※本編(2nd Part)には腐向け性描写(R-18)が多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
※みんな大好きご都合波紋セックス
※JC/CJどちらも大丈夫な方推奨。内容としてはCJ前提のJCになります。シーザーというかヨシュア受。あくまで前提のためCJの直接的な性描写はありませんが少し特殊です。少しでも不安のある方は読まない方が安全です。9話を飛ばしても10話は読めますので、ご自身の判断でお願い致します。
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感情に任せて劇的な告白をしてしまったせいで、ふたりの間には気恥ずかしい空気が流れていた。高校時代の甘酸っぱい青春を思い出させるようなそれは、今のジョセフには懐かしいを通り越して逆に新鮮さすらあった。むしろヨシュアの方がそんな空気に慣れているようで、彼はジョセフに気を遣う余裕すら見せていた。緊張してしまいがちな空気を、バリスタお得意の営業トークで他愛ないものへと変えていく。ラテを作る上で必要なミルクを注ぐコツやら、エスプレッソに入れる砂糖の量はいくらがいいかやら、そんな話をした後、歯を磨いて、流れるようにベッドへ入った。
これが男女の二人ならさぞかしロマンチックな雰囲気になっていただろう。しかし二人の間には不思議なくらい和んだ空気が流れ、無邪気な会話が弾んでいた。学生時代は何をしたとか、最近家の近くに出来たベイカリーがいまひとつだとか、そんな他愛のない話ばかりしている。今のジョセフにとってその空気は非常にありがたいものだった。お世辞にも広いとも柔らかいとも言えないベッドの上で、ヨシュアはずっとジョセフの腕にくっついて離れなかった。
「それでこの前、ミネッタターバンに行ってきたんですよ。知ってます? あそこのフレンチディップが信じられないほど美味しくて」
「フレンチディップだって?」
「ジョースターさん、ああいうの好きでしょ?」
「よく分かったな。フライドチキンの次の次くらいには好きだ」
ジョセフの微妙に外した回答にヨシュアは少し不満げだったが、今度一緒に行こうと約束をする。今までこのグリニッチビレッジにはあまり良いイメージはなかったが、ヨシュアと過ごしていくうちに好きになっていたようだ。しかしふと、ヨシュアを追っていたときに見た人影を思い出し胸騒ぎを覚える。
「そういえば、あの時、埠頭で何があったんだ?」
質問すると、笑顔が耐えなかったヨシュアの顔が一瞬にして強張る。
「……すまない。言いたくなかったらいいんだ」
口を閉ざしたまま思いつめるヨシュアをなだめたくて、頬に浮かぶ青い痣を優しくなぞった。
「ただあそこに、ライブハウスにいた男がいた気がするんだ。あいつたぶん、このへんに住んでるだろ? そう思うと……」
「……あれは、あの時は…… その、なんというか、よく分からないことだらけで……。何から話したらいいのか」
ヨシュアはジョセフの手をぎゅっと握りしめた。それは恐怖や悲しみを遠ざけるために温もりを求めるみたいに、何か儀式的な切実さがあった。
ヨシュアは少しずつ起きたことを順を追って語り始めた。ジョセフと別れて街を彷徨っていると、以前ライブハウスにいた男とそのパートナーと思われる男に声をかけられたこと。そして彼らはヨシュアをゲイだと思って執拗に誘ったこと。ヨシュアは自分はゲイではないと否定するも、ジョセフへの思いを言い当てられ上手く彼らを退けられなかったこと。それでもヨシュアが拒絶し続けると、彼らは突然周囲の人間にヨシュアはゲイだと騒ぎ立て、街中から多くの人間を呼び集め始めたこと。
