いつ眠ったのかまるで思い出せない。しかし目を覚ますとベッドで毛布にくるまっていた。ヨシュアは思わず飛び起きて窓を見る。外はほんのりと明るく、静かだった。腕時計に目を移すと午前6時を過ぎたところだったので、ヨシュアはベッドから降りてそっと隣の部屋を覗いてみた。
「おはようヨシュア。よく眠れた?」
しかしジョセフは既に起きていたようで、朝早くからキッチンに立っていた。
「お、おはようございます!早いですね」
「昨日は意外と早く寝ちゃったからね。それよりヨシュア、ちょっと頼みがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「コーヒーを淹れてくれないか?」
ジョセフは豆袋とカップを持って微笑んだ。
「もちろんです!任せてください!」
手渡されたのは簡素なドリッパーと、手挽きのミル。市販の薄っぺらいフィルターに、市販のコロンビアコーヒー豆だった。それらを前にヨシュアは細心の注意を払いながら、出来る限り美味しい一杯を淹れるために頭をひねった。シンプルすぎるコーヒーセットでは出せる味に限界はある。
まずは自分用に無難な豆の挽き加減と湯加減で一杯淹れてみた。試飲すると案の定といった味わいだ。しかし一番問題なのは水のような気がした。冷蔵庫を開けてみるといくつかのウォーターボトルが並んでいる。ファイヤーアイランドには充実した水道設備がないため、小売店で買い込んだ飲料用の水だった。
「これだ。たぶんこの水、硬水だな」
ヨシュアは沸かした湯を見つめながらふと、波紋で水の性質を変えられないかと考えた。硬水を軟水にできればきっとコーヒーがもう少し美味しくなるに違いない。ヨシュアはカップにお湯を注ぎ、グラスに指を添わせた。水の中に波紋を流し、ぐるぐると渦を巻き起こしていく。
「何してるの?」
ジョセフがキッチンの横から訝し気にヨシュアを見つめた。
「あ、波紋で硬水を軟水に変えられないかなって思ったんですけど……」
手元で渦を巻くお湯を見つめながら、ヨシュアは眉をひそめた。
「どうすればいいんでしょうね?」
「うん? 俺もそれは分かんないや……」
「ですよね……」
二人は目を合わせて笑った。
Voyage -Day 2 (R-18*)
波紋でちょっとだけ味の変わったコーヒーを飲んだ後、二人は朝から海岸まで足を伸ばした。波打ち際には色々なものが打ち上げられている。ガラス瓶の破片、粉々になった貝殻、真っ白くなってしまった蟹の死骸。
そんな奇妙な届け物を贈る海の表面は、コーヒーグラスや観葉植物の葉っぱと同じように、キラキラと太陽をすくっている。風が吹けば波がはらはらと太陽を撫でる。穏やかな波はボートが通るだけで様子を変える。何もかもが、とてもダイナミックで繊細だった。
「ヨシュアって泳げる?」
「泳げなくはないですけど……でも、得意ではないです。子どもの頃、湖でたまに水遊びしてたくらいなので」
「せっかくだし、ちょっと泳ごうよ」
ジョセフはヨシュアの返事を待たずに、砂を蹴って海へ飛び込んだ。ジョセフはまるでイルカのように水中を滑らかに泳いでいく。
「ヨシュア、早く来いよ!」
「は、はい……」
ヨシュアはほとんど水泳の経験がなかった。海に少し足を踏み込むだけで、何かにぐいぐいと引っ張られるような感覚に足がすくむ。一歩、また一歩と踏みしめ、ようやく腰のあたりまで浸かったところで、沖の方から大きな波がうねった。それはそのまま壁みたいに伸びて、容赦なくヨシュアの頭を飲みこんだ。ヨシュアは声を上げる暇もなく波の渦にぐるぐると巻き込まれ、どっちが上なのか下なのか分からなくなった。自由の利かない海の中。ただただ強い流れに吸い寄せられ、ヨシュアは恐怖した。とにかく力いっぱい手足をばたつかせていると、腕がぐいっと大きな力に引き寄せられ、身体を抱きしめられた。目を開けるとそこには青くて途方もなく澄み切った夏空が輝いていた。
