Episode.5 wrong end (*R-18)

 
 
 
 
 
 

「ジョーンズ様。コッポラ氏がお見えです」
「ありがとう。通して」
 ドアマンから内線が入り、ジョセフはシーザーを招き入れた。先日とは違いドアマンも自然な態度を示していることから、シーザーはそれなりに身なりを整えてきたに違いない。しばらくしてドアベルが鳴り、ジョセフは玄関を開けた。
「や、シーザー。来たね」
「ああ」
 シーザーの顔にはいつもの華やかさがなかった。ジョセフはシーザーを迎え入れ、バーカウンターに座らせた。
「 “忙しい” のに、わざわざありがとう。何か飲む?」
「……ジョセフ、あの……」
「何か、飲む?」
「……じゃあ、その、ジャックダニエルで」
 シーザーは相変わらず固い表情のままだった。氷を割る音とグラスに酒を注ぐ音しかしない部屋は、この上なく冷たい緊張に包まれていた。
「そんな顔するなら、はじめからあんなことしなければいいのに」
 シーザーの前にグラスを置きながらジョセフはにっこりと微笑んだ。
「俺は、お前を傷つけるつもりはなかった」
「へぇ」
「俺はまともじゃないんだ。……何を言っても、もう遅いだろうけど」
「そうだね」
 ジョセフは頼りなさげなシーザーを舐め回すように見た。
「シーザーってさ、タチ専じゃないの?」
「え?」
「バーで聞いた。シーザーの噂」
「そうか」
「男を抱きまくってるらしいじゃないか。しかも紳士が好きなんだって?」
 シーザーは祈っても答えることのない彫像のようにじっと黙っていた。
「それじゃなんで俺のこと抱かないの?」
「……お前は、他とは違うから」
「そんな言葉、信じられると思う?」
「信じなくてもいい。ただ、俺にとってはそうなんだ」
「あっそ。じゃあ抱かせて」
 シーザーが家に来るまでの数時間、ジョセフはマグマのように沸き立つ怒りにじっと耐えていた。同時に、シーザーに同情するような気持ちもあった。なにせシーザーとは親友でもなければ恋人でもない、ただのデーティング中の相手に過ぎない。ジョセフが勝手に惚れ込んでシーザーのデートの場を壊したのだから、むしろ可哀想なのはシーザーの方かもしれない。それなのにシーザーは根っから申し訳なさそうな、全ての非は自分にあるかのような態度でそこに現れた。つまりジョセフが思っている以上に、彼には確信的な嘘があったのだろう。
 部屋に訪れたシーザーはまるで隙のない、完璧なスーツ姿だった。その装いは部外者には決して触れることが許されない、完成された調度品のようだった。夜の控えめな薄明かりがよく似合う。ジョセフは、そんな男に唯一触れることが許された人間のような気がして、歓喜で胸を震わせた。その紳士的な身衣の下に隠れた淫らな現実を暴きたくて、乱暴にジャケットを剥がし取る。そのままカウンターテーブルに肘をつかせ、体にピッタリとフィットしたパンツスーツを下着ごと脱がせると、白くて形の良い男の臀部がつるりと露わになった。シーザーは相変わらず黙ったままテーブルに視線を落としている。彼は無抵抗だった。それもまたジョセフの怒りを助長させる。イライラしながらシーザーの尻を乱暴に掴み、その割れ目に無理やり指を突き入れた。しかしそこは拒絶するどころか既に柔らかく濡れていて、にゅるりといやらしくジョセフを迎え入れた。おそらくここへ来る前に自分で慣らしてきたのだろう。シーザーの身体は下ごしらえの済んだ魚みたいに、喰われるためにそこにあった。
「……はは、やっぱエロいなぁ。準備してきたんだ」
「……………」
「それにいい匂い。煙草もマリファナも吸わない方が良いよ」
 シーザーの首筋に鼻を寄せて息を吸い込むと、上品でスパイシーな香りがふんわりと浮かんでくる。耳に小さく空いたピアスを弄りながらジョセフはシーザーの肌の香りを心ゆくまで堪能した。その間、シーザーはきつく唇を噛んでいるだけだった。罪滅ぼしのように黙って身体を差し出すシーザーにジョセフは暴力的な興奮を覚えた。しかし準備をしていたのはシーザーだけではない。彼が来る前にジョセフもありとあらゆるものを準備していた。ローションやコンドームなどの性具はもちろんのこと、シーザーを凌辱する方法を何通りも妄想した。二人は再会するまでの数時間、お互いのセックスのことだけを考えていたのだ。
