「なぜお前は引き金を引くのか、考えたことはあるか?」
「なんだって?」
「なぜお前はスナイピングをするのかって話だ」
「仕事だからさ。そして金になるからさ」
「もし、仕事じゃなくて、金にもならなければ、お前はスナイパーをやめるのか?」
「どうだろうな。逆にお前は、そのナイフを毎晩磨ぐのをやめるのか?」
「どうかな」
「ほらみろ」
「例えば絵描きに、なぜ絵を描くのか聞いて、金になるから仕事だからって回答されたら随分興ざめじゃないか。
俺が聞いてるのはそこじゃないし、もしそれがその絵かきの根源的な答えだったら、俺はそいつの絵を買わない」
「そうだな」
「じゃあもう一度聞く。なぜお前はスナイピングするんだ?」
「そうだな… 少なくとも金にもならず、仕事でもないのに、人の頭をぶち抜くとしたら、それは殺しが趣味ということになるのか?」
「そうでもないな。だいたい俺は趣味って言葉が嫌いだ。それは思考停止って言葉と類義語だと思ってる」
「なるほどな」
「お前はスナイピングが趣味なのか?」
「趣味の定義にもよるが、わかりやすく言えば、俺はスナイピングのあらゆることに納得してるのさ。圧倒的孤独と対峙すること。
引き金を引く時の静けさと興奮。自分の目を超えた視覚世界でものを見ること。全てが俺にとって何物にも変えがたいものだ」
「ロマンチストだな」
「たが、なぜあの孤独が好きなのか、引き金を引く瞬間に興奮するのか、己の肉体を越えた世界を求めるのか、
俺達人間にはわからないのさ。
それはなぜ酒を美味いと感じるのか、女を抱くと気持ち良いと感じるのか、朝日を美しいと感じるのか、ということに対して
“理由”を求めるようなものだ」
「そうかもな」
「強いて言えば本能だ。俺はそれを理由なく本能的に求めるのさ」
「美しいと思うのは本能だと?」
「そうさ。あんたが、この俺を見て欲情するのも、この俺の台詞をクールだと感じるのも、全部本能」
「お前は、馬鹿か」
「あんたが俺に惚れていようが、俺があんたの頭をぶち抜きたいと思っていようが、関係ない。同じことさ」
「それは、お前にとって俺自身が”理由”であり、”目的”だからと解釈していいのか?」
「自惚れるな。あんたがただ俺を抱きたいだけだろ。なんたって、俺はあまりにもいい男だからな。
何がいい男の定義かだって?そんなのは時と場合による。ただ今のあんたにとって、俺はただただいい男なのさ。
違うか?」
「今日は随分饒舌だな。その頭で、よく言うよ」
「どうなんだ?」
「そうだな。俺はいますぐにでも、その生意気な口が聞けないくらい蹂躙したくて仕方ないさ。
それは、お前自身が俺にとって”理由”そのものだからだ。つまりあんたのせいってことだ」
「もし、俺自身があんたにとっての”理由そのもの”なら、俺は人間として最上級の立場ということになるな。
だってそれ以上のものは、この意識世界には存在しないのだから」
「そうか、じゃあ、お前は俺にとっての神か?」
「それは、あんたにしかわからないさ」
「お前は?」
「俺は今すぐあんたの頭をぶち抜きたい。あんたが死んでいようが、この世にいなかろうが関係ない。
何度でもあんたの頭をぶち抜きたい」
「それはまた、最高だな!」
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パズサイはマッチョプラトニックラブ?
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