季節は確かに秋へと移ろっていた。
十月の初め、木々はまだ濃い緑を保ちながらも、枝先には黄や赤がにじみ始めている。昼間の陽射しは柔らかく、だが夜風には確かな冷たさが忍び込んでいた。ジャケットの襟を立てる人々が街角に増え、ラウンジのメニューには温かなポートワインやウィスキーの名が並ぶようになっていた。
シーザーはジョセフと顔を合わせる機会を増やしていた。金融街の高層ビルでも、ミッドタウンのラウンジでも、二人は暇さえあれば社交の場に姿を現した。仕事を共にするわけではない。ジョセフは不動産、シーザーは金融。領域は異なり、数字も地図も交わることはない。だが紹介や会食、投資家の集まりで接点を持つのは容易だった。シーザーがわずかに視線を送れば、ジョセフは不器用に頷き、会話の輪に加わる。主催者に紹介されて隣に座ると、ジョセフの空気は甘くやわらいだ。
ワインリストを前に、ジョセフは一瞬ためらったが、以前シーザーに教えられた銘柄と産地を覚えていたのだろう。秋にふさわしいボルドーを選び、注がれた赤はランプの下で深い光を放った。その場の空気は自然に和み、周囲の視線も好意的に流れていった。
社交の場を重ねるごとに、確かにジョセフは変わりつつあった。立ち居振る舞いは少しずつ板につき、話題の切り返しにもリズムが生まれた。
「最近、ジョーンズは変わったな」
そう囁く声を耳にしながら、シーザーは口角をほんのりと上げる。
―― 変わってなどいない。ただ、俺の色が少し滲んでいるだけだ。
シーザーの目は欺けない。所作は洗練されても、彼の本質は変わらない。
視線の揺れ、手の置き方、笑い方。未だ誠実さと不器用さは消えていない。むしろ、それが彼の “核” にあるのだと見抜ける。そしてジョセフの振る舞いは、あくまで自分の呼吸合わせに過ぎない。シーザーの冗談をタイミングよく拾い、的確な場所に打ち返す。
シーザーはグラスを軽く掲げ、集まりの輪の中に滑り込む。その一歩の間合い、声をかける順序、名前を出すタイミング――すべてが計算されていた。横に立つジョセフは最初こそぎこちなかったが、今では一拍遅れて同じ所作をなぞる。
「こちら、先日ご紹介いただいた建築家の――」
シーザーの声にかぶせることなく、ジョセフは自然に頷き、軽やかに握手を交わす。
一カ月前なら言葉に詰まっていたであろう場面で、今は簡潔なフレーズを返す。余計な飾りを排し、相手の反応を待つ。まるでシーザーの間合いを身体で覚えたかのようだった。周囲から見れば、二人は阿吽の呼吸で場を転がしていた。片方が針を落とせば、もう片方がその振動をすぐに拾う。輪の中心に立つのは常にシーザーだったが、ジョセフが寄り添うことで、その存在感はむしろ増して見えた。
シーザーは小さく笑った。ジョセフはその笑みの意味を知らぬまま、また一歩、彼に歩調を合わせていく。
焦らすこと。近づいては一歩退き、引き寄せては境界を引く。シーザーの作戦は淡々と続いていた。ジョセフの世界を懐柔しながらも、彼の期待には応えない。ジョセフの視線には、苛立ちとも戸惑いともつかぬ熱が宿り、それを隠そうとしても隠し切れていない。
ある会席の終わり、会話の輪がほどけた頃。ジョセフがシーザーの隣で、ためらいがちに口を開いた。
「……今度、ゆっくり食事でもどうだ?」
声音には、控えめながらも確かな決意が混じっていた。シーザーは曖昧な笑みで応じる。心の奥では、冷たい囁きが静かに笑っていた。
Episode 2. Power drive
その週末の夜、ジョセフが選んだのは、ミッドタウンにある老舗のステーキハウスだった。
木製の回転扉を押すと、店内に厚い脂とバターの香りが漂い、暗い木の壁と深紅のレザーシートが視界を満たす。壁には古い野球選手や市長の写真が額に収められ、グラス越しの琥珀色が時代を重ねた重みを演出していた。