 テーブルの上にはわざとらしくセックスに使う道具が並んでいる。ジョセフはローションを掴み、シーザーの背中に無遠慮に垂らした。とろりとした液体が白い肌をゆっくりと流れ落ちていく。それは臀部から割れ目を伝い太ももに達し、ポタポタと床へ滴り落ちた。男にしては滑らかな肌が、甘い蜜を塗ったかのようにぬるりと美しく汚れていく様子を、ジョセフはいつまでも眺めた。
「……っ! お、い! ジョセフ……っ……」
 しばらく見惚れているとシーザーがもどかしそうに腰をくねらせた。彼のペニスは既に少し硬くなり始めているようだった。
「何? まだ何もしてないけど? もう気持ち良くなってきた?」
 そんなことを言って煽ってみるが、物欲しげに腰を揺らすシーザーにジョセフのペニスはガチガチだった。興奮を悟られないよう気をつけながら、彼の柔らかな穴に再び指を突き入れ、中を乱暴にかき回した。
「……っ、ん、ぅ、……あ……」
 シーザーが鈍い呻き声を上げて身をよじる。ジョセフはお構いなしに指を目茶苦茶に動かした。そのたびにシーザーの中がきゅっきゅっと締めつけてくるものだから、思わず唾を飲み込んだ。
「……あ、あ、……じょ、セフ…っ……」
「そんな声、出るんだな」
 甘い声で名前を呼ばれるたびに、腹の底から痺れるような喜びが湧き起こってくる。どこをどう触れば気持ち良いのかなんてまるで分からなかったが、もっと甘い声を聞きたくて、シーザーの中を撫で回しながら前で硬くなり出していた雄を乱暴に抜いた。
「……あ! ん、……んぁ、あ…っ…」
 いつもの落ち着き払った声色からは想像もつかない、甘みを帯びた柔らかい鳴き声だった。遊女の才があるシーザーのことだから演技かもしれないと思ったが、それでもジョセフは堪らなく興奮した。もっと厭らしい声を聞かせて欲しい。ジョセフは彼を焦らしたくて、前を抜いていた指を太ももに、もう片方の指先を胸の筋肉へ這わせてみる。するとシーザーは突然怒鳴り声をあげた。
「……何をしている! ……そんなことは、しなくていい。さっさと、しろ……」
 シーザーはなぜか苛立っているようだった。ジョセフはその態度が気に食わなくて、指示を無視して彼の肌を執拗に愛撫した。
「…っ、おい! やめろ! 頼むから……」
 苛立ちは焦りとなり、シーザーは目の色を変えた。
「……乱暴にされないと、萎えるんだ。分かったらさっさとしろ……!」
 シーザーは何かに堪えるような息苦しい顔をしていた。しかし彼の言葉には嘘が含まれているように思えた。
「乱暴ねぇ…… だったらもう少し上手く誘ってくんない? ついつい乱暴したくなるくらいさ」
 ジョセフはシーザーの耳元で挑発的に囁いた。するとシーザーは振り返り、ジョセフの襟元を乱暴に掴んだ。シーザーの不穏な気配に咄嗟に身を引くが、彼は無理矢理ジョセフの首に腕を絡め、耳たぶに牙を立てた。ジョセフは思わず身体を引き剥がそうと身をよじるが、シーザーの舌が容赦無く耳に差し込まれ、ねっとりと軟骨を舐めとられる。湿った呼吸と粘膜の音が鼓膜をくすぐり、甘い痺れが全身を駆け抜けた。
「ぅ、あ、やめろ……」
「それは無理だなぁ “ジョセフ” 」
 耳の中に舌を突っ込まれたまま、吐息混じりにうっとりと名を呼ばれる。落ち着いた重低音が生温かい水音に絡み、脳に直接響く感覚にジョセフは狼狽した。シーザーは満足げな顔で首筋に舌を這わせ、太い動脈にキスをしながら、何度も甘ったるく名前を呼んだ。そしてジョセフが翻弄されている隙に身体を押し倒すなり、馬乗りになった。慣れた手つきでシャツのボタンを外し、ズボンからペニスを引き抜きながら、舌で乳首を吸い上げる。早急すぎる巧みな愛撫にジョセフは思わず悲鳴を上げた。
「いい声だな」
「う、うるさい!」
 乳輪をキツく吸われ真っ赤なキスマークをつけられる。乳首から腹筋を蛇のように伝いながらシーザーの舌はいよいよ雄の本体にたどり着いた。通常の二回りは大きいであろう自分の男根を、彼はその綺麗な口で頬張った。四つん這いになり、腰を高く突き上げながらペニスを咥える姿にジョセフは思わず息を呑む。
「……ん、ん、……ふ、ぅ……」
