こちらは、2025年1月から4月に渡って書いてきた「ジョジョの奇妙な東の国の話」のあとがきになります。小説1話分の量です。独自設定の裏話、舞台やキャラの小話などネタバレを含みますので、読了された方推奨です。大丈夫な方はお進みください。
-目次-
・About
・各話の花紹介
・舞台場所
・恋心年表
・喜三太と譲治、仮面の武士たちの小話
・転生前の物語。これはただの破壊と再生のミメーシス
・雪椿と福寿草。色と光の言葉
・リバとしての恋愛表現、その理由
・エンドロール。イメージ曲とか
About
一人ぼっちの福寿草。彼は、雪夜の椿に恋をした
ここは16世紀のとある東洋の国 —————
この国には人を喰らい血を啜る鬼 ”吸血鬼” がおり、それを討伐することに長けた「波紋の武士」が世を治めていた。そんな波紋の一族の一つ・杖部利家は、佐州の島の藩主として、鬼のいない世界を何年にも渡り目指していた。
杖部利家五代目当主の椎坐(シーザー)と、彼に仕える上星家長男の助世富(ジョセフ)。二人はいつものように郊外へ吸血鬼狩りに出かけていた。しかしそこへ、ひとつの不穏な知らせが届く。
各話の花紹介
第一話 露草 Tsuyukusa
花言葉は「なつかしい関係」
毎朝助世富が椎坐を起こし、明朝に刀の稽古をし、一緒に朝餉を取る。主人と小姓の二人の毎日のルーチンは、それが失われた時に初めて「懐かしい関係」となる。ということで、この花を第一話にしました。
第二話 金盞花 Kinseika
花言葉は「別れの悲しみ」
長年の家臣である喜三太が謀反を起こし、そして死んでしまう。椎坐の率直な気持ちを表す花言葉を第二話にしました。
第三話 吾亦紅 Waremokou
花言葉は「愛慕」「移ろいゆく日々」
初めて助世富が椎坐の性に触れた日。忠義としての愛と、性愛が混ざり出す話なので、この花言葉を持つ吾亦紅を採用しました。
第四話 雪椿 Yukitsubaki
花言葉は「変わらぬ愛」
これは花言葉より、花そのもののイメージが椎坐です。初めて椎坐に出会った時の助世富の回想から雪椿を第四話にしました。
第五話 時計草 Tokeigusa
花言葉は「信念」「信仰」
加賀国編。仮面の謎が少し明らかになります。そして助世富の過去の記憶と椎坐への感情が入り混ざっていく話です。助世富の行動は一種の信仰心のようなものだと思い、この花を採用しました。
第六話 金雀枝 Enishida
花言葉は「恋の苦しみ」「博愛」「卑下」
椎坐の回想と秘めた思い、初めて二人が交わるエピソードです。助世富は長年秘めていた感情を爆発させ欲望のままに椎坐を抱き、椎坐は自分の感情に言い訳をしながら、受け身に抱かれてゆく。恋の複雑な感情を表す金雀枝を第六話にしました。
第七話 緋衣草 Higoromosou
花言葉は「燃える思い」
加賀から小滝村へ。椎坐が幼い頃育った村で、椎坐の安らぎと笑顔を目撃した助世富は嫉妬心を膨らませてしまいます。再び椎坐を無理矢理抱いてしまう助世富を表す花言葉として、この花を採用しました。
第八話 福寿草 Fukujusou
花言葉は「永遠の幸福」
小滝村の惨劇。仮面の謎が明らかになる話。雪の下でじっと耐え、太陽がある時だけ顔を覗かせる福寿草は助世富のイメージです。
第九話 竜胆 Rindo
花言葉は「あなたの悲しみに寄り添う」
佐州に戻り、戦に備える町と、旅を終えて変わった二人の気持ちの話です。椎坐の背負いきれない悲しみや宿命に、助世富は寄り添おうとします。
第十話 蓮華* Renge
花言葉は「あなたと一緒なら苦痛が和らぐ」「私の幸福」
二人がようやく心を通わせる話。「お前と一緒だと安心する」と言う椎坐に「俺はいつも側にいる」と返す助世富。二人の愛情の形にぴったりな花を探して、この蓮華を採用しました。
第十一話 向日葵 Himawari
花言葉は「あなたを見つめる」「光輝」
ひまわりと言えばシーザー。絶対にどこかにひまわりは採用したいなと思っていましたが、最後のこの話に添えました。助世富にとって椎坐は太陽そのものですから。
第十二話 百日草
花言葉は「永遠に変わらない心」「絆」「遠くの友を思う」
エピローグ。全てが終わった後に残された者の気持ちを表す花だと思い、百日草をラストに採用しました。
舞台場所
佐州(新潟県佐渡島)
杖部利家の統治する島は佐渡がイメージでした。とにかく酒と食べ物が美味しくて、海が綺麗で最高ですよ!写真はトビシマカンゾウの花です。
