ジョセフは柔らかな潮風を感じて目を覚ました。目蓋を持ち上げると、すぐそこには砂糖菓子みたいな白い裸があった。彼は背中を向けていたが、それは間違いなくヨシュアの肌で、ジョセフは思わず鼻先を押し付けて胸いっぱいにその甘い香りを吸い込んだ。
「ん……」
しかしヨシュアは寝ぼけているのか、少々乱暴にジョセフの身体を押し退けてベッドの隅で丸くなってしまう。その様子が動物みたいで面白くて、ジョセフはついつい悪戯したくなってしまった。
「ヨシュア、朝だよ」
「……ん、ぅ…」
ジョセフは丸い背中を後ろから抱きしめたまま、肩に優しく噛みついた。そのまま背中や腕や首筋なんかに満遍なくキスをして、柔らかい肉をちょっとだけ甘噛して、その透き通るような白い肌に花びらみたいな跡をたくさんつけた。
「……ぅ、ん? ジョ、スターさん?」
さすがのヨシュアも目を覚ましたようで、眠たげな顔のまま振り返った。
「おはよう」
ジョセフが挨拶をすると、澄んだライトブルーの瞳がぼんやりとジョセフを見つめた。
「これは、夢でしょうか?」
瞬きを2つ、彼はもう一度ジョセフを見つめた。
「寝坊助さん。夢じゃないよ」
その言葉に、ヨシュアはその夢見心地なブルーの瞳を細めて、「夢じゃない!」と言いながら子どもみたいに抱きついた。
今日はきっと、世界で一番幸せな朝に違いない。
Voyage -Day 3 (R-18*)
ヨシュアがコーヒーを淹れている間に、汚れた服やシーツを適当に洗濯して庭先へ干した。夏の太陽をいっぱいに包み込んだ布は、あっという間に乾きそうに見える。コーヒーを淹れ終えたヨシュアは、昨日買っておいたエッグベーグルにクリームチーズをたっぷり塗って庭先まで持ってきてくれた。ほんのりと洗濯物から香るサンダルウッドの匂いに包まれながら、二人は朝食を食べた。淡い小麦色に日焼けし始めたヨシュアの顔を横目に、庭の花壇を眺める。そこにはアサガオと思われる花の蕾があるが、それは地面を向いてあまり元気がなかった。
「アサガオ咲かないんですかね?」
ヨシュアも同じことを考えていたようで、ベーグルを頬張りながらアサガオを指差した。
「どうだろうな。ずっと手入れしてなかったし、咲かなくても仕方ないかもな」
「具合が悪いんでしょうか?」
ヨシュアは残っていたベーグルを口の中に放り込み、花壇の近くに寄った。ヨシュアはしばらく興味深そうに花を観察していたが、ふんわりと、彼の体から波紋エネルギーが溢れ出るのを感じた。その波紋は、昔シーザーが使っていた波紋と同じ色をしていた。あれは確か、怪我や病気の時に使う治癒の波紋とかいうものだった。ジョセフは傷を癒したり、痛みを和らげたりする波紋があまり得意ではなかったが、シーザーはああ見えて治癒の波紋が得意だったようで、ジョセフが重症を負った時も治療で一命を取りとめたくらいだ。
ヨシュアは庭先に立って、周囲の生き物の波紋を感じているようだった。それは無意識なのか、彼なりに何かを想像しているのかは分からない。ヨシュアの波紋はあたり一面に広がり、周囲の波紋と混ざり合い、調和しているように見えた。
「ヨシュア?」
ジョセフは思わず名前を呼ぶ。ヨシュアはすぐに振り返った。
「どうかしましたか?」
「あ、いや……」
その姿はどこか儚くて、ジョセフを不安にさせる。波紋を練るヨシュアの姿はシーザーによく似ていたから、彼の波紋が強くなるにつれ、波紋使いとしてのシーザーの姿を思い出し過ぎてしまう。ヨシュアの波紋は日増しに美しいエネルギーに満ち溢れ、キラキラとみずみずしく輝いていた。
「せっかくなら、この庭いっぱいに花を咲かせたいですね」