「今思うと、あのあたりは同性愛者は多いけど、同時に彼らを忌み嫌う人も多かったんだと思うんです。それとも彼らは、あの男とグルだったんでしょうか? 俺にはよく分からないです……」
ヨシュアが恐怖のあまり逃げ出すとその集団はヨシュアを追いかけた。逃げても逃げても追いかけてきて、気が付けば埠頭に追い込まれてしまったらしい。そこで彼らはヨシュアを掴まえて罵声を浴びせ暴行しようとした。
「そこでまた、あの男が来たんです。今ならまだ助けてやるって。でも、あいつが俺を見る目は……本当に恐ろしくて……。あいつにすがったら、その後何をされるのかと思うと怖くて……」
ヨシュアは唇を震わせながら、ゆっくりと続けた。
「その後はあんまり覚えてないです。とにかく逃げようと必死だったんです。川に落ちて、す、すごく冷たくて…… 気がついたらジョースターさんがいて……」
恐怖に顔を歪めるヨシュアに耐えきれず、ジョセフは彼の身体を抱きしめた。
「無事で良かった…… 本当に……」
「目が覚めて、ジョースターさんがいた時、本当に、うれしかった…… 温かくて、幸せだなって。間違いなく死んだと思いました」
ヨシュアは冗談を言うかのようにそっと笑った。
「そういえばジョースターさんこそ、どうやって家まで運んだんですか?」
「ただの、気合さ」
ジョセフが笑ってみせると、ヨシュアは信じられないといった様子で詳細を聞き出そうと迫ったが、本当に九割方気合としか言いようがなく、二人の押し問答はただのじゃれ合いになっていった。
「でも俺、やっぱり引っ越した方がいい気がしてきました。またあいつらに会ったらと思うと……」
「大丈夫だ。そいつら、もう二度と表に出れないようにしてやる」
ジョセフはハラワタが煮えくり返る気持ちだった。今すぐにでも殴りこみに行きたい衝動を押さえて、頭の中でそいつらをボコボコのケチョンケチョンにすることだけを想像する。
「お気持ちは嬉しいですけど、そんなの無理ですよ……」
「ヨシュアはスピードワゴン財団って知ってるか?」
「ええ、あの石油王の。それがどうかしたんですか?」
「ちょいっと、そいつらと仲良くしててさ。まぁそのへんは大人の事情ってやつだから。とにかくヨシュアがここを出る必要はないよ」
ヨシュアはいまいち腑に落ちないといった顔をしていたがそれ以上は言及してこなかった。そしてその訝し気な視線をジョセフから腕時計に落とした。
「あ、そうでした。時計、遅れてるんですよね」
「川に落ちたのに壊れてないのか?」
「一応動いてはいるんですけど、時間がだいぶ遅れちゃってて。明日にでも修理に出します」
「あれだけの水を浴びてまだ動いてるなんて、大したもんだな」
仕事中にもつけられるように、防水時計を勧めたのが正解だったようだ。しかし防水といえどもせいぜい生活防水であって、川やシャワーの水に浸かることまでは想定していないはずだ。かろうじて動いているだけだろう。ヨシュアは腕時計ではなく部屋の壁時計に視線を移した。時間は午前4時を過ぎており夜というより朝に近い時間になっていた。
「今日は随分、夜更かししちゃいました……」
「別に明日は休みだろ? それにさっき寝たから大丈夫さ」
ジョセフはヨシュアの額にキスをする。たったそれだけのことで、子どもみたいに嬉しそうに笑うものだから、思わずたくさんのキスを降らせた。
「こうして、こうやってベッドでさ…… 話してるのがいいんだ。たぶん、シーザーとはもっと、こういうことをするべきだったんだろうな……」
「シーザーさんとは、しなかったんですか?」
ジョセフの記憶にあるシーザーはあまり自分の話をしない男だった。ベッドの上では何一つ語らず、貪るようにセックスをして、眠り、昼間は修行をして、また夜になるとがむしゃらに抱き合う。それだけだった。シーザーの過去を知ったのは彼がいなくなる直前で、それはあまりにも遅すぎる話だった。