案内されたのは、わざわざ予約された個室だった。
「……気合が入ってるな」
シーザーは内心で呟き、口元に笑みを浮かべる。格好つけようとしても不器用さの残るジョセフが、こうして場を整えたこと自体が可笑しくもあった。
メニューは限られていた。肉の種類を選び、焼き加減を伝えるだけ。
「……ここ、親父に連れてきてもらったんだ。高校の卒業祝いで」
ジョセフはそんな話を、緊張を隠すように口にした。シーザーは短く頷き、ワインを揺らした。肉の焼ける匂いが個室に満ちていく。焼き色の香ばしいステーキが運ばれ、ナイフを入れると、分厚い肉は鮮やかな赤を覗かせた。
「どう?」
「旨い」
シーザーの短い返答に、ジョセフの肩から力が抜けたようだった。しかし会話はそれ以上深まらなかった。仕事でもなく、個人的な核心にも触れず、ただ天気や最近のニュースをなぞるだけ。空気を壊すのを恐れているのか、ジョセフはひたすら慎重だった。シーザーは心の中で冷ややかに様子を記録しつつ、焦らすように微笑を絶やさなかった。
店を出ると、夜風が肉とワインの香りを洗い流した。ミッドタウンの通りはまだ賑わっていて、タクシーのクラクションと、バーのドアから漏れる音楽が交じり合っている。ジョセフはまっすぐ西を指すように歩き出した。迷いがない歩幅に、気持ちの昂ぶりが滲んでいた。
やがて川沿いのピアに着く。摩天楼の光が水面を砕き、ひとつひとつの波に銀の破片を散らしている。風は潮と鉄の匂いを運び、街の残り香を剥がしていく。
シーザーは柵に片肘をかけ、海を見下ろすように立った。夜景は完璧で、同時に空っぽだ。ネオンの色彩も水面の煌めきも、金で買える光にすぎない。そんな風景をつまみに、これからジョセフがするであろう “パフォーマンス” を期待して待った。
一方で隣のジョセフは、風に前髪をなびかせながら、子供のように落ち着きなく視線を動かしていた。街を、川を、行き交うフェリーを、意味もなく追っている。頬はほんのり赤く、唇は言葉を探すようにわずかに開いたままだ。
「……あ、あのさ、シーザー」
呼ぶ声は、風にかき消されそうで、それでも真っ直ぐだった。
「……俺さ、ずっと、憧れてたんだ。シーザーのこと。会った時から。いや、会う前からずっと……」
言葉を重ねるたびに、ジョセフの横顔は緊張に強張っていった。一息、大きく深呼吸をすると、シーザーに向かってまっすぐ振り返る。
「最近さ。シーザーのおかげで、社交の場も楽しくなってきた。ああいう場所、苦手だったけど。でも、シーザーが一緒だから……」
ジョセフの顔には、幼さの残る幸福と不器用な羞恥が入り混じり、どうしようもなく正直な表情が浮かんでいた。
「……俺、シーザーと一緒にいるのが好き、だ……」
頬の赤みは熱を帯び、視線は揺れながらも逸らさない。
「……俺、シーザーのことが………… 好きなんだ」
告白の言葉は、夜景の喧騒よりも鮮やかに響いた。
シーザーは片眉を上げ、口元に余裕の笑みを刻んだ。
「……ふふ、悪くないな」
その言葉にジョセフの強張った表情が、くしゃりとほころぶ。そして「それってつまりどういうこと!?」と気の緩んだ質問を子どもみたいに繰り返す。シーザーはあえて曖昧にはぐらかしながらジョセフの肩を叩いた。
全てがあまりにも思った通りだった。告白の言葉、タイミング、表情。何もかもがあまりにもイメージ通りで、シーザーは声を出して笑いそうになった。しかしあくまで穏やかに笑う。その表情の下、冷ややかな計算は揺るがない。どう支配する。どの角度で、どの順番で。ジョセフの純朴な眼差しさえも、舞台の小道具にしか見えなかった。