 鼻から息を出しながら美味しそうにしゃぶりつくシーザーの口元は唾液でベタベタだった。あまりにも激しいフェラチオにジョセフは腰が砕けそうになる。味わったことのない気持ちよさにどんどんペニスの質量が増してしまい、シーザーは苦しそうに顔を歪めた。
「…あ、もう、いいから……っ…」
 ジョセフは恥ずかしくなり、思わずシーザーを押しのけようとする。すると、伏せられていたグリーンの瞳が突如ジョセフを見上げた。蕩けた色が上目遣いに見つめたかと思うと、赤い舌を突き出し、太くそそり立ったペニスを犬みたいにずるりと舐めた。
 その光景に頭の血管がブチ切れたかと思った。気がつけばジョセフはシーザーの腰を掴み、後ろから乱暴に突き上げていた。床を這い、腰を高く突き上げるシーザーを見下ろしながらジョセフはがむしゃらに腰を打ちつけた。あまりにも淫らに自分を誘う姿に言いようもない怒りが込み上げ、歯を食いしばる。沸き起こる怒りに身を委ねると仄暗い興奮が背筋を駆け抜け、シーザーを滅茶苦茶に壊したくなった。
「怒ってるのか?」
「うるさい!」
「怒るとさ、すげぇ興奮するだろ?」
 シーザーはニヤリと笑った。
「ふざけるな!」
 余裕な表情、巧みすぎる愛撫、妖艶すぎる腰つき。その全てがジョセフの怒りを燃え上がらせた。犬のような格好で腰を振るシーザーを無理やり起立させ、身体を窓に叩きつける。ガラスに二人の精液が飛び散った。彼女たちが写真を撮っていた美しい摩天楼の風景は雄の交尾によってあっけなく汚れた。
「いい眺めだろ?」
 窓に手をつかせてからシーザーの腰を乱暴に引き寄せる。先ほどまでかき回していた秘部にもう一度ペニスを割り入れると、シーザーは腰を弓のようにしならせた。
「……ぅあ、……あ……」
 身体に残っていたシャツを剥がし取り、丸裸になったシーザーは夜の摩天楼の前で淫らに喘いだ。ジョセフは突き出された尻をうっとりと眺めながら、シーザーの中へ何度も腰を打ちつけた。そのたびにすっかりとろけた内側が、ぶちゅ、ぷちゅと音を立て、蜜を零していく。何度か腰を振っていると、窓に何かがぶつかる音が聞こえた。どうやらシーザーも再び勃起してきたようで、動きに合わせてそそり立ったペニスが窓に打ちつけられているようだった。先走りが窓を白く汚し、汗や唾液と合わさって淫靡な模様を描いていた。
「あーあ、汚れちゃった」
「……あ、あっ、あ……」
「誰かが向こうから見てるかもね」
 その言葉にシーザーの中がぎゅっと締まった。部屋の明かりはつけていなかったが、中が見えないとも限らない。ジョセフは向かいのビルや隣の部屋を眺めながら腰をゆすった。
「綺麗だな」
 贅を凝らした大都会の前で美しい男を凌辱するのは、この上ない贅沢に思えた。シーザーが紳士狩りをする理由が少しだけ分かるような気がする。知識や教養やファッション、ありとあらゆるものを美しく見繕れば見繕ろうほど、それを剥がし取った時の無防備な姿にこの上なく興奮する。丸裸にされ摩天楼の前で欲望を剥き出しにするシーザーは、まるで街の真ん中で処刑される罪人のようだった。
「なぁ、シーザー。実はさ、この夜景に少し不満があるんだ」
 ジョセフは見飽きたはずの夜景を眺めながらシーザーに語りかけた。
「ほら、あそこのビル。あれのせいでエンパイアが見えないんだ」
 シーザーの顎を無理矢理上向かせ、背の高いビルの間を指差した。
「誰も気がつきやしない。ストリートもブロックもこれだけ違うんだから、まさかエンパイアが見えるとは思わないだろ? ずっと住んでる者だけが知っている。見えそうで見えないってことを」
 ビルの影に隠れて頭のてっぺんだけになってしまったエンパイアステートビルを眺めながら、ジョセフはシーザーに腰を突き入れた。
「でもさ、別にビルが見えたからって、意外とこの風景の価値はそんなに変わらないとも思うんだ。考えてもみろよ。毎日エンパイアが窓から見える生活。ちょっと鬱陶しくないか?」
 夜景のためだけに深夜も点灯しているオフィスビル。美しく見える光はただ空虚に、誰もいない空間を照らしている。その空虚さは意外とジョセフの心を安心させた。全ての輝く星たちに誰かが住んでいるなんて分かったら、きっと鬱陶しくて星なんて見たくなくなるだろう。それはただ、意味もなく光っているから美しい。