「大丈夫?」
「死ぬかと思った……」
ジョセフに抱き着いたままヨシュアは海の表面を漂っていた。
「水の中も波紋の呼吸をすれば楽だよ」
どうやら波紋の呼吸を使えば、何十分も潜ったり、波のうねりや水の寒さにも耐えられるらしい。正直、泳げると言っても水の上で浮いたり、立ち泳ぎが出来る程度だったヨシュアは早々に自分の呼吸を意識した。
「そうだな。今日は海でトレーニングするのもいいかもしれない。呼吸をコントロールするのにはもってこいだ」
ジョセフはヨシュアの手を取り、波紋をゆっくりと流した。
「な、なにするんですか!?」
「呼吸に集中しろよ。潜るぞ」
「……え、待っ……!」
ヨシュアの悲鳴が響くと同時、ザッパーーンっとひと際大きな波が海面に飛び散る。そして次の瞬間、足、そして胴体に何かがまとわりつくような感触に襲われ、そのままぐんっと海中にひきずりこまれた。目を開けることもできず、世界は真っ暗だ。これは死ぬかもしれない。ヨシュアが本気で恐怖した次の瞬間、見覚えのある波紋を感じ、ヨシュアはすかさずそれにしがみついた。そうしているだけで自然と呼吸が楽になっていく。
ヨシュアは暗闇の真ん中にいた。
でもそれは、目を開けるのが怖くて目蓋を閉じていたからだ。
まるで独りぼっちのような暗闇だったけど、確かにここには波紋がある。ジョセフがいる。
今確かなものは、しっかりと抱きしめたジョセフの身体がここにあるということだけだった。
「はぁ、はぁ……」
「凄いぞヨシュア、20分は海に潜ってたぞ」
「え、そんなに!?」
海面に戻ると、ジョセフがすぐ傍でヨシュアの顔を覗き込んだ。眼前に広がるジョセフの満足げな顔を見て、ヨシュアはほっと胸を撫でおろした。ジョセフの肌が太陽をきらきらと反射している。澄み切った青空を背景に満面の笑顔を浮かべるジョセフは、羨ましいくらい開放的な様子だった。
「この調子で頑張ろうな」
ジョセフの無垢な励ましに、ヨシュアはただ頷くことしか出来なかった。
それからしばらくトレーニングを行い、二人は二日目の修行を終えた。
「今日はこのくらいにするか。もうだいぶ陽も沈んできたし」
「……あっという間ですね」
すっかりびしょ濡れになった二人はしばらくの間、浜辺に座って沈みゆく夕陽を眺めていた。海風が少しずつ服を水分を飛ばしていく。
「今日でわりと波紋の呼吸が分かってきたんじゃないか?」
「そう、かもしれません。昨日よりかは……」
ヨシュアは自分の呼吸を確かめながら、隣に座るジョセフの横顔を見つめた。
「…ジョースターさんはなんで、俺に波紋のことを教えてくれたんですか?」
ジョセフはぼんやりと夕陽に染まる景色を眺めていた。しばらくして何かを言おうとした後、結局言葉を飲み込んでしまった。
「……ヨシュアこそ。なんで修行しようと思ったの?」
ジョセフはまるで質問の答えのように、逆にヨシュアに問いかけた。
「それは……」
しばらくヨシュアが言葉に迷っていると、ジョセフは口を開いた。
「……俺やシーザーは、修行するしかなかった。しないと死ぬ。それくらいの状況だったから死にもの狂いで修行した。でもヨシュアは違うだろ?」
ジョセフの言葉にヨシュアは黙った。
「こんな平和な時代だ。もう何かに命をかける必要なんてないんだ。それなのに波紋使いの奴らって生き急ぐというか…… そういう “わけあり” なヤツばっかでさ……」
ジョセフは遠い目をして、そっと笑った。
「……それじゃたぶん、俺も “わけあり” なんですよ」
ヨシュアは笑いながら、頬にある痣をそっと撫でた。
「……そろそろ、帰ろうか?」
ジョセフが立ち上がると、ヨシュアはすぐにその背中を追いかけた。二人は家に向かって誰もいない砂浜を歩いた。そこはまるで何もかもから解放されたみたいに、二人ぼっちだった。世界を二人きりで歩いていると、穏やかな風が心地よく肌を撫でてくれた。