「悪くない話だな。条件次第だ」
「条件?」
ジョセフはその言葉に少しだけ顔を曇らせる。
「俺は男でも女でも、同じスタンスだ」
「……?」
ジョセフが小さく首を傾げた。頬にかかった髪が風に揺れ、その仕草は思いがけず幼い。シーザーは静かに笑った。
「俺に抱かれる覚悟はあるのか、ってことさ」
その瞬間、フェロモンの濃度をわずかに上げた。水面に石を落とす程度の揺らぎ。潮風に乗る前に、ジョセフの喉が上下し、瞳に熱が差す。
「……そ、それは……」
顔の赤みが強く広がる。シーザーは黙ってジョセフを見つめ続けた。川辺に潜むワニのように、必ず相手を引きずり込むつもりで。
川面の光が二人を照らしていた。街の喧騒は遠く、風の音と水音だけが残る。シーザーはその場に立ちながら、ジョセフの姿を冷静に観察し続けた。背筋は伸びているが、拳は握られている。喜びと不安、勇気と恐れが同居するその表情は、あまりに無防備で甘美だった。
狩人の胸に、冷たい熱が走り抜けた。
*****
純血のアルファはいつだって孤独だ。誰よりも強く、美しく、欲望に満ちている。死ぬまで高みを目指し、そして低き者を息をするように支配する。共感、同情、平穏、そんな言葉は母親の子宮に置いてきたのかもしれない。大体がそんな奴らだった。
だからこそ男たちは結びつく。互いの孤独を埋めるかのように。それはアルファ同士、珍しいことではなかった。
ジョセフ・ジョーンズという男は、そんなアルファと比べたら、きちんと血の通った男には見えた。実際に何人かのベータやアルファの女性とも交際したことがあるらしい。しかし男に好意を持ったのは初めてだと彼は素直に語った。
そんな素直な彼の口から、一度も “オメガ” という単語が出てこないのは、彼自身がオメガとは程遠い世界に身を置いているからなのだろう。人間の最下層、差別と貧困の陰に生きる、生まれながらの敗北者。彼の世界にはオメガは存在しないも同然なのだ。都市伝説か、遠い異国の物語みたいに。
エレベーターは静かに上昇していった。光る数字がひとつずつ積み重なり、摩天楼のきらめきが足元に沈んでいく。五十階を超えると、街は星図のように散らばり、ビルの群れさえも低い丘のように見えた。
ハドソンヤードの高層コンドミニアム。扉が開くと、白い革張りのソファと磨かれた木目の床が迎えた。余計な装飾はなく、家具はすべて上質で機能的。窓一面に広がる夜景は、都市を掌に収めたかのような錯覚を与える。
――アルファの巣だな。
シーザーは視線を巡らせ、薄く笑んだ。
ジョセフをそそのかすのは容易だった。幼い告白。それに応えた “ふり” をするのに最適な、頬にほんの少し触れるだけのキス。
そして “抱かれる覚悟があるなら、特別になってやろう” そんな高慢な一言で、彼はあっけなく落ちた。指を絡めて耳打ちすれば、彼はいとも簡単に自室へと案内した。アルファの欲望とは非常に単純なのだ。
シャワーを浴び終えたシーザーは、タオルで髪を拭きながら錠剤を取り出した。抑制剤。舌の上に載せ、無味に近い苦みを喉に流し込む。
「煽りすぎるな。主導権を渡すな」
鏡に映る自分は今日も完璧に仕上がった “アルファの仮面” を被っていた。
隣のバスルームから、湯気を纏ってジョセフが現れる。シャツ一枚を羽織っただけで、濡れた前髪が額に貼りついている。肩幅の広い体格はシャツを引き伸ばし、抑えきれない熱を宿していた。
「……シーザー」
呼ぶ声はかすかに震えていたが、視線は真っ直ぐだった。距離を詰め、ジョセフが不意に顔を傾けた。
「……キス、しても……?」
シーザーはすぐに手でその顎を軽く押さえた。
「それは駄目だ」
淡々とした声音。
「どうして?」
