいる。
「よっしゃ!決まったな!これで2勝だ!」
この調子なら優勝しちまうかもな~と余裕の表情を浮かべながら、ハセヲはシラバスの隣で笑っていた。
ハセヲと一緒なら、本当に勝てるかもしれない。不思議とそう思えるのだった。