―———— 気持ちいい
深呼吸をすれば、世界中のエネルギーが全身を駆け巡るような気がした。その心地はヨシュアの胸を震わせる。今この瞬間、ヨシュアはとてつもない幸せを感じたような気がした。
ヨシュアは思わず渚を走り出す。オレンジ色に染まる空と、その下で静かに一日を受け止める海。そのコントラストを眺めながらヨシュアは小さな波が打ち寄せる海岸線を走った。海の日差しは熱いが、夕方の太陽は角が取れたみたいに穏やかだ。海岸の風はぴりっと冷たくて、ほんのりと生臭い。これが海の風なんだ。
「ジョースターさん!」
ヨシュアは振り返り、後ろを歩くジョセフに向かって思いっきり走り出す。そしてゴールに飛び込む子どもみたいに抱きついた。そんな乱暴なハグにも関わらずジョセフはその大きな腕で抱きとめてくれた。ヨシュアは彼の腕の中にいられることが嬉しくて、その顔に思わずキスを降らす。何度も何度も。
ジョセフと目が合うと、たぶんきっと、彼も同じ気持ちでここにいるんだと分かった。ヨシュアはジョセフの腕をすり抜けて、再び渚を走った。海風が肌を優しく撫でる。踏み込む足が生きている実感を与える。
「ヨシュア!」
後ろからジョセフが手を振っている。ヨシュアはもう一度、一目散にジョセフに向かって走った。大好きな人が腕を広げて待っている。ヨシュアはジョセフの腕の中に飛び込んだ。勢いよく飛び込んだにも関わらず、身体をしっかりと抱きとめてくれて、ヨシュアはしばらくそこから離れなかった。ジョセフが額に長いキスをして、今度はヨシュアがジョセフの頬に甘えるようなキスをした。
「ジョースターさん。こっち、乗ってもいいですか?」
「どうだろうな。腰が折れるかも……っ…!」
ジョセフが断る前に、ヨシュアは背中に飛び乗った。ちょっと勢いが余ってしまい、ジョセフは2、3歩よろめいたがすぐに立ち直った。
「全然大丈夫じゃないですか!」
「いやー、結構、だいぶ重いぞ……」
ジョセフは本当にちょっと辛そうな様子だったが、しっかりとヨシュアを担いで離さなかった。ヨシュアはジョセフの首に腕を回して、背中に心を預けた。
遠くでは太陽が水平線を目指していた。きっともうすぐ2つは溶け合う。大きな空と海の間を優しい太陽が泳いでいる。そんな美しい世界を眺めていると、ジョセフの温かい波紋が背中から伝わってくるのが分かった。波紋が深く通じ合う感覚に身体が熱くなる。その熱は生きている者の熱だった。
「そろそろ行こうか」
「そうですね……」
ヨシュアはずっとここにいたい気持ちになった。しかしジョセフがゆっくりと海岸から帰路へ向かったので、砂浜を抜けたところで背中から降りた。その代わりジョセフはしっかりと手を握ってくれた。しかしその指先の熱は身体の奥底の熱をじんわりと呼び覚ませる。ヨシュアは間違いなく興奮していた。顔が赤くなっているような気がしたが、夕闇のおかげでどうにか誤魔化せた。
二人はすっかりしょっぱくなった体を引きずって家に帰った。
「俺、先にシャワー浴びてもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「すみません。すぐ終わるんで!」
ヨシュアは身体に熱を抱えたまま、バスルームに飛び込んだ。ジョセフも汗だくなのは分かっていたがこの熱は早々にどうにかしないとまずい。ヨシュアはシャワーから冷たい水を出した。それからしばらく冷水のシャワーを浴びていたが、なかなか熱が収まらない。ヨシュアはこのままここで熱を抜いてしまおうかと悩んだ。
「ヨシュア? 大丈夫?」
バスルームの向こうからジョセフが声をかけてくる。彼も汗だくなのに先にシャワーを譲ってもらったのだ。あまり待たせるわけにもいくまい。
「すみません!……もうすぐ、出ます!」