「……そうだな」
「それで、今日はどんなトレーニングをするんですか?」
「ああそれなんだけど、今日からこれをつけてもらおうと思って」
ジョセフはヨシュアの前に鉄製の無骨なマスクを差し出した。
「な、なんですかコレ……」
あまりにも禍々しい姿のマスクにヨシュアは怖気ずいた。
「波紋の呼吸法矯正マスク。波紋の呼吸さえしていればなんの変哲もないマスクだけど、呼吸が乱れると死ぬほど苦しいから覚悟してね」
「そんな物騒なもの俺につけるんですか!?」
「昨日も見てて思ったけど、やっぱりヨシュアは波紋の呼吸が安定していない。少なくともトレーニングをしている間は、これをつけてもらうよ」
ヨシュアはおずおずとそれを受け取った。
正直なところ、ヨシュアは3回くらい死にかけた。
やっていることは昨日や一昨日のトレーニングの繰り返しだったが、少しでも呼吸が乱れると窒息しそうになる矯正マスクに、ヨシュアは何度も意識が遠のいて倒れそうになった。しかしお陰様で、グラスの水を20分どころか1時間、水泳も一人で、30分以上こなすことに成功した。やはり矯正マスクの威力は凄まじい。
「やったなヨシュア!」
「や、やりました……」
「やっぱスゲーなこのマスク。俺も昔使ってたんだけど、嫌でも波紋の呼吸が上達したのを思い出したわ」
「ジョースターさんも、つけてたんですね……」
ヨシュアは疲れ切った顔でジョセフを見つめた。
「今なら何が波紋の呼吸か、身体で分かるだろ?」
「そう、ですね……」
「よし。今日はここまで。明日からはもう少し難しいトレーニングに入るからな。楽しみにしておけよ!」
ジョセフが笑顔を向けると、ヨシュアはげっそりとした顔で頷いた。
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二人は早めの夕食を取り、夜は座学の時間になった。座学の間もせっかくならと呼吸矯正マスクを取り付け、呼吸に集中しながら時間を過ごしてもらうことになった。
「意外と悪くないですね」
「マスクに愛着出てきちゃった?」
「普通の呼吸より、波紋の呼吸の方が意外と身体が疲れない感じがします」
「当たり前に出来るようになれば、確かに波紋の呼吸の方が楽かもな」
「ジョースターさんっていつも波紋の呼吸をしてるんですか?」
「ああ。たぶん子どもの頃から自然とその呼吸だった」
ヨシュアはジョセフのベッドで本を広げながら話に耳を傾けた。ジョセフは幼い頃から波紋の呼吸が使え、自然と波紋の技を身に着けていたこと。そしてシーザーとの修行を通してより本格的に波紋の技術を身につけていったこと。
「そんな昔から使えるなんて、やっぱりジョースターさんは凄いです」
「でも、俺が波紋の存在を知ったのはヨシュアくらいの年齡の時さ。それまで波紋だと分からずに、呼吸もコントロールもめちゃくちゃだった。それはそれで結構不便だったよ」
ヨシュアはジョセフの話を興味津々な様子で聞いていた。
「ジョースターさんって、得意技とかあるんですか?」
「得意技?」
「はい。この本には色んな波紋使いの技が書いてあるんです。水の上を歩いたり、波動を撃ったり……」
「俺に得意技なんてないよ。全部筋肉でごり押しさ」
腕の筋肉を見せると、ヨシュアは楽しそうに笑った。
「シーザーさんは?」
ヨシュアは期待に満ちた目でジョセフを見つめた。
「シーザーは…… なんでも得意だったよ。人を操る波紋、人の傷を癒す波紋、相手の呼吸に合わせて自分の波紋をコントロールするのも上手かった。あとなぜか知らないけど、シャボン玉に波紋を通わせて変な技を使ってたな」