加賀国(石川県加賀市周辺)
助世富の生まれ故郷。加賀百万石とも言われるようにお金持ちの藩で、当時から街は賑わっていたそうです。ひがし茶屋街は花街だったそうで、そんな雰囲気も参考にしました
小滝村(新潟県糸魚川周辺)
立地は少し迷ったんですが、佐渡に渡る港と加賀国のちょうど間くらいにある、雪の深そうな村を探してここにしました。糸魚川は翡翠で有名ですよね。また近くの新潟県妙高市はかんずりが名物でもあるそうです。
*写真は富山県。集落のイメージです
恋心年表
-椎坐-
3歳 母親逝去。遠戚が住む小滝村に追放される
10年ほど貧しくも温かい家庭で育つ
13歳 杖部利の屋敷に戻る 1年ほど父親と過ごす
14歳 助世富を救出。父親が逝去。14の春に元服し当主になる
当主になった後、1年半ほどジョセフと道場で交流する
16歳 助世富を小姓にする
18歳 助世富の烏帽子親になる
20歳 喜三太の死後、助世富と主従関係以上の間柄になる
※椎坐は20歳になるまで助世富に対する恋心を自覚していない。ただ、助世富への強い執着は彼を小姓にする前からあった。しかし本人は自分の感情に言い訳を繰り返し、助世富への感情は同情心だと思い込んでいる。助世富に抱かれてもなお目を逸らそうとした。強く自覚するのは小滝村での出来事以降になる。また、助世富が幼少期に暴行を受けていたことを知っていたため、兄のように見守ろうと努めていた。
-助世富-
幼少期は加賀国で祖母と乳母の三人で暮らす
12歳 行方不明だった父親が謀反を起こす。島流し。
男から性的暴行を受けトラウマを持つ。椎坐と出会う
後2年ほど佐州の町でひっそりと暮らす
13歳 当主となった椎坐と再会。道場で交流する
14歳 椎坐の小姓になる
16歳 元服(椎坐への恋心を自覚する)椎坐の身長を追い越す
18歳 喜三太の死後、椎坐への気持ちを表すようになる
※椎坐を初めて見た時から惚れていた。ほぼ一目惚れ状態。しかしどちらかというと憧れの感情が強かったが、16歳の元服時に紛れもない恋心を自覚する。それから2年ほどは内に秘めて過ごしていた。椎坐と結ばれることは生涯叶わないと思い込んでいたが、喜三太の死をきっかけに状況が変わっていく。
年表に書き出してみると分かりやすいんですが、椎坐と助世富は出会ってから5、6年くらいの月日があり、その時代のエピソードなんかも本当は書きたかったんです。ただあまりにも回想だらけになっちゃう気がして書くのは辞めました。
助世富が町に馴染めずひとりぼっちだった頃の話とか、助世富が小姓になる際に喜三太から与えられた試験をクリアした時のエピソードとか、妄想上は色々ございました。小説では彼らの交流を一度の回想で全部詰め込んだので、感情移入し辛いかもなぁと思いつつ、今回はこのような形になりました。せっかくなので次の項目でモブや裏話なんかもちょっとしようかなと思います。
喜三太と譲治、仮面の武士たちの小話
狐面、菅笠男、白狐の面、金の面頬、無表情な童子の面、裂けた鬼面、般若の面、鴉天狗の面の上星譲治……
様々な面をつけて登場する敵集団ですが、彼らにも実は色々なエピソードがあります。でもあまりにもモブなので小説では詳細ほとんど語りませんでした。多くは、加賀の国のような大きな藩に仕える腕の良い家臣たちです。譲治に誘われて主人を裏切り、吸血鬼となって世界各地で暗躍していました。
ジョジョの世界線でいえば、喜三太はストレイツォ、譲治はジョセフの父親のジョージさんなんですが、どちらも正しい道を歩みつつ、仮面によって落ちたてしまった人間として表現しました。あくまで原作の父親は闇堕ちしてませんので、そこは表面上の変更点です。喜三太、譲治、助世富の三人が仮面を通じて忠義や愛なんかに振り回されながら、どのように生きて死んでいくかが裏テーマでもあります。つまりこの物語の陰には、ふたりの武士、喜三太と譲治(助世富の父親)がいるわけです。彼らは小説上の表舞台ではほとんど登場しない、あくまで椎坐と助世富の対(影)の存在として設定していました(ほとんど作中に登場しないので最終戦の時にも匂わせ程度に止めました)