ヨシュアは叫んでから冷水を温水切り替えて、自分のそそり立つ雄に手を伸ばした。このままバスルームを出るのはまずい。さっさと終わらせてしまおう。
「……く…っ、ん…ぅ……」
しばらくご無沙汰だった雄は少し抜くだけでむくむくと大きくなり、あっという間に張り詰めた。気持ちの良い熱にヨシュアは思わず息を吐いた。
「おさまらないの?」
すぐ後ろで声がして、ヨシュアは思わず振り返った。すると真後からジョセフが手元を覗き込んでいた。
「な、なんで入ってきてるんですか!!」
「だって遅いんだもん」
「だからって! 出てくださいっ……あっ」
ヨシュアが怒鳴り散らすのにも臆せず、ジョセフはヨシュアを後ろから抱きしめ、そそり立つ雄をぎゅっと握り込んだ。
「やめて、ください……っ…」
「でも、こんなになってるし」
ジョセフが耳元で囁く。その低くて扇情的な声に鼓膜がぶるりと震える。ぴったりと抱きしめられた肌の隙間にジョセフの固くなったものが当たり、ヨシュアは息を詰めた。そうしている間にもジョセフの太い指がやわやわとヨシュアの性器を撫でる。体中が甘い熱で張り裂けそうだった。
「……だめ、です。こんなことしたら……」
ヨシュアが抵抗すると、尻の割れ目に沿ってに固い熱がぐいぐいと押し当てられる。
「…あ、あ、…や、だっ……」
思わず腰を引いた隙に耳たぶを甘噛みされ、首筋に舌を這わされヨシュアは首をすくめた。それにも関わらず、ちゅっちゅっと甘い音を立てながら、ジョセフは後ろからキスを降らせ続けた。
「ふふ……しょっぱい」
ジョセフは何か美味しいものを見つけたかのように、ヨシュアの肌を舐め始めた。舐められながら尻の隙間に熱を押し当てられ、ヨシュアは恥かしさのあまり何度も首を横に振った。おそらくもうジョセフには気持ちがバレている。ジョセフには自分の波紋の状態が筒抜けなのは分かっていた。それでも拒絶を示さないといけない気がした。
だって、こんな場所で、一度でも過ちを侵したら言い訳は出来ない。きっと彼だって分かっている。これはしてはいけないことなんだ。
「だめです……」
「……ここには、誰もいないよ。誰も知らない」
その言葉にジョセフと二人きりであることを強く意識する。今更だが、自分たち以外にここには誰もいない。こんな場所に誘われて、ついてきてしまった。ジョセフと旅行に行くという話になったとき、少し期待した気持ちがあったのは事実だ。しかし思った以上に修行に真剣な様子のジョセフを見て、自分の下心は捨てることにしていたのだ。それなのに――――
「だめ、です…… こんなことしたら、俺、もう…… 止められない… 言い訳なんて、できないです…」
「いいよ、しなくて」
明瞭な声は真っ直ぐヨシュアに向けられた。あまりにも迷いのない言葉に、ヨシュアは何を言えばいいのか分からなくなる。ジョセフは蛇口をひねり、シャワーを止めた。
「ヨシュアのこと抱きたい。抱かせて」
その言葉にヨシュアの防波堤は崩落した。
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ジョセフの大きな手が肌を撫でるたびに、陸に上がった魚みたいに身体がぴくんと跳ねる。今ならなぜジョセフとのセックスがなぜこんなにも気持ち良いのか分かる。ジョセフの指先から繊細に溢れる波紋が愛撫をしているからだ。ただ身体に触れるだけじゃない。波紋それ自体に撫でられ、引き寄せられ、身体の奥底まで、まるで細胞一つ一つにキスをされてるみたいに、波紋でたっぷりと愛撫されていたのだ。
「あ、ああ……あっ、あ……!」
ヨシュアの身体はその刺激を隅々まで受け止めてしまう。ジョセフの波紋に自分の波紋が自然と反応してしまう。与えられる刺激の全てがヨシュアの感覚を甘く痺れさせた。
「…ぁ、んっ……ア、アっ……」