「シャボン玉?」
「あんな壊れやすい素材をなんで武器にしようと思ったのか、俺にはさっぱり分からないけど」
ヨシュアは少し考えた後、問いかけた。
「俺はシーザーさんと似た波紋ですか?それとも全然違うんでしょうか?」
「なぜそんなことを聞くんだ?」
「だって、もしシーザーさんの波紋と俺の波紋が同じなら、シーザーさんと同じような修行をした方がいいんじゃないかって」
「そんなことは……ないんじゃないかな。それにヨシュアは別に波紋戦士になるわけじゃない。だから、ヨシュアのペースでやればいい」
「でも……」
「ヨシュアはこの一週間好きなだけ波紋に触れて、それからまた考えればいいんだ。俺はこんな乱暴なやり方でしか教えられないけど……」
やはりリサリサの言う通り、きちんとた師匠の下でヨシュアはトレーニングを受けるべきだったんじゃないかとたまに考えてしまう。彼の内に秘める波紋はシーザーの波紋によく似ているが、また違った独特な強さを持っているように感じた。しかしヨシュアの問題は自分たち二人の問題でもあった。他の誰かに解決できるものではない。自分で蒔いた種はきちんと自分で育てて、彼が一人でも花咲けるように最後までしっかり見守りたい。
そんなことを話し込んでいるうちに、時刻は夜9時を回っていた。
「そろそろ終わりしようか」
「はい。それでは、おやすみなさい」
「マスクは? つけたまま寝てみる?」
「どうなんでしょう? やっぱり難しいんでしょうか。眠ってる時の呼吸って無意識ですよね。あれ? 起きてる時も無意識か」
ヨシュアは思わず考え込んだ。
「つけたまま眠れたら、それは完全に無意識だな…… それで、今夜は自分の部屋で寝るのか?」
ジョセフはあえてそんなことを言ってみる。正直ヨシュアが見せる素直な反応を見るのが楽しくて仕方なかった。
「…えと……それは……」
目を泳がせながら、何か言い訳を探すような顔をしている。しかし結局上手い言い訳は見つからなかったようで、ヨシュアはちらりとジョセフを見て眉を潜めた。
「その顔は反則だろ!」と叫びたくなったが、ジョセフは何食わぬ顔で椅子からゆったりと立ち上がった。今更紳士ぶったところで下心がバレバレなのは分かっていたが、ヨシュアの前ではぎりぎりまで格好いい大人でいたい。なんだかんだで男というのはお互いに良いところを見せたい生き物なのだ。
ヨシュアに一歩近づくと彼は少し身構えた。おそらくジョセフが纏う空気の変化を感じ取ったのだろう。ジョセフはニヤリと笑った。
「寝る前にもうちょっと、修行しよっか」
「…っ、ふぅ……っ、ん…」
部屋にくぐもった呼吸の音が響いている。それは金属の器に熱を閉じ込めたみたいに、甘く湿った音をしていた。
昨日と同じように、波紋を指先に纏わせながらヨシュアの身体を隅々まで撫で回す。昨日と違うところと言えば、ヨシュアの顔にマスクが付いているという点だけだった。そして、いかにヨシュアの呼吸が不安定であったのかを愛撫のたびに痛感する。少し強めの波紋を流すと、すぐに呼吸が飛び、一気に息が詰まる。それでもなんとか集中して呼吸を取り戻すが、愛撫が激しくなればすぐにまた呼吸が乱れてしまう。あまりにも素直な反応にジョセフの欲望はむくむくと大きくなった。
昨日は乱れた呼吸をキスで導くことが出来たが、今日はキスができない。ヨシュア自身が自分の呼吸で波紋をコントロールしていかなければならないのだ。
「…っ、ふぅ、マスク取って、ください……」
「フフ。喋れるなら大丈夫だな」
「……っ、お願い、です……っ…」
「だーめ。修行だよ」