「シーザーはさ、どんな風景が見たい? 目が覚めて窓を見ると、見えるんだ。毎日さ。それはどんな風景がいい?」
 この摩天楼はシーザーの目にどう映っているのだろう。汗ばんだ肌を撫でながら窓越しにシーザーを見つめた。

「……海が、見たい。……海が見える家がいい」

 シーザーは喘ぐようにしてそう呟いた。
「……そうか。それは凄く、いいね……」
 ジョセフはシーザーの背中にキスをした。夜のライトに照らされた逞しい背筋は男らしい陰影を描いている。シーザーは犬のように荒い呼吸をしているが、下を俯くばかりで顔がよく見えなかった。彼は今どんな顔をしているのだろう。彼の息が上がるにつれ、搾り取るような内部の動きがどんどん強くなる。しかしジョセフにはシーザーの気持ちの良い場所が分からず、ただがむしゃらに腰を動かすことしか出来なかった。むしろシーザーの動きは何かを知り尽くしているかのようにジョセフを絶頂へと高め続けた。
「……っ、くそ……」
「……そろそろ限界かな、ジョセフ君?」
「うるせぇな。黙ってろ」
 散々相手を煽っておきながら、肝心なところで上手くいかないのでは男として恥ずかしい。しかしそれを見透かしているかのように、シーザーは腹の筋肉を巧みに使い、ジョセフの熱を遠慮なく搾り取ろうとする。
「シ、シーザー……待て、っ、イッちまう……」
 思わず引き抜こうとするが、シーザーはさらにぎゅっと力こめて逃さなかった。
「いっちまえよ」
 シーザーの一際強い締め付けをやり過ごすことができず、ジョセフは言葉通り絶頂を迎えた。ジョセフの射精を受け止めたシーザーはそのまま力なく崩れ、自然とペニスは抜け落ちた。空虚になった穴から、とろりと白いものが流れ出るのが見える。ぐったりと窓にうなだれ、ぼんやりと摩天楼を眺めるシーザーの目は虚ろで、彼のペニスはあっけなく熱を失っていった。
「……はぁ、ぁ、…シーザー、ごめん…………」
 ジョセフは思わず謝った。射精したせいか先ほどまでの燃え上がるような怒りは静まっていた。
「先にいっちゃった……」
「そんなの、構わんさ」
「でも」
「初めてみたいなもんだろ。そこまで期待しちゃいないさ」
 シーザーはなだめるようにジョセフの肩を抱いた。その温度は驚くほど優しかった。