バスルームを出たらすぐに押し倒された。バスローブを纏うのも束の間、すぐに身体を剥き出しにされ、まだ濡れている身体にジョセフは噛みついた。何度も執拗に舌を這わされ、柔らかい肉を甘噛みされ、筋肉をたっぷりと撫であげられ、まるで肉食獣が獲物を捕らえたみたいにジョセフは身体を貪った。
余りにも激しい愛撫に思わず逃げ出そうとすると、ジョセフは腕を掴んで引き寄せた。掴まれた腕がゆっくりとベッドに押し付けられると、そのままヨシュアの唇を奪った。
「…ん、ふ、ぅ……」
呼吸を食らうようなキスにヨシュアは翻弄される。しかし強く求められているいう事実に、ヨシュアの熱はむくむくと膨れ上がった。大好きな人が、憧れの人が、自分に欲情している。その強烈な実感は身近な恋愛では知りえなかった深い欲望をひきずりだしていく。まだ肝心なところには指一本触れていないというのに、先走りが溢れてヨシュアの雄はとろとろだった。
「……気持ちいいんだ?」
ジョセフはわざとらしく零れ落ちた蜜を指で撫でた。いっそそのまま、張りつめた雄を握って欲しい。しかしジョセフは蜜をすくい、ほんのりと皮を撫でるだけで確かな刺激をくれない。ヨシュアは我慢が出来ず自分で触れようとするも、結局ジョセフは腕を絡め取ってしまう。そんなことをもうずっと繰り返している。
「ジョースターさんっ……!も、もう、出したい、です…!」
「んー? まだちょっと早いかな……」
ジョセフは瞳の奥に熱い欲望を燃やしたままにっこりと笑った。
「…ぅあ……お願い、です……」
ヨシュアは懇願するも、ジョセフはただじっと見つめるばかりで、いつまでも焦らし続けた。ヨシュアの性器はすっかりそそりたち、今すぐにでも解放を求めて白い密をとろりとろりとこぼしている。ヨシュアは張り裂けそうな熱を抱えきれず、ジョセフにしがみついた。そのまま腰を揺らしながらなんとかジョセフの気が変わるよう求めた。ジョセフの欲望を逆なでするように、耳たぶに舌を這わせ、首筋を甘く吸いながら、ジョセフ名前を呼び続ける。
「……ヨシュア、あんまり煽らないでくれるかな」
「い、やです」
ヨシュアは食らいつくようにジョセフの唇に吸い付いた。啄んだり、吸い上げたり、厚い唇の感触をしばらく味わってから、そっと舌を差し込んだ。少しでもジョセフに何か仕返しがしたくて、舌先に集中して波紋を流す。しかしそれとほぼ同時に、ジョセフの舌先からも波紋が流れされ、二人の波紋は絡まり、パチッと弾けた。
「ん、くぅ……」
思わず鼻から抜けるような甘えた声が漏れる。口の中が甘く痺れて、快感が舌を伝って背筋を通って腰骨まで走った。
その隙にジョセフが指をぷつりと後ろの穴に差し込む。ヨシュアはあまりにも早急な不意打ちに思わず腰を引くが、ジョセフはお構いなしに指先からピリッと繊細な電流を流した。それはヨシュアの内側を蛇のように這い、甘い熱を全身に駆け巡らせた。
「…っあ!」
ヨシュアは思わず逃れようと身体を捩るが既に遅かった。指先で練り上げられた波紋はヨシュアの肉をどんどん柔らかく溶かしていく。それは2月の朝に感じた快楽と同じだった。あまりにもあっという間にとろける後穴に驚いたのを覚えてる。あれは波紋の効果だったのだ。ジョセフの指先は柔らかい波紋を纏っている。その波紋はあっさりとヨシュアの穴を緩め、太い二本の指の侵入を許した。更に三本目も増やされ、くちくちと音を立てながら中を探られる。
「…あ、ぁ…波紋使うの、やめ、てください…」
「それは無理だな」
「…っ、ぅん、こんな、あ……あっ、や、やだっ、!」
「ここ?」
ヨシュアが最も強く反応した箇所を、ジョセフの指がくりくりと刺激する。あまりの快感にヨシュアの腰は砕けそうになった。
「あ、あっ、ちが…っ…」
しかしジョセフは「ここでしょ?」と言いながら、気持ちの良い場所にぐっと指を入れて波紋で愛撫する。ヨシュアは余りの快楽に目に涙を浮かべた。
