Episode 6. Caffè Latte -2nd Part

 
 
 
 

 それから2ブロックほど北へ歩いた。繁華街の喧噪が消え、段々と住宅街の静けさが漂ってくる。それでも十字路にはレストランやカフェが軒並んでいて、常時人が行き交っていた。
「ここです。一番上の部屋なんで、階段で四階まで上がらなきゃいけないんですけど……」
 ヨシュアがアパートメントの前で立ち止まる。それは赤煉瓦で作られたギリシャ様式の小さな建物だった。このあたり一帯はギリシャ、グルジア、イタリアなどの様々な様式の建物が入り乱れており、ミッドタウンのビル群とは対照的に親しみやすい西洋建築が数多く残っている。全体的に四階建て程度の低いアパートメントが多く、ヨシュアの家はその並びの一角にあった。ジョセフは自分の不動産知識を復習するようにその建物をまじまじと眺める。
「ここまで来て言うのもなんですけど、結構狭いですよ」
「構わんさ」
 アパートの扉を押し開けて中に入ると、エントランスには螺旋式の階段が天井に向かって伸びていた。それは綺麗に手入れされているが、木製の手すりや階段は歩くたびにミシミシと年季の入った音を立てた。螺旋になっている分、勾配は緩やかだが、一つ階を上がるために踏むべき段数が多く、一階上がるだけでそこそこ体力を使う。これを毎日四階まで上り下りするとなると、若者じゃないとなかなか大変かもしれない。
 ヨシュアは慣れた足取りで階段を登っていく。ジョセフもそれに遅れないようさりげなく波紋の呼吸を使ってリズムを整えながら登った。
「大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
 ジョセフは不敵の笑みを浮かべてみる。ヨシュアは少し驚いた顔をしたが「毎日壁登りしてるんでしたもんね」と、いつ話したか分からないエピソードを口ずさんだ。
 ようやく四階に到着する。部屋を開けるとふんわりと甘くて懐かしい香りがした。それはいつもヨシュアが身に着けている香水の匂いで、彼の存在を強烈に意識せざるを得なかった。しかしジョセフは何食わぬ顔で部屋へ足を踏み入れる。 

「いい部屋じゃないか」
 それは率直な感想だった。お世辞にも広いとは言えない部屋ではあったが、南と東、そして吹き抜けるような天井にも窓がある。こじんまりとした空間には統一感のある清潔な雰囲気が漂っていた。
「一番上の階なんで天井が高いんです。でもこの狭さなので、しばらく住む人がいなかったみたいで。結構安くてお得だったんですよ」
「一人暮らしにはちょうどいいんじゃないか? いい部屋見つけたな」
 ジョセフは素直に感心した。
「社長さんが言うなら、きっと良い部屋なんですね」
 ヨシュアは微笑んだ。その笑顔は甘いチョコレートを食べた時みたいに小さな幸せそのものだった。そんな彼が住まう空間は一人暮らしの男性とは思えないくらい綺麗に片付いていた。かなり几帳面な性格なのかもしれない。アルファベット順に並んだ本の背表紙。折りたたまれた新聞。律儀に並べられたレポート用紙と万年筆。そして曇り一つないほどに美しく磨かれた灰皿。家に妖精か家政婦でも住んでいるとしか思えない綺麗さだ。自分のオフィスの散らかりようを見たら笑われてしまうかもしれない。

