ジョセフ・ジョーンズ、28歳。実は最近悩みがある。
それはとっても高飛車でハンサムな、とびきり色っぽい恋人とのセックスに関することである。
つまりそれはなんと言ったらいいのだろう。非常に恥ずかしい話なのだが、引き伸ばしたところでもっと恥ずかしくなりそうだから単刀直入に言おう。それはずばり “尻の毛” に関してである。
実のところ、俺はシーザーとのセックスにおいてはタチである。しかし最近シーザーが俺の尻に興味を持ち始めたのだ。元々シーザーは長い間タチ専だったので、俺の尻に興味を持つのは生理現象のようなものかもしれない。しかし俺はまだネコをやる覚悟が出来ていなかった。シーザーはいつだって俺の意思を尊重してくれるので無理矢理ケツを奪われるような事件は起きていないが、間違いなくシーザーは俺が「YES」と言うのを今か今かと待っている。
正直、シーザーに抱かれること自体は悪くないと思う。シーザーはタチにも慣れているから悪い経験になることはないだろう。シーザーが俺を抱きたいと言うのなら、そろそろ覚悟を決めようか…… そう思った矢先、俺はふと気が付いてしまったのだ。尻の毛の存在に————
ここだけの話、シーザーには気になる毛が見当たらない。あの美しい金髪ということもあって、体毛が目立たないというのもある。しかしそれにしたって男にしてはかなり少ないように思う。もちろん尻にもそれらしいものは見当たらない。彼のことだ。もしかすると脱毛サロンにでも通っていたのかもしれない。
俺は今まで自分の体毛について考えたことはほとんどなかった。おそらく、多くもなければ少なくもない。周りの女性に何か指摘されることもなかった。しかしシーザーと出会ってからというもの、もしかして俺は毛深いのではないかと思い始めている。少なくともシーザーに抱かれる以上、それなりに身体の毛に気を使った方がいいだろう。
俺は渋々メンズサロンを検索する。さすがはニューヨーク、それなりの件数がヒットした。しかしこのサロンに行って、俺は一体何をするのだ? 抜くのか? それはあまりにも痛いのではないだろうか?
ここは誰か経験者にでも意見を求めたいところだが、そんな話を聞ける人物は俺の周りにはいない。さて、どうするべきか……
「何を調べてるんだ?」
「わーーーーーー!!!」
いつの間にか部屋に入ってきたシーザーに、PC画面を覗きこまれ、俺は慌ててブラウザを閉じた。
「何? 隠し事とは珍しいな」
「べ、別に隠し事ってほどじゃ……」
「じゃあ何調べてたんだ?」
「それは……」
シーザーに問い正され、俺は仕方なくブラウザを開き直す。結局のところ、こういうことは熟練者に聞いた方が解決は早そうだ。
「え! 何? 脱毛するの!?」
「……う、うーん。した方がいいかなと思って」
「何で? どこを? 別に抜くような場所ないだろ?」
俺は口ごもりながら、シーザーから目を反らした。
「……尻を……」
「は? ケツ?」
シーザーは目を見開いたまま、瞬きを繰り返している。そして俺に向かって勢いよく指を差して、ケラケラと笑い出した。
「いやいやいや。尻って! え! そんなの気にしてんの!?」
「だ、だって! シーザーがそろそろネコやんないかって言うから……」
「だからって……てかお前、ケツ毛生えてんの? うっそ、ちょっと見せてみろよ」
「やだよ!」
シーザーが面白がりながらズボンを引き下ろそうとするものだから、俺は必死に抵抗した。
「大体なぁ、知らない奴にジョセフのケツを見せるなんて絶対に許さん! 店に行くくらいなら俺がやる!」
「でもさ、シーザーは……気にならない? 俺の毛……」
俺はちょっと恥ずかしかったが念のため聞いてみた。
「ジョセフの毛なんか気にしたこともねーよ。ケツ毛だろうが鼻毛だろうが可愛いもんさ」
「で、でも……シーザーは脱毛したことないの?」
「あるよ」
「あるの!?」
「ああ。だいぶ前だけどな」
「じゃ、じゃあやっぱり俺も行ってくるよ!」
「だから、店に行くなら俺がやるって」
シーザーはニヤニヤと楽しそうである。
「大丈夫だ。俺は今までありとあらゆる色んなケツを抱いてきた。毛深いものからつるつるまで。俺の懐は深い。そもそもジョセフのケツならどんな姿形だろうと間違いなく愛せる」
シーザーは流暢に力説し始めるが、その内容はだいぶ気の狂ったもののように思えた。
「う、うーん……」
「それで。脱毛まで考えてるってことは、そろそろ心の準備が出来たってことか?」
「う、うーん……まぁ、うーん……」
シーザーが気にしないのであればいいような気もするが、しかし俺は自分の尻に自信が持てなかった。尻に自信もクソもない気もするが。
「大船に乗ったつもりでいいぞ。大丈夫。俺に任せろ」
シーザーはこの上なく綺麗な笑顔を浮かべて下世話なことを言い始めた。
「……う、うん……分かった」
俺がしぶしぶ承諾すると、シーザーはパッと嬉しそうな顔を浮かべて、チュッと額に短いキスを落とした。
「じゃあ始めようか」
「え!いや、今はさすがにちょっと……」
「んー? まぁせっかくだし、ちょっと試してみようぜ?」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと!待っ……!」
俺の制止をもろともせず、シーザーは楽しそうに服を剥がし取り始めた。これはヤバイ。今日こそはヤバイ気がする……
それから、シーザーが剃毛プレイに目覚めるまでに、そう時間はかからなかった。