「ベッドの上では、セックスしかしなかった」
「そ、そうなんですね……」
ジョセフの言葉に、ヨシュアは頬を赤らめた。
「そろそろ、寝ようか」
ヨシュアは頷くと、安心したように目蓋を閉じた。ジョセフはベッド脇のランプを消して、安息するヨシュアの肩を抱いた。ずっとこんな時間が続けばいい。そんな風に思えるくらい穏やかな気持ちで、ジョセフは深い眠りに落ちていった。
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翌朝。正確にはもう昼に近い時間だったが、ジョセフは目覚めた。
久しぶりにぐっすり眠った気がする。ジョセフは見慣れない天井の青い天窓をじっと見つめていた。窓枠には雪が積もり、それは夏雲みたいにキラキラとしていた。
腕の中にはヨシュアがいて穏やかな寝息を立てている。それはにわかに信じがたい光景で、夢でも見てるとしか思えないほどに幸せだった。金色のまつ毛が朝陽に照らされ、その白い肌に青い影を作っている。窓から差し込むやわらかな光に抱かれて眠るヨシュアは夢のように愛らしかった。髪を撫でると「ん……」と小さく息を零して眉をひそめる。彼の呼吸は柔らかく、温かい生命の息吹きをジョセフに届けた。
ふと、足元で何かの気配がして視線を移す。するとそこには、あの色面の絵画が立っていた。
「なん、で……」
ジョセフは思わず息を飲む。なぜそいつがいるのか、ジョセフには分からなかった。なぜなら今のジョセフは、全ての不幸がなくなったかのように穏やかだったからだ。それなのに、そいつはまだそこにいる。
「……ジョ、スターさん……?」
ジョセフの声に目を覚ましたヨシュアが腕の中で身じろぐ。ヨシュアはまだ眠たげな様子でジョセフを見つめた。あどけなさの残るその表情の奥に、若い蕾のような色気が滲んでいて、思わず身体の奥がじんわりと熱くなる。ジョセフはヨシュアから目を反らした。
「俺は、そこまでは、求めてない……!」
求めていないはずだ。色面の絵画を見つめながらジョセフは叫んだ。
「ジョースターさん? どうしたんですか?」
ヨシュアが顔を覗き込んでくる。その顔は毎朝自分を見つめてきたシーザーの顔だった。
パチッ、パチッと、シーザーと分かち合った欲望が弾ける。それは胸の奥からとろとろ溶け出し、絵画の色と混ざりあった。
思わずその無防備な唇にキスをする。ヨシュアがそれを拒まないことは分かっていた。それをいいことに更に口づけを深め、舌を奪う。ヨシュアは少し戸惑う様子を見せたがすぐにそれを受け入れ、舌を絡めた。昨夜の冷たい舌とは違いそれは甘く温かで、ジョセフの欲望をすぐに大きく育てていく。その欲望はずっと昔に檻に閉じ込められた獣のように自由を求めて凶暴に暴れ回り、ヨシュアの呼吸を無遠慮に蝕んだ。
ヨシュアが苦しげに身をよじらせるが、ジョセフは逃すまいとしっかりと両腕をシーツに押さえつけた。
「……ん、……んぅ……」
キスの合間にくぐもった声が漏れてくる。それでもジョセフは貪るのをやめない。
「……ん、ぁ……っ……ジョ……」
唇から逃れたヨシュアが苦しそうに息を吸い、名を呼ぼうとする。ジョセフは思わず腕を放した。
「ごめん……」
ジョセフは咄嗟にヨシュアを撫でようとしたがその手をすぐに引っ込めた。その行為は嘘にまみれているようにしか思えなかったからだ。ジョセフはすぐそこで己を見下ろす絵画を見つめた。この絵画は自分自身で抑圧したシーザーへの愛だと思っていたが、そうではなかったようだ。
自分が守った世界のどこにもシーザーがいないこと。シーザーが世界の誰の記憶の中にもいないこと。そして、自分が知っているシーザーを、自分が愛したシーザーを、誰にも語ることが出来ないことが何よりも苦しかった。