「ヨシュアって煙草吸うの?」
「え、まぁ…… たまにですけど……」
 ヨシュアはジョセフのコートを受け取りハンガーに掛けた。
「ジョースターさんは吸わないんですか? 」
「ほとんど吸わないかな」
「ですよね。あんまり吸うイメージないです。でも大人の人ってみんな吸うものだと思ってました」
「んー、まぁ、苦いのってあんまり好きじゃないし……」
「あ、わかります。俺も周りが吸うからちょっと試してるだけなんですけど、苦いならコーヒーのほうが百倍美味しいっていうか」
 ヨシュアが小さなキッチンで戸棚や冷蔵庫を開けたり閉めたりしている。
「何か飲みます? 今赤ワインくらいしかないんですけど……」
 キッチンに飲みかけのワインが一本、まだ封を切ってないものが一本置いてある。ジョセフは少し悩んだがキッチンカウンターの片隅に見覚えのある大きな機械が置いてあるのに気がつき、ヨシュアに目配せする。
「ヨシュア。俺たちはこっちだろ?」 
 その機械、エスプレッソマシーンを指差すと、ヨシュアは嬉しそうに笑った。
「そうでしたね。作れるものは限られちゃうんですけど」
 ヨシュアはカップとコーヒー豆を手際よく取りだし、マシーンの準備を始める。
「このマシーン、お店からのお古なんです」
 彼は少し自慢げにマシーンの肌を撫でた。
「一昨日、イタリアのラヴァッツァとコロンビアのスプレモの豆が手に入ったんですけど、どっちがいいですか? これもお店から試飲用に貰ったんですけどね」
 ヨシュアはペロリと舌を出した。
「何が違うんだい?」
 問いかけるとヨシュアは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
「コロンビアはちょっとフルーティーな甘みが特徴で、すごく飲みやすいです。ラヴァッツァはエスプレッソに特化してて、苦みとコクが強いイタリアらしい豆です」
「どっちも気になるけど、このマシーンは何を作れるんだい? それに合うものにしようかな」
「凝ったものを作るとちょっと時間がかかっちゃうんで、エスプレッソか、カフェラテか、アメリカーノあたりでしょうか」
「じゃあ、カフェラテにしようかな」
「了解しました。それならラヴァッツァが良いと思います。ちょっと待っててくださいね」
 ヨシュアは豆とミルクの準備を始めた。それは毎朝見る光景だったが、今日のヨシュアはいつもより少しリラックスしてるように思えた。朝の慌ただしさから解放された彼の手捌きは、余裕と楽しさに満ちていた。
「ジョースターさんは甘めが好きでしたよね」
 ジョセフが微笑むと、ヨシュアはそれを合図にシロップの瓶を取り出した。
「今日はアガベシロップにアレンジしちゃいますよ」
 ヨシュアはラテを注文すると、いつも砂糖やシロップを入れた状態で出してくれる。ジョセフ好みのちょっと甘いやつだ。基本的にニューエイジではカウンターに配置されている砂糖を自分で入れて甘味を調整するスタイルだったが、お得意の客にはそれぞれのバリスタが客の好みに合わせた一杯を作ってくれる。
「それにしても本当に大したものだよな。そんな技術、いつ覚えたんだ?」
「高校生の頃、地元のカフェでバイトしてたんです。そこで基本は全部教えて貰いました」 
 ヨシュアはミルクを蒸気で温めながら話を続けた。
「でもやっぱり、こうやって作るのが好きなんだと思います。ちゃんとした一杯を作って、みんなが美味しいって喜んでくれると、嬉しいじゃないですか」
 照れくさそうな様子で語るヨシュアは、いつになく燦々としていた。その様子は誰のものでもない、彼自身のものに間違いなくて、シーザーに重ね合わせてばかりいることが恥ずかしくなるくらいキラキラしていた。