ジョセフはその隙に一度指を抜き、ヨシュアの足を抱え上げ、後ろの穴まで丸見えの体勢にした。ヨシュアを見下ろしながら、すっかりぐずぐずにされたそこに大きな雄を押し入れていく。しかしヨシュアの身体は当然のようにそれを飲み込んでしまった。
「あぅ、あ、ああっ……!」
ヨシュアは長い間、ジョセフの熱で貫かれる想像をしてきた。それが今現実になり、頭の中が快感と充足感にとろけた。あっという間に全てが中に収まり、ヨシュアは声を震わせる。腰から溶けて一つになるような深い満足感に長い息がこぼれた。
「ヨシュア、気持ち良さそう…」
欲に満たされきった顔を眺めるなり、ジョセフは満足げに微笑んだ。そしてそのまま、ゆっくりと腰を動かし始めた。ジョセフが動くたびにベッドが、ギ…ギ…と木の鈍い音をリズムよく奏でる。2人分の体重を受け止めてセックスの音楽を流す寝具に、ヨシュアは一層に顔を赤くした。
「…あ、あ…っ…」
ジョセフが腰を振っている。その事実に眩暈がした。見上げれば雄の顔を浮かべる、憧れの人がいる。視線が交わると余裕のない大人の笑顔を浮かべてキスを落とす。ヨシュアが甘い声で恋焦がれるたびに、腰の動きは段々と激しくなっていく。欲望を追い求める腰つきは、汗ばんだ肌に容赦なくぶつかり、汗の滑る生々しい肌の音が部屋中に響いた。
「ヨシュア、息をして。波紋の呼吸だ」
ヨシュアは首を横に振った。今自分の呼吸に集中したら、この快感がどんな風になるのか分からなくて怖かった。
「ヨシュア……」
ジョセフがそっと唇を寄せる。ヨシュアは思わずまた首を横に振った。しかしジョセフは何度も何度もヨシュアの額や頬や鼻先にキスを降らせた。
「……俺の呼吸に合わせて。きっと上手く出来る」
ジョセフに諭されてヨシュアはようやく目の前の唇に触れた。
「……ん…」
ヨシュアのキスを合図に、ジョセフは波紋を流した。ヨシュアの波紋を導きながら深い呼吸を繰り返す。まるで人工呼吸をされているかのような見知らぬ息遣いを、ヨシュアはただ追いかけることしか出来なかった。
「そう、その調子。上手いぞヨシュア」
まるでスポーツでもしているかのように、ジョセフはヨシュアを励ました。ヨシュアはひたすらジョセフの呼吸に身を委ね、波紋を感じ続けた。段々とその呼吸の感覚が身体に馴染んでくると、以前もその感覚を味わったことを思い出した。そうか、これが波紋の呼吸なのか。
そう自覚した瞬間、ジョセフが引き起こす摩擦が甘くとろけ始める。
「…あ、ぁぁ、っ……」
ヨシュアは思わず吐息を漏らした。それは女の子みたいな信じられない声で、ヨシュアはまた息を詰めようとする。
「ヨシュア、ダメだよ。呼吸をそのまま続けて」
「こんなの… ムリですっ…は、恥ずかしすぎます…っ……」
「全然恥ずかしくないよ」
ジョセフは優しく笑った。
「可愛い」
「…っ…それが、恥ずかしいんです…!」
「それなら修行だと思えばいい」
修行という言葉にヨシュアの気持ちはぐらりと揺らぐ。
「ジョースターさん、楽しんでません?」
「そんなことないよ。俺はいつだって真剣」
「いや、絶対楽しんでる」
ヨシュアは疑い深くジョセフを睨み上げた。しかしジョセフはそんなヨシュアの様子を愛おし気に見下ろしながら、唇に贅沢なキスを落とした。甘いキスの応酬にヨシュアは内側にきゅっと力が入る。そのたびにジョセフの固くて熱いものを感じてしまい、呼吸どころの騒ぎではなかった。
「やっぱり、ムリです……」
ヨシュアの顔はこの上なく真っ赤だった
「大丈夫。全然恥ずかしくなんてないから。波紋に身を委ねてごらん」
再びジョセフに口づけされ、ヨシュアはゆっくりと波紋に意識を向けた。波紋を通じてジョセフの呼吸に自分の呼吸を重ね合わせていると、深くて心地よい感覚に自然と浸っていく。迫り上がる甘い心地がいよいよ繋がる部分にまで達し、ふたつの境目が溶け合うような感覚に包まれる。
「…あ、……はぁ、ぁ、あ…っ…」
ヨシュアは息を吐くたびに、自分のものとは思えない甘ったるい声に顔を赤くした。その声は規則正しく、目の前の男のリズムに合わさっていく。
「…あ、ぁん……ジョ、スターさん……」
しかし狂おしいほどの羞恥と深い快楽に、ヨシュアの呼吸は何度も乱れた。そのたびにジョセフのキスが呼吸を整える。途切れのない波紋の呼吸は、ヨシュアの身体の熱を純白に溶かした。
「あっ、あ……!あ……」
呼吸に合わせて奥深く突き上げられ、ヨシュアの意識がパチッパチッと明滅する。その瞬間、内側から甘い痺れがあふれ、気が付けば雄からとぷとぷと欲望が流れ落ちていた。
「…あ、ああ…あ……」
その射精は長く、いつまでも止まらなかった。すっかり出したはずなのに、繋がったそこはまだ甘く痺れている。
「ぅ、あ……っ……!」
ジョセフは射精の続くヨシュアの腰を抱えて、再び腰を激しく打ちつけた。今までの気遣いがいかにジョセフの誠意だったのかを痛感するほどに、それは荒々しい腰つきだった。
ジョセフは言葉もなく、言葉はもう必要とせず、腰だけを使い出す。ぱちゅぱちゅと音を立てて中を突かれるたび、ヨシュアの口からは甘い声が上がった。
「あ、アッ、あん、ぁ…………や、ぁ……」
きゅっきゅっと中が締まり、無意識にジョセフのものを締め付ける。締め付けることでジョセフの性器の形がありありと分かり、ヨシュアの呼吸は滅茶苦茶に乱れた。目の前の紳士はすっかり一匹の獣になっていた。燃えるような欲望を剥きだすジョセフの腕の中で、ヨシュアの意識は徐々に遠のいていく。
「…ジョ、スターさん……も、う……」
ヨシュアが腕を伸ばすと、ジョセフはヨシュアの身体をしっかりと抱きしめた。そのまま中に熱い心地が染み広がる。二人の波紋はひとつの大きな波となって溶け合い、小さな海になった。
「なんで、バスルームに入ってきたんですか……」
ヨシュアは気怠くて起き上がれない身体を抱きしめながら、ベッドの隅で丸くなっていた。
「だって全然出てこないんだもん」
「だからって!待たせちゃったのは俺ですけど…… それにしたって」
「海にいる時から発情してたし」
「…っ……発情じゃないですっ!」
ヨシュアは顔を真っ赤にしてむくれた。
「こんなことしちゃったら、言い訳できないですよ……」
項垂れるように枕に顔を埋めると、ジョセフはそっと髪を撫でた。
「言い訳なんていらないよ」
ジョセフはなだめるような声だった。
「俺は初めからそのつもりだったし。ここにヨシュアを連れてきた時点で、もう覚悟はしてきたんだ」
その言葉はヨシュアの知っている正論を全て打ち砕いてしまい、うまく言葉を返すことができなかった。
「もしかして一週間、何もしないで帰れると思った?」
「それは……」
ヨシュアは唇を噛んだ。
「俺もヨシュアも、こんなに好きなのに?」
「分かってます……けど……」
「さ、それはそうと、飯だ飯。すっげぇ腹減った。ヨシュア動けそう?」
「…う、うーん……」
寝返りを打つと、腰のあたりに鈍い痛みが走った。ヨシュアの様子を見たジョセフは、背中のあたりに指先を押し当てて波紋を流した。
「これでどう?」
「……ん、あ、ちょっと、良くなったかも……」
ヨシュアは身体をゆっくりと起こして足を踏みしめる。意外と身体はしっかりとバランスを取り戻しているようだった。
「波紋って万能すぎじゃありません?」
ヨシュアは痛みのなくなった身体をさすりながら、ジョセフを見上げた。
「でも死んじゃった人は生き返らないよ」
ジョセフはふんわりと微笑んだ。
その顔は海に沈みゆく太陽みたいに、世界の色を全部変えてしまいそうなくらい、静かだった。
「行こうか」
ジョセフが差し出す切実な手のひらを、ヨシュアは拒むことが出来なかった。