ヨシュアの訴えを無視して、ジョセフはじっくりと身体を愛撫し続けた。乳首を指の腹で押しつぶすようにじっくりとこね回したり、引っ掻くように爪を立てたりすると、ヨシュアの身体はピクンと素直に跳ねる。その間にも息を吹き込むように耳朶を舌で愛撫し、首筋にねっとりと舌を這わせていく。
「…ひっ、あ!」
あえて昨日と同じような愛撫をして、あたかもレッスンしているという体裁を整える。そうでなければマスクをつけたままセックスをする理由を言い訳できそうになかった。
実のところ、ジョセフはこの状況に非常に興奮していた。
矯正マスクはシーザーとのセックスを思い出させる。ジョセフはマスクをしたまま、シーザーと何度もセックスをしていた。まさに今のヨシュアと同じような状況を嫌と言うほど経験済みだった。だからって別にシーザーに仕返しをしたいわけではないが、シーザーにそっくりな顔で懇願されると堪らない気持ちになる。もしそこにあるのがシーザーの顔じゃなかったら、ここまで意地悪はしなかったかもしれない。
「…ふぅ、ふ、ん、ぅ……」
「ヨシュア、かわいいよ」
ジョセフはわざと耳の中に息を吹き込むように囁き、欲情を含ませた吐息で鼓膜を愛撫する。キスが出来ない分、声をたっぷり使ってヨシュアの頭の中を直接愛撫すると、彼は身体を震わせながら目尻に涙を浮かべ始めた。
「…ジョースターさん……も、苦し…っ」
ヨシュアは目に涙を滲ませながら、必死に懇願した。
「だーめ。全然呼吸整ってないじゃん。自分で呼吸が出来るまで外さないよ」
ちゅ、とマスクに口づける。
「そんな……」
涙目のままヨシュアは甘えるような目で見つめた。どうにか気が変わってくれることを求めている目だ。しかしそんな表情もジョセフの興奮剤になるだけだった。
それにしてもヨシュアはこの上なく健気だ。彼はこの状況を受け入れているどころか、少し興奮しているようにも見えた。昨日もそうだが、彼は顔を真っ赤にしながら、どこかでジョセフに凌辱されたがっているようなところがある。
自分に抱かれたがっている男がいるという事実はジョセフの征服欲をむくむくと膨れ上がらせる。愛を求められているという強烈な実感が腹の底から迫りくると、ジョセフは堪らなく興奮した。彼の身体も波紋も心も、何もかもを自分のものにしたい衝動に駆られる。ジョセフは控えめに足を開くヨシュアの足首を掴んでぐっと大きく開かせた。
「……っ!!」
しかしヨシュアも恥ずかしさの限界だったようで、掴んだ足首を振りほどき、そのままジョセフの脇腹に華麗な蹴りをお見舞いした。
「んぐ……!」
それはいつぞやの波紋戦士から受けた足蹴りを思い出させるくらいに、鈍い痛みをめりめりと引き起こした。ジョセフが呻くとヨシュアはしてやったりというような顔を浮かべた。
「日頃のうらみ」
「…ほう…… そんな行儀の悪い子にはお仕置きが必要だな」
ジョセフがニヤリと笑うとヨシュアは何かを察したようで、また華麗な足蹴りを披露した。
「ちょっとヨシュア君、さっきから足癖が悪くないかい?」
「そんなことはないですよ。ただの正当防衛です」
「正当防衛?」
「……なんかジョースターさん、悪いこと考えてません?」
「そんな風に見える?」
「……すごく見えます」
いい勘をしてるじゃないか、とジョセフは心の中で感心したが、いつまでもじゃれ合うつもりもない。ジョセフはいよいよ牽制する足を捕らえて膝がシーツに付くくらい大きく開脚させた。ヨシュアは慌てて閉じようとするが、抵抗する足を押さえつつ、ついでに腕も掴んでやった。ジョセフはそのまま暴れようとする右の足と右腕を波紋でひとまとめにする。そして次は左腕と左足首に波紋を流して一緒に拘束した。
