ジョジョと奇妙なバリスタの話 プロローグ

 
 
 
 

JOJO’S BIZARRE STORY, with Bizarre Barista

Prologue

 
 
 
 

 ニューヨークのミッドタウン、夕暮れ時。オフィスビルの電灯が点き始め街が穏やかな茜色に包まれ始める。ビルの谷間に広がる雑踏の中、不動産の仕事から解放されたジョセフは少し疲れた心地で街を歩いていた。パークアベニューのビル群を抜けると、この街で一番大きな終着駅グランドセントラルターミナルが見えてくる。この趣あるボザール建築の駅を見るとロンドンを思い出し、なぜだか少し安心するのだった。

 エリナおばあちゃんがなぜロンドンを離れる決断をしたのか、あの時はよく分からなかった。ただあの頃はロンドンに強い思い入れもなかったので、何となく新しい街に移ることを喜ばしく感じ、後腐れもなく海を渡った。この街に住んで、ようやくその理由が分かったような気がする。古い因習、没落貴族という立場で社交界を生きる苦悩。そして未亡人であるという烙印。祖母が何もかもから逃れ、一から自分の手で何かを掴むことに強い憧れを持つのは当然と言えば当然のことだった。そしてこの街はそんな様々な境遇の人間たちがギラギラした欲と静かな孤独を抱えながら未来を夢見る場所である。同時に、そんな美しい夢や希望を血と骨にした華やかな摩天楼の陰で、陽に当たることができないゾンビを大量に生み出す街でもあった。
 ロンドンにいた頃は常に貴族出身の同級生らとの表向きな付き合いもあった。それなりに気の合う奴もいたが、ほとんどの人間に興味が持てなかった。遠い昔の誰かが手に入れた ”おこぼれ” を、あたかも自分のもののように語る無能な奴や、偽りの自由と平和を謳いセックスとドラッグに溺れる奴。そんなトンチキ野郎ばかりでうんざりだった。そこから解放される喜びを噛みしめるのも束の間、石仮面を巡る祖先の因縁に振り回され、あれやこれやとしているうちに人類滅亡の危機の大事件へと巻き込まれて行き————— それも今となっては20年も昔の話だ。 今はその無事に救ったらしい世界の中で、社会の歯車となりつつもそれなりに楽しく生きている。 何を言おうと、妻スージーQと娘のホリィを、何にも代えがたいほどに愛していた。

 以前は、オフィスと家の間は3ブロックほどの距離だったが、ホリィが大きくなるにつれもっと教育に力を入れた安全なエリアに住もうということになり、おかげ様で今は徒歩でオフィスに通うのは難しくなった。 車を出すこともあったが、最古で最先端の地下鉄道とやらに乗りたくて時々こうして切符を片手に地下を走る電車に乗り込む。ニューヨークの地下鉄はその便利さ故に様々な人間が常時行き交う。そのため嗅ぎ慣れない強い香水や色々な人間の体臭が混ざった複雑な匂いがして、思わず鼻をつままずにはいられない。煌びやかに宣伝されたイメージとは裏腹に、地下鉄道はゾンビの巣窟のごとく行き場のない思いを乗せて同じ道をぐるぐると回るのだった。列車にしろ飛行機にしろ、乗り物はジョセフにとっていつだって夢を運ぶ未来の象徴だったが、残念ながらこの地下トンネルの電車はまともな人間が通るべき道を指し示してはくれないようだ。
 地下鉄から這い出ると、ようやく息が吸える。空気がひんやりと冷たい。自分が初めてニューヨークに下り立ったのも、確かこのくらいの季節だった気がする。思わず秋色を帯びた街路樹に目を細めた。斜めに長く伸びる群青色の影ときらめく光のコントラストが美しい。そんな風景に魅入っていると、交差点の前で見覚えのある金髪とすれ違う。キラキラと透けるその金色の奥には涼しげなブルーの痣が浮かんでいた。
「………!!!?」
 ジョセフは思わず横を通りすぎた男の腕を掴む。 腕を掴まれた男は少し身体をのけぞらせつつもその場に踏みとどまり、驚いた顔でジョセフを睨んだ。
「な……!?」
「シーザー!!?」
 男が声を上げる前にジョセフは名前を叫んだ。かつての親友、シーザーと瓜二つの顔がそこにあったからだ。ジョセフは思わず息を飲む。しかし、目の前の男は怪訝な顔をして眉間に皺を寄せた。
「俺と人違い? それは面白いね。でも、ごめん。俺はシーザーじゃないよ」
 ジョセフは彼の言葉にハッと我に返る。
「あ、ああ、すみません。失礼しました。友人にすごく似ていたもので……」
 ジョセフが微笑みながら頭を下げると、男も軽く微笑んで再び歩き始める。彼がただの通行人であることを理解すると、胸の奥がちくりと痛んだ。

シーザーはもういない。

 あまりにも似ていたけど、似ていたからって彼のはずがない。彼は20年前に死んだ。とうの昔に気持ちの整理はつけたつもりだ。それなのに。
 行き交う人々の喧騒とは裏腹に、ジョセフの心は静寂に包まれていた。まるで世界から置いてけぼりにされたかのように、胸いっぱいに寂しさが溢れた。
 ジョセフはただ黙って、去り行く男の姿を眺めることしかできなかった。

 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

登場人物

ジョセフ・ジョースター
38歳。ニューヨークで不動産業を営むイギリス人。妻と一人の娘がいる。20年前の世界の命運をかけた戦い(石仮面と柱の男の戦い)に身を投じ無事生還した。波紋使いだが現役は退いている。以前は気性の激しい性格をしていたが、現在は年相応に落ち着いてきた様子

ヨシュア・オドネル
20歳。バリスタとして働く大学生。20年前に死んだジョセフの親友・シーザーに似ていることから、ジョセフと交流することになる青年。性格はそれほどシーザーには似ていないようで、年のわりにまだ幼さの残る現代っ子。

 
 


 

About

 1958年。石仮面をめぐる戦いから20年後のニューヨーク。ジョセフは雑踏の中で偶然シーザーに似た青年を見つける。彼の名はヨシュア。バリスタをしている大学生で、ジョセフは毎朝ヨシュアが働くカフェに通うようになる。ヨシュアは一体何者なのか。「20年前に死んだ友人」を彼の中に探すジョセフと、そんな風変りな客に夢中になっていくヨシュアとの、ちょっと奇妙な物語。
 
 
※全10話くらいで連載予定。死や転生などのテーマが含まれるため、重め・暗いシーンがあります。苦手な方はご注意ください。行き着く先はハッピーエンドだと思います、たぶん…
※ヨシュア(=シーザーらしき人)のため口調・性格などシーザーと大幅に異なる部分があります
※物語進行の都合により、左右カップリングに関する表記は現状しておりません。大丈夫な方のみお読み頂ければ幸いです