しかしシーザーは答えず、ただ視線で押し返した。ジョセフは戸惑いながらも、従順に後を追う。だがその肩は熱で硬直し、呼吸は深く荒い。それでも、ベッドに押し倒すのはシーザーの方だった。手の動きは正確で、迷いがない。シャツのボタンを外し、その下で高ぶる熱い肌を撫でる。布地の下に現れる体は鍛え抜かれており、力強さと無防備さが同居している。
「……や、やばい、ドキドキする」
ジョセフは自分の胸に触れ、苦笑のように吐息を漏らした。
「我慢しろ」
シーザーは低く命じ、フェロモンをわずかに解き放った。香りが空気を染めると、ジョセフの瞳が揺れ、喉仏が大きく上下する。
「……いい匂い……すごく……」
その声は幼く、熱に浮かされていた。触れるたび、ジョセフの身体は過敏に反応した。腕を掴んだり肩に触れたり、忙しない様子のジョセフに呆れながら、シーザーはそのたびに手首を押さえ、呼吸の速度を合わせ直した。
「落ち着け。俺の言う通りに」
「……うん」
信頼と同意。あまりにも素直に従う男に、支配欲が風を孕んだ帆のように一気に張りつめた。その巨大な身体を無防備にさらすアルファの姿など、早々見れるものではない。シーザーはジョセフの下着を剥ぎ取り、膝を抱えさせた。
「……ん、っあ…………」
用意した潤滑油を垂らしながら、尻の割れ目に指を這わせる。きつく閉ざされた穴に指を忍び込ませると、ジョセフは息を詰めた。この巨大なアルファの身体だ。もっとグロテスクな光景かと想像していたが、案外抵抗はなかった。
「力を抜け」
「で、でも……」
ジョセフはあからさまに戸惑っていた。アルファの本能に強く抗う行為だから仕方あるまい。シーザーは内心ほくそ笑みながら、あえて優しくなだめた。
「大丈夫だ。俺に任せればいい……」
不安と恐怖にも似た表情を浮かべるその顔、その額に、一つだけキスを落とす。それだけでジョセフはほだされ、身体を自ら明け渡そうと努める。
それからは駆け引きだった。抵抗には優しく、甘さを見せたら凌辱的に、男の体を翻弄する。これは愛じゃない。支配という行為だ。それを彼の身体の刻むために、シーザーは腰を突き入れた。
最初の行為は予定どおりに進んだ。こわばる身体を柔らかく開き、ペニスを突き入れる。彼が “アルファに抱かれている” という強い実感を得るように侮辱的に、しかしときに甘やかすように言葉をかけ続ける。愛撫は極力避け、体の内側の支配だけに集中する。ジョセフは何度も腕を伸ばそうとするが、手首をシーツに押さえつけて触れることを許さない。きつい内側に何度もペニスを擦り付け、時に奥まで押し込み、存在を刻んでいく。そして、彼のペニスが雄々しく揺れ出した頃、その体内にたっぷりと精を注ぎ込んだ。
「あっ、あ……い、今の……」
「なんだ、感じたのか?」
「……なか……出したの?」
「女みたいなことを言うんだな」
ジョセフはその言葉に、狼狽した表情を浮かべる。シーザーはジョセフの様子を観察するが、これといった変化は見られない。どうやらビッチングは不発だったようだ。流石に一度で上手く行くとは思っていなかったが、シーザーは内心舌打ちをする。今のはあくまでマーキングに過ぎない。いったん腰を引き抜き、目の前で生ぬるく立ち上がる男のペニスを躊躇うことなく口に咥えた。
「!!!!」
ジョセフは声にならない声を上げ、腰を引いた。しかしシーザーは構うことなく、乱暴なフェラチオを繰り返す。
「……うぁ、あ、あっ、ぁ……」
「なんだそんなに、気持ちいいのか?」
「……ん、んん、気持ちい……」
口の中いっぱいになるほど張り詰めたところで、口を離すと、ジョセフは物足りなげに腰を揺らした。しかし相手にせず、再び使用済みの穴にペニスを突き入れる。ジョセフ身体は意外にも素直に馴染んだ。腰の動きに合わせて身体が熱く張り詰めていくのを感じる。その端正な顔が色に染まっていく様はなかなかに官能的で、シーザーはよがる男をじっくりと見下ろした。