「やっぱりヨシュア、意外とシーザーに似てないかもな」
 何気なく口にした言葉は、暗闇に投げられた花火のように、一筋の光を放って二人の間で弾けた。
「そう、なんですか?」
「うん。やっぱり話し方とか性格とか似てないし。ヨシュアはシーザーよりずっと優しいし、いい子だし」
「そうですか」
 ヨシュアは淡々とした様子で答えた。シーザーを重ねてしまうことを詫びる気持ちで言った言葉にも関わらず、むしろヨシュアの表情は固くなった。ジョセフは首をかしげる。
「ヨシュア?」
「シーザーさんは、どんな話し方だったんですか?」
 ヨシュアは少し苛立った様子で聞いた。
「どんなって……」
「教えてください」
 ヨシュアはいつになく真剣な雰囲気を醸し出していた。ジョセフは少し気が進まなかったが、シーザーのことを思い出しながら言葉を選んだ。
「……そうだな。まず敬語ではない。年上だったしな。なんというかもっと偉そうな感じだった」
「そうなんですね。他には?」
「うーん、なんというかいつも小言が多かったな。ああしろこうしろグチグチうるさいし。全然優しくないし」
「なるほど」
「あと、全体的に言う事やる事がキザっぽいんだ。ああアイツ、アイツに似てるんだよ、俳優のマーロン・ブランド。知ってるよな? ああいう感じだ」
 顔が似てるというわけではないが、ああいうハリウッド俳優的なキザで女ったらしい感じはシーザーを説明するにはぴったりだとジョセフは思った。
「なるほど。わかりました」
 ヨシュア周辺の空気がシンと静まり返る。どうやら集中してミルクでラテアートを描いているようだ。二人の間に妙な緊張感が走る。ミルクを注ぎ終わるとヨシュアはふぅと息を吐き、ジョセフを真っ直ぐにとらえた。

「ほら出来たぞジョジョ」

 ゴトン…… とカップが鈍い音を立てる。ヨシュアが乱暴にカップを置いたのだ。
「カフェ・ラテだ。確か甘くてミルク多めが好きだったよな? 子どもみたいな舌しやがって。そんなじゃいつまでたってもエスプレッソなんて飲めないぞ」
「え、え!?」
「何ぼさっとしてるんだ。さっさと飲めスカタン」
「ちょちょちょ、ヨシュア? どうしたの!?」
「シーザーさんの物真似です。知りませんけど」
「うっそ! めっちゃ似てるんだけど!」
 あまりの出来栄えにジョセフは思わず大笑いした。ヨシュアは満更でもない顔で「何がそんなに可笑しいんだ、ジョジョ」と追い打ちをかける。その表情も口調も紛れもなくシーザーで、ジョセフは余りの懐かしさに胸が震える。
「ヨシュア、それは反則技……」
 彼が作ったカフェラテを前に思わず顔を覆った。
「すみません。でも、俺がシーザーさんに似てないなんて、言わないでください」
 なぜそんなことを言うのかジョセフにはよく分からなかった。ヨシュアはシーザーに似ていたいのだろうか? 誰かに似てると言われて嬉しいものなのだろうか? 普通、人は誰かの代わりじゃなくて自分自身を見て欲しいものじゃないのだろうか?
「うん。凄い似てる。めっちゃ似てる。変なこと言ってごめん」
 しかしヨシュアの言葉に安心してしまっているのも事実だった。ジョセフは目の前に置かれたラテに視線を落とす。そこには綺麗な鳥の羽が描かれていた。
「羽?」
「そうなんです、飾り羽です。最近編み出したアートなんですけど、可愛くないですか? お店ではリーフの形が基本なんですけど、こうやって少し形をシンプルにすると羽みたいになって、ちょっとお洒落かなと思って」

 白い羽はジョセフの前でひらひらと舞い上がった。

 カップにそっと口をつける。深みのあるコクと甘いミルクの味が口の中で優しくとろけた。それは非常に懐かしい味だった。
「うん、凄く良いと思う。それにすごく美味しいよ。ありがとう」
 カフェラテを褒めると、彼はちょっと口を尖らせて頬を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
 素直に見せるこういった表情は紛れもなくヨシュアらしい表情だ。同じ顔なのに中身が違えば作られる表情や言葉が変わるんだなと、ジョセフは改めて思った。