「な、何してるんですか!」
腕と足をバタバタと動かそうとするが、波紋の手錠によってそれは上手くいかなかった。開脚したまま手足を縛られ、ヨシュアは耳まで真っ赤にして抵抗した。しかしむしろ暴れることでバランスが崩れて、尻の穴まで丸見えになっている。まるで口輪をして拘束具で手足を縛られたような姿になったヨシュアに、ゾクゾクとするくらい嗜虐心をくすぐられた。
「や、やだ! 外してください! やっぱり変なこと考えてたじゃないですか!」
「まあね」
ジョセフはケロッとした顔のまま、目の前に捧げられた小さな穴に舌をぺろりと這わせた。
「ひっあ!」
ぴくぴくと震えるばかりの窄まりに、ジョセフはちゅっちゅっとわざと音を立てながらキスを降らす。ヨシュアは困惑の悲鳴を上げた。唇を押し当て、舌をたっぷりと這わせながら、窄まった場所に波紋をゆっくりと流しこんでいく。
「……ぅ、ん……そん、な……ぁ……」
舌先から直接波紋を練った方が、唾液のぬめりも相まってほぐれるのが早いような気がした。ヨシュアも気持ち良いのか、だんだんと大人しくなっていく。
「……ぁ、ぅ……ん…」
たっぷりと舌で穴をほぐしたところで、ジョセフは興奮しきったペニスを押し入れた。しかしヨシュアは随分と大人しい。耳を澄ますと波紋の呼吸に集中しいるのが分かった。呼吸を整えているせいか、ヨシュアの内側は波紋の熱で柔らかく、ジョセフのペニスをにゅくにゅくと歓迎するように飲み込んだ。
「ヨシュア?」
あまりにも静かなヨシュアを覗き込むと、彼は目を閉じてひたすらに呼吸を繰り返している。呼吸を整えることで今の状況を修行だと思いこもうとしているのかもしれない。
「ヨシュア」
もう一度名前を呼ぶとようやく目蓋を少しだけ持ち上げてくれた。その瞳は甘い熱でたっぷりと濡れていた。瞳を見つめながら腰をゆっくりと突き動かすと、きゅうと目が細められ、涙がぽろりと、痣を濡らしながら落ちた。
ヨシュアの良い部分に当たるよう腰を擦らせると、拘束していた両手足に力が入り、手足を広げたまま腰を弓のようにしならせた。しなやかに張り出された胸には桜の花みたいな小さなピンクの乳首がはらはらと揺れていて、白い喉がナイフみたいに剥き出しになる。金属マスクと白い肌のコントラストが美しい。シャツの形に沿ってほんのりと小麦色に焼けたボディラインをうっとりと撫でた。
ヨシュアの身体は半年前より少し痩せたかもしれない。シーザーとそう身長は変わらないのに、随分と小さく見える。シーザーは戦士として鍛え上げられた大きな筋肉をしていたが、ヨシュアは都市生活者の筋肉しかなかった。それはそれなりに筋肉質だか柔らかい。まるで食べごろの肉みたいに美味そうだった。
もう戦いから20年以上経っているのに、いつまでもトレーニングをやめることができないジョセフは、未だに大きくて固い筋肉をつけている。こんな筋肉なんてもう全く必要ないのに、止まった記憶の中で、自分だけが衰えていくのが怖かったのだ。
「ねぇ、ヨシュア……」
ヨシュアの熱を溶かそうと腰を揺り動かすと、ヨシュアは静かに呼吸を深める。ジョセフはヨシュア言葉が欲しくて唇を寄せた。しかしカチンと音立てて、それはマスクに拒まれる。
「ヨシュア、ねぇ、何か言って……」
ジョセフはマスクに何度もキス落とした。しかしヨシュアは、規則正しい呼吸を繰り返すだけだった。
ジョセフは沈黙に耐えきれず、マスクを剥がし取る。そして目の前に露わになった唇に食い付くようなキスをした。しかしそれと同時に、ヨシュアは下から思いっきりジョセフの顔に頭突き攻撃を食らわせた。