譲治はかつて加賀国の家臣であり、仮面の秘密を知った一人です。加賀国が吸血鬼を兵器として使い、周囲の国々を翻弄していたことを知った彼は、主を討ち、正しき秩序を取り戻そうとします。しかし失敗。その後譲治は「仮面を纏った者は世界の外側(日陰)に立たねばならない」という呪縛に囚われていました。彼は吸血鬼として生き延び、やがて「人を試し、真実を暴く者」となることを選びます。彼には強い厭世観があったと思います。もはや彼の世界は、”仮面を被る者と被らぬ者” に分かれていたのかもしれません。誰が仮面を持ち、誰が欺かれるのか。そして人々は何を選ぶのか。人に戻れない孤独な武士はその真実を暴くことだけに、生きる意味を見いだしていたのかもしれません。
一方、喜三太は杖部利家への忠義を胸に抱く、まっすぐな武士でした。しかし、その忠義心こそが、譲治に付け入る隙を与えてしまったのです。「仮面が本物か否か、それが主の潔白を測る唯一の証だ」 と囁かれた時、喜三太は疑いを抱きながらも信じたかった。だからこそ、「俺が仮面をかぶり、主が俺を討つことで、その潔白を証明してもらう」という悲しき誓いを立てました。彼は裏切ったのではありません。むしろ、忠義を証明するために鬼となる道を選んだのです。
————— 主を信じきれず、忠義を証明するために鬼となった者。
真実を明かし、人を試すために鬼で在り続けた者。
そして愛する者を守るために、鬼になることを選んだ者
譲治は「真実」を暴こうとし、喜三太は「忠義」を証明しようとした。ふたりの道は正反対でありながら、共に仮面に堕ち、「信じたものを守る」 という一点で交わっています。この物語の主役ではない二人ですが、彼らの存在は、椎坐と助世富の物語の裏側に必要だったと思っています。20話くらいの長編だったら彼らの過去を明かして、最終決戦まで持っていくのもありだったかもしれませんが、今回の物語では助世富と椎坐の目線から見える彼らの行動に止めました。ただ実は裏側にそんな物語もあったんだなということを、チラリと知って頂けたら嬉しいです。
転生前の物語。これはただの破壊と再生のミメーシス
ミメーシスを検索頂ければ分かると思いますが、今回の物語はジョジョ1、2部の物語全体に散らばる様々な設定をバラバラにしてもう一度再構成する。そんなことを勝手に試みた二次創作です。
元々原作にあるジョセフの設定やシーザーの設定、波紋の設定、石仮面の設定。それらを東洋の世界に再構築しつつ、彼らが持っている設定を再設定する。原作におけるシーザーと父親の関係や、ジョセフの母親がクーデターを起こしてその後姿を消す設定。シーザーの幼少期が一気に語られる回想、ジョセフが敵キャラをほとんど倒す展開など、一つ一つの要素を置き換えたり、再構築しながら物語を作っていく。そんなことを意識しました。以下は例なんですが
物語の模倣
ストレイツォの裏切り、ジョセフ涙 = 喜三太の裏切りと涙
ストレイツォの事件から物語が動き出す = 喜三太の謀反をきっかけに島の外へ
過去編の模倣
クーデターにより家族がバラバラに。両親不在の幼少期 = 父親の謀反により家族が流刑。助世富は罪人へ転落し孤独を深める
シーザーの父が家出。貧困。確執からの和解 = 椎坐の父親と継母などの一族とのいざこざにより田舎に追放される。確執と和解
構成と展開の模倣
過去が回想の形で一気に語られる
助世富がほとんど全ての敵を倒す
2人の関係(原作は出会ってから死ぬまで、本作は喜三太の謀反から終わりまで)が1ヶ月程度の出来事
入れ替わり要素
助世富ではなく椎坐が涙を流す(助世富は一度も泣かない)
助世富より椎坐の方が頭が切れる。助世富はやや粗暴な印象(性格は原作を遵守しつつ気質を交換)
など、原作の流れや要素、構成を二次創作する。これもれっきとした二次的な創作だなぁと、頭をコネコネしながら結構楽しく書いていました。
やはり今回は「原作が実は転生後の世界だったとしたら」という設定、つまりこの話は「原作の転生前の物語」として書きたかったので、原作の要素を色々再構成するように努めました。だって転生前と転生後で二人の要素が混ざり合ってたらエモいじゃないですか。転生前は椎坐の方がよく泣くけど、転生後は助世富の方がよく泣くとか。
私はとにかく、ラストが書きたくてこの話を書き進めました。原作に転生したジョセフとシーザーの転生前の物語を書いてみたかったんです。ジョセフの人生のほんの1ヶ月にだけ現れたシーザーという男。彼がなぜ1ヶ月だけあのような形で現れたのか。そして助世富がなぜあのように長生きで、豊かな人生を送ったのか。それを繋ぐ転生物語が描きたくて今回は筆を取りました。テーマが壮大ですぎて力不足感は否めないですが、それでも書いて良かったなと思っています。