「俺さ、昔イタリアにいた頃、よくラテとアメリカーノを飲んでたんだ」
 美しいラテを見下ろしながらジョセフは遠い記憶に思いを馳せた。
「シーザーはよくエスプレッソを飲んでて。朝はもちろん隙があれば昼や夜にだって。俺、イタリアに行くまでエスプレッソなんて飲んだことなかったから、初めて飲んだ時はあまりの不味さにびっくりした。砂糖を山盛り入れたって、苦いもんは苦いだろ?」
 その言葉にヨシュアはほんのりと笑った。
「苦くて不味いって騒いだら、シーザーのやつ、ミルクをたっぷり入れてくれてさ。それが凄い美味かった」
 手の中でくるくるとカップを回しながら、羽のアートを見つめた。
「でも、あんまりにも子どもみたいだって馬鹿にするから、そのうちお湯割りのアメリカーノを作るようになったんだ。ほら、アメリカーノならコーヒーみたいなもんだろ? 結構お湯をたっぷり入れて薄味にしてさ。それでも相変わらず馬鹿にされたけど」
 ジョセフは感情が時空を超えて柔らかく広がっていくような心地になり、幸せな溜め息をそっとついた。
「それにシーザーやつ、コーヒーと一緒に煙草をよく吸ってたな。信じられるか? 舌が馬鹿になってるんじゃないかと思ったよ」
「煙草とコーヒーって意外と合うんですよ。凄く苦いですけど。お客さんでもコーヒーと一緒に一服してる人は多いです」
「ヨシュアは好きなの?」
「うーん、たまにならいいかなって感じですかね」
「マジか」
「それじゃ試しに、一服しませんか? シーザーさんと一緒にいる気分を味わえるかもしれませんよ」
「そんなの…… 悪いよ」
 昔話に花を咲かせすぎたかもしれない。きっとこの羽のせいだ。ヨシュアにこれ以上シーザーを重ねないようにと思っていたのに、結局またヨシュアに気を遣わせてしまった。ジョセフが再度断ろうとすると

「俺がそうしたいんです」

 ヨシュアは意志の強い目を向けた。その目はジョセフを見透かしているかのようだった。ジョセフは静かに頷く。ヨシュアが窓を開けると、夢から覚めそうなほど冷たい風が部屋に吹き込んできた。
「本当は駄目なんですけど、ここから外に出ましょう。 コート着てきてください」
 ヨシュアはジャケットを羽織り、ポケットに煙草とマッチを突っ込んで窓をよじ登った。
「ヨシュア?」
「こっち、です」
 彼は窓から外へ飛び出た。ジョセフは慌ててにそれに次いで窓から首を出す。
「ここ非常階段があるんです。本当は非常時以外使っちゃ駄目なんですけど、今日は特別ですよ」
 ヨシュアが手を差し伸ばす。その手を取ると、まるで羽でも生えたかのように、ヨシュアは軽々しくジョセフを引き上げた。

 降り立った非常階段は鳥かごみたいに鉄格子で作られていて、足元がやたらスカスカする。ヨシュアは慣れた様子で階段の踊り場にしゃがみ込んだ。何度かここで一服したことがあるのだろう。そこは人が一人通るのがやっとなくらいのスペースで非常に狭い。ジョセフは窓に寄りかかるようにして、ヨシュアの隣に腰を下した。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
 差し出された煙草をパクリと咥えると、すかさずヨシュアがマッチを擦った。ジョセフは煙草を近づけるが、風であっという間に消えてしまった。彼は手早くもう一本取り出して火をつけるが、それもすぐに消えてしまう。ジョセフは煙草を包むように口元を手のひらで覆い、火が消えないようヨシュアに顔を寄せた。
「なんかマッチ売りの少女みたいですね」
 ヨシュアは優しくマッチを擦り、ジョセフの手の中に小さな火を灯した。