―——— 優しくて、温かい。まるで羊みたいに。

 ジョセフはシーザーの身体をぎゅっと抱きしめた。

「ジョセフ?」
「もう一回、していい?」
「え! は?」
 シーザーの同意を得る前に、自分と同じくらいの体重はあるであろう筋肉質な身体を、全身の力を振り絞り抱きかかえる。あまりにも重すぎるその身体にジョセフは思わず腹から笑いそうになった。しかし意外と何とかなりそうだ。今日ばかりは何の役にも立たない身長を誇らしく思った。
「……う、あ、待て。だめだ。やめてくれ……」
「やだ」
 シーザーを抱っこしたまま、柔らかく溶けた穴に再びペニスを押し入れる。そのままガラス窓に彼の背中を押し付けて腰を落とすと、シーザーはギリギリつま先立ちになった。ジョセフが腰を動かすたびに足先は不安定に揺れ、ぷるぷると力なく震えた。
「……あ、ジョセフ、無理だ。足が……」
「届かないの? しょうがないなぁ」
 ジョセフは鼻で笑いながらシーザーをもう一度抱き上げた。子どもを抱っこするみたいに高く持ち上げると、シーザーは慌てて足をジョセフの腰に絡め、首にすがりついた。
「……っ、ば、か、何してんだ……」
 狼狽するシーザーを愛おしみながら、下からついばむような口付けを繰り返す。愛しむように何度も何度も。
「……や、やめろ」
「やだ」
「萎えるって言っただろ」
「そんなことない。そんなのは、やだ……」
 抱きかかえたまま、下から恋い焦がれるように唇へ何度もアプローチする。しかしシーザーは首を横に振るばかりだった。
「…っ、ジョセフ……!」
「……シーザー、シーザー!」
 逃げ惑う唇を必死に追いかける。祈るように見上げながらジョセフはシーザーからの赦しを待った。名を呼び、懇願し、キスを乞う。そして何度目かの必死な口付けに、シーザーはようやく答えてくれた。ジョセフは逃げないよう更に深く深く口づけた。シーザーのキスに彼の脆くも柔らかな感情を感じて、胸が砂糖菓子みたいに甘くキュンとなった。ジョセフが愛おしむようにゆっくりと腰を揺り動かすと、その動きに合わせてシーザーの中が、きゅっ、きゅっと、甘く絡みつく。ようやく初めて彼と繋がったような気がした。
「ねぇシーザー、気持ちいい?」
 口付けの間にゼロ距離で話しかけながらジョセフはシーザーの中をゆっくりと探った。密着した肌が汗で擦れ、腰が動くたびに湿った音を立てる。始めは頑なに拒まれたキスも、何度も繰り返すうちに深く、優しくなっていった。
 そこにほんの少し、でも間違いなく、確信的な愛があるような気がした。
 
「……シーザー、好き。好きなんだ。だから……」

 どこへも行かないで。そう言えれば良かった。しかし唇が震えて最後まで紡ぐことが出来なかった。耳元ですがるように告白すると、腹のあたりで熱が温かくとろけた。それはシーザーが射精した熱だった。ジョセフはその熱を感じながら、彼の中に二度目の精を放った。

 翌朝目覚めると、シーザーの姿はなかった。腹の上に乗って起こされることもなければ、隣でいつまでも寝こけていることもない。窓の汚れは綺麗に片され、彼の痕跡はどこにも無くなっていた。ジョセフはいつも通り、一人分のコーヒーを淹れて窓から朝の風景を眺めた。
 摩天楼の前に佇む一匹の羊。孤独な街で愛を求めて嘘をつく、臆病な羊。ジョセフはそんな羊のことを想いながら、ただぼんやりと、金色に染まる街並みを眺めていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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