「……あ、あっ、ん……シーザー……っ……」
視線が交わる。蜂蜜みたいに濡れた甘い瞳で、何度も甘ったるい声で名前を呼ぶ。その匂い立つ熱を振り払うように、乱暴に腰を突き入れ続けた。動きに合わせ、ジョセフのペニスから先走りがトロトロと溢れ出るのを確認したところで、もう一度精液をたっぷりと流し込んだ。
今度こそ成功したはずだ、シーザーはそう思い、身体の変化を待った。しかしそこには興奮の余熱があるだけで、それ以上のものは何もない。
「……シーザー、また、なか、に…………」
ジョセフはうわ言のように抗議する。見下ろす限り、その男はまだ興奮気味な様子で、汗を拭っている。
「……なぜ、だ……」
シーザーは苛立つ。フェロモンの影響なのだろうか。ビッチングどころか、彼の興奮はなかなか収まるところを見せない。長引くセックスにシーザーは火照りを感じ始めた。ジョセフのフェロモンが身体の奥をじわじわと蝕んでいるようだった。
「くそっ……」
シーザーは唇を噛んだ。必要な手順を踏んでいるはずなのにビッチングが成立しない。まるで鍵穴がわずかにずれているかのように。
「……っ、まだだ。もう一度……」
シーザーは香りを強め、さらなる深みへと導こうとする。二度の射精で活力は尽きていたが、オメガの体質をバネに欲を呼び起こす。しかし次の瞬間、ジョセフが腕を掴んだ。そして体格そのままの力で、シーザーを組み敷いた。
「何をしてる!」
「だ、だって……っ……」
シーザーは再び体勢を取り直しジョセフの身体を押さえ込む。
「行儀が悪いぞ」
低く冷たい声で押し返す。
「ごめん……でも、シーザー……どうしても……」
熱に浮かされた声でジョセフは縋り付く。
「シーザーが欲しい……っだって、好きなんだ……っ……」
言葉は直線的で、拙く、しかし嘘がなかった。シーザーは苛立ちと同時に、わずかな揺らぎを胸に覚えた。
―― こいつの甘さが邪魔をする。支配に集中できない
シーザーは内心舌打ちをする。
何度も「ごめん」と謝りながら、ジョセフはシーザーの指示に従おうと必死だった。しかし溢れ出す欲望が衝動を抑制しきれていない。貫かれ、喘ぎながらも、その太い足を腰に絡め、全身を使って身体を強く抱きしめる。
「あっ、あ、シーザー!シーザー!」
ジョセフは自ら腰を振りながら、欲望をとめどなく溢れさせた。キスを何度もせがみ、その強い腕力で身体を絡め取って離さない。触れる箇所から疼きにも似た痺れが走り抜け、シーザーは直感的に恐怖を感じた。このままではまずい――
身体をずらしてなんとか抱擁から逃れるも、ジョセフの唇が首筋に吸い付いた。甘い痺れが腰まで走り抜け、息を飲む。空っぽのペニスに無理やり群がる荒い緩急に、痺れるような痛みが滲む。ジョセフはシーザーの身体を飲み込むように、激しく腰を振り続け、シーザーのペニスから精を絞り出した。もうどちらが抱いているのか分からない。
結局、二人はアルファとオメガの境界を越えることなく、獣のようなセックスをして終わった。
「……ごめん、なさい…………」
息が落ち着いたあと、シーツに伏したジョセフが小さく囁く。窓越しには静かな摩天楼が浮かんでいた。特に意味もなく明滅する光の粒が、なぜか今日は少しだけ透んで見えた。
「…………謝るな。次は、俺の言うとおりにしろ」
「……うん」
じっと見つめる男の視線に耐えかねて、その額に手を押し当てると、安心した子どものようにジョセフは目を細めた。シーザーはその横顔を見下ろし、深くため息をつく。
「厄介な男だ……」
だが胸の奥には、冷笑では覆えない熱が、わずかに残っていた。