「あー、にがい……」
 煙を肺に入れるとふわりと頭が浮くような心地を味わう。久しぶりの煙草の味にジョセフは酔いしれた。すると、ヨシュアが自分の口に新しい煙草を咥えたので、今度はジョセフが火をつける。しかし案の定それは風ですぐ消えてしまった。
「ライターないの?」
「ないです。でも、これで十分です」
 ヨシュアが顔を寄せてくる。新しい煙草の先がジョセフの煙草に触れた。ああそういうことかと思い、ジョセフは息を吸ってヨシュアの火をつけた。

「うーん、苦いですね」

 白い煙が夜の街に向かって一筋伸びた。二人はしばらく雪夜の沈黙に身を委ねる。ヨシュアの肩が触れるたびにじんわりと身体が熱くなった。煙草からはほんのりとした甘さが漂い、冷たい夜空に広がる雪の結晶たちと共に穏やかな静寂に包まれていく。長くて優しい時間を味わうように、煙草の葉がゆっくりと燃えていく様子をぼんやりと眺めた。
 ヨシュアは何度か灰を階段下に落とすと、そのままゆったりと身体をもたれかけてきた。これがもう不自然な距離なのは分かっている。そんなことを受け入れている自分も、こんな風に寄り添うヨシュアも、お互い口に出せない甘い思いを抱えているのは間違いなかった。

でもだからって、どうしろというのか。

 シーザーは何も言わず遠くへ行ってしまった。何を考えていたのか、何を思っていたのかちゃんと聞く時間もないまま、あっけなく居なくなってしまった。あの頃はずっと一緒にいると思っていたから、真面目な話なんてしようとも思わなかった。
 ジョセフはヨシュアとこの先、一緒にいられないことを誰よりも深く理解していた。ヨシュアは大学へ行き、卒業して、いつかは家族を持って。誰にも縛られず自由な未来を描くべきだ。そしてジョセフには守るべき家族がいる。それは何にも変えらないほどに大切なものだった。だからこそ、ヨシュアには自分のような思いをして欲しくない。それなのに、突き放すことができない自分に嫌気がさす。

「ジョースターさん」
「ん……」
「火、消えちゃいました」
「そうか」
 手元にあるマッチを擦ろうとすると、その手をぎゅっと握られた。ヨシュアがじっと瞳を覗き込んでくる。
「こっちの方が、早いです」
 煙草の先が押し当てられる。短くなった煙草は二つ合わせて一本分くらいの長さだった。鼻先があたるくらい近くでヨシュアの温度を感じる。ヨシュアが息を吸う気配がした。それに合わせてジョセフも息を吸い込んだ。

 呼吸がぴったりと重なる
 ぴったりと
 二つの呼吸が重なり合う

 その呼吸の奥に懐かしい波紋の気配が煌めいた。それは美しすぎるほどにシーザーの気配だった。シーザーの呼吸であり、シーザーの波紋だった。

 ああ、やっぱり。ヨシュアの片隅にシーザーがいる。
 ヨシュアの向こうからシーザーが時々こちらを見ている。そんな気がして仕方なかった。
 それならば、本当にそうならば、彼の身体を抱きしめても許されるんじゃないだろうか。

 二人はそっと息を吐いた。

「やっぱり苦いですね……」

 ヨシュアは咲きたての花みたいに優しくはにかんだ。その顔は誰のものでもない、ヨシュア・オドネルの顔だった。ジョセフは一瞬だけ沸き起こった思いをそっと胸の奥に仕舞い込んだ。

「こんな不味いもの吸うやつの気が知れないな……」
 
 もしもっと早くヨシュアが現れていたら、もしシーザーが生きていたら、違う道を歩んでいたのだろうか。
 ジョセフは長い長いため息を吐いた。

「これ吸ったら、そろそろ帰らないとな……」
「そうですね。ホリィちゃん心配させちゃいますもんね」

 冬の空を仰いだ。それは狂おしいほどに懐かしい色だった。煙草の香りが寒風に混ざり、舞い散る雪と共に真っ暗な闇に消えていく。
  
 ヨシュアの手は、まだしっかりと握られていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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