雪椿と福寿草。色と光の言葉
助世富は福寿草。椎坐が雪椿。
助世富は町の片隅に人知れず咲く福寿草の花。これは椎坐から見た助世富です。椎坐の世界には色々なもの(しがらみ)があるからこそ、数々のしがらみの中から助世富を見出し、そこに小さな愛を見つけます。助世富は全てが焼け落ちた後にも、一人で咲いていました。光があれば、椎坐がいれば、助世富は咲き続けるという強さがあります。
————— ひとりぼっちの福寿草。彼は雪夜の椿に恋をした
椎坐のイメージは雪椿ですが、これは助世富から見た椎坐です。助世富の世界には椎坐しかいない。真っ白な雪と夜の闇しかない世界で椎坐は唯一の花でした。
雪夜の白と黒、雪椿の赤、雪に舞う血、黄金の朝日、福寿草の黄色。さまざまなイメージを色を通じて象徴的に書きたいと思い、今回は花や雪などの色をたくさん採用しました。
リバとしての恋愛表現、その理由
今回八話を描き終えるまで、ジョセシーにするか同軸リバにするか迷いました。結局、八話の時点でこれしかないと自然に決まり、今回は同軸リバの話になりました。
男と女であれば、二人の愛の形がどのようであれ男と女としての形になる。ならばBLでも同じで良いはずとも思います。相手の心理的状況によって役割を変える必要はないと。そう考えたとき、最後までジョセシーで通すのもありだなとも思ったのですが、でもそれはなんだか違う気もする…… という迷いに悶々としている時間がありました。そのせいで左右未定なんて表記をして直前まで悩んでいたんですが、書き進めていくうちに自然とこの形に落ち着きました。
創作にリアルな世界の性の概念をそこまでシビアに持ち込む気はないのですが、同じ性別同士だった場合、行動と感情が素直に一致した表現になるっていいよねと思い、私はリバの形を好むのかもしれません。
今回で言えば助世富は、長い間抑圧してきた椎坐への恋心、独占欲、執着などが大爆発した時、椎坐の身も心も全部手に入れたくてガムシャラに抱いてしまいました。しかし、椎坐が本当に背負うものに気がついたとき、戸惑い、自分の感情を恥じて後悔します。逆に椎坐は自分の感情に目を逸らしたまま抱かれ、自分自身と向き合わないことにより多くのものを失いました。しかし互いに、心のトラウマ、後悔、懺悔、未熟さ、そういったものを受け止めることで、ようやく愛に触れます。すれ違いの果てみたいな状態ですね……
確かに二人が真に向き合うという段階で、椎坐が再び助世富に抱かれるという形でも良かった気はします。でもなんというか、助世富は本当は、椎坐に抱いて欲しかったんだよな……ということに書きながら気が付いてしまったんです……自分を受け入れるだけでなく、自分を求めて欲しい。もっと強い確かな感情が欲しかったんだろうなと。恋焦がれるほど大好きな人に、自分と同じくらい自分を求めて欲しかったんだろうなって。あーあ。そう思ったら書かずにはいられませんでした。
エンドロール。イメージ曲とか
Yas – Empty Crown
照明が落ちると、空の王冠を手に入れた
When the lights come down, Got an empty crown
この曲に出会ったおかげで、この小説が生まれたと言っても過言ではないくらいに、イメージソングです。絵と歌詞と音楽の雰囲気で最大限の解釈が生まれる感じが素敵な一曲です。もちろん音と歌詞だけでもいいんですけど、イラストと合わさるとイマジネーションが爆速していく。ちなみにコメント欄で、たくさんの人が素晴らしいポエムを残していて、これがまた良いんですよね。
そんなこんなで東の国の話、いかがでしたでしょうか?
正直頭の中身と出てきた文章が追いついて無さすぎて涙目なんですが、自分なりに楽しく書くことができました。たくさんの登場人物、複数人での戦闘シーンなど今まであまり書いてこなかったものに挑戦できたのも良かったです。小説って難しいけどやっぱり楽しいなぁと改めて思いました。
このとっ散らかった長編小説を実際読むとなると、なかなか骨が折れたのではないかと思います…。お読みいただいた方は本当にありがとうございました。このあとがきが少しでも物語の補足になったのであれば幸いです。次はもう少しゆるくて短めのお話を書こうかなと考えています。
それでは、助世富と椎坐のお話を少しでも楽しんで頂けたのであれば嬉しいです。小説・あとがきと最後までお読みいただき本当にありがとうございました!