「うぶっ」
「エロじじい!」
ヨシュアは顔を茹でダコみたいに真っ赤にしながら元気な叫び声を上げた。
「こんのぉ変態!」
手足が使えない分、犬が吠えるみたいに声をあげるヨシュアに負けじと、ジョセフもその賑やかな唇にキスを降らす。
「…っん、このっ、どスケベ!…っ、ド変態!」
キスの合間にヨシュアはがむしゃらに叫んだ。ジョセフはヨシュアの声に安心しながら、何度も何度も唇を追い回した。
「……ん、んぅ……ひどい、ですよ……」
「ごめん、つい。悪かった。ごめん……」
「……やっぱりエロじじいじゃないですか」
ヨシュアは顔を真っ赤にしながら睨んだ。
「こっちも解いてください」
「そっちはダメ」
その言葉にヨシュアは頬を膨らませる。
「だって解いたら蹴る気満々でしょう?」
「そんなことはないですよ」
ヨシュアは確信犯の目でにっこりと微笑んだ。
ジョセフはそんなヨシュアの額に洗礼のキスをして、そのまま腰の動きを再開させた。ヨシュアは「やっぱりドスケベじじいじゃん……」なんて人聞きの悪いことを言って煽ってきたので、その乳首に噛みついて鳴かせてやった。ヨシュアは呼吸のコントロールに気を遣うあまり、体の感覚が過敏になってきている。それをジョセフは知りつくしてた。何せ20年前にシーザーに同じことをされてきたのだ。嫌と言うほどヨシュアの身体の状況が分かる。
ジョセフは指先や舌先で丁寧に波紋を練りながら、すっかり敏感になった身体を隅々まで愛撫した。繊細に跳ねる身体の動きに合わせて腰を打つと、雄から甘い密がとろとろと零れた。
「……っあ、ん、あ…っあ……」
ヨシュアはジョセフの愛撫を一身に受け取りながら、呼吸に合わせて規則正しく喘いだ。昨日と比べると呼吸が格段に上手くなっているのは間違いなかった。ヨシュアが甘い熱に夢中になっている隙に、そっと手足の拘束を解いてやった。
「っん、今更、遅いですよ……っ」
自由になったヨシュアの手足はすぐにジョセフの身体を絡め取った。中の熱も成熟しきっている。ヨシュアの絶頂は近い。
「今なら蹴らないでしょ?」
絶頂を待ち望むヨシュアにそう言うと、不機嫌な子どもみたいに唇を尖らせて、つま先を脇腹にぽこぽこと押し付けてきた。本当は蹴り上げたいのかもしれないが、離れたくもない。そんなあまりにも可愛らしい抵抗にジョセフは思わず笑みをこぼした。
「ねぇジョースターさん……」
「うん?」
「……気持ちいいですか?」
しっとりと絡みつく身体を抱きしめながら、ジョセフはゆっくりと腰をくねらせた。
「気持ちいいよ」
ヨシュアは波紋に身を委ねてうっとりとしていた。自然と波紋の呼吸を繰り返し、ジョセフの波紋のすぐ傍にぴったりと寄り添っていた。このまま呼吸が合わせれば、きっとひとつに溶け合える。
「ヨシュア、分かる?」
「……分かる、気がします」
ジョセフが唇を寄せると、ヨシュアは自然と引き寄せられた。まるで磁石みたいに、2つの唇に迷いはなかった。
2つの呼吸はひとつの波紋になり、1つの波紋は波になった。海岸にキスを繰り返す波のように、二人はいつまでも溶け合って離れなかった。
「ジョースターさんって緊縛プレイとか好きなんですか?」
「どこでそんな言葉覚えたの?」
ジョセフは物騒な言葉を言うヨシュアに思わず眉を潜めた。
「なんかわりといつも、ちょっと強引ですよね」
その言葉に批難の意味を感じ取り、ジョセフ思わずギョッとした。
「え、嫌だった!? ごめんね」
「あ、いや、別にいいんですけど……」
緊縛なんて言葉聞いて、ほんのりとヨシュアを縛る妄想をする。顔を真っ赤にしながら騒ぎ立て、でも最後はぐずぐずになっていくヨシュアがいとも簡単に想像できた。
「むしろヨシュアの方が、そういうの好きなのかな〜って思って……」
「そ、そんなことはないですよ!」
慌てるヨシュアを横目に、ジョセフは縛られているヨシュアをシーザーにすり替えてみる。するとまた違った興奮が沸き起こった。決して屈することのないシーザーが目の前で喘ぐ姿。あの太い筋肉が、華麗な波紋が、美しい翡翠の瞳が一方的な快楽に染まっていくであろう様子と思うとゾクゾクとしたが、どうしてもなかなかそんな姿を想像できなくて、想像力の乏しい自分の脳みそを呪った。
そんな暑苦しい妄想をしていると、ひんやりとした夜風が頬を撫でた。庭先に面した大きな窓で白いカーテンがふんわりと翻っている。そろそろ窓を開けて寝ると風邪をひくかもしれない。ジョセフはそっと窓の前に立った。するとそこには、思いがけない光景が広がっていた。
「ヨシュア、見て……」
ジョセフは感嘆の声を上げる。その声に、ヨシュアはジョセフの側に駆け寄った。
「わあ……!あれってアサガオじゃなかったんですね!」
窓の向こうで、真っ白な花が月へ向かって辺り一面に咲き誇っている。それはヨルガオの花だった。しかし昨日まで花なんて一つも咲いていなかったから、おそらく今朝のヨシュアの波紋が周囲の植物の生命に影響を与えたのだ。
「……君は一体、何をしたんだい…?」
ジョセフが問いかけるものの、ヨシュアは「何がですか?」と、自分の波紋に対して自覚が無い様子だった。ジョセフは周囲の波紋をゆっくりと観察する。するとこの周り一帯に、均質で美しい生命エネルギーが満ち溢れ、それが庭先を中心に綺麗な波紋を描いていることに気が付いた。今朝ヨシュアが触れたヨルガオを起点に、庭中の草花が調和し、その生命力を高揚させている。もしかすると、ヨシュアは波紋を調和させる力があるのかもしれない。
「綺麗ですね」
「ああ…… 綺麗すぎるくらいだ」
ヨシュアに秘められた可能性に感動しつつも、ジョセフは自分では計り知れない波紋の力を持つ彼を、このまま指導できるのかと少しだけ不安になった。
「もしかするとヨシュアには、俺なんかよりきちんとした先生をつけた方がいいかもな……」
「え、でも俺、ジョースターさんが先生じゃなかったら、波紋の修行なんて絶対しませんよ?」
「いやいや、そういう問題じゃ……」
「そういう問題ですよ? どうしたんですか急に……」
ヨシュアはまるで何も分からないといった顔で、ジョセフを心配そうに見つめた。
「もしかして、えっちしたこと今になって後悔してるんですか?」
「それはしてない」
「ちょっとはしてくださいよ……」
ヨシュアは呆れた顔で笑った。
二人は朝と同じように庭先に座り、白い花が咲き誇る美しい庭を眺めた。遠くから聞こえる沈黙を包む波音は、辺りをよりくっきりと鮮やかにしているような気がする。まるで黒板のように広がる夜の世界に、白いチョークが未来を指し示す美しい花を描いた。一体それは何を示しているのか。まだ何も見えないような気がしたけど、その静寂は不思議と不安を溶かしていく。
「……修行、ジョースタさんが誘ったんですからね……」
「うん。分かってる…… 変なこと言ってごめん。最後までちゃんと一緒にいるよ」
「じゃあ明日から先生って呼んでもいいですか?」
ジョセフは「先生」と呼ばれる自分を想像してみるが、その響きにぞくりと鳥肌が立った。
「いつも通りがいいかな……」
「そうですか? じゃあいつも通りで」
ヨシュアはふんわりと微笑んだ。
「明日もお願いしますね。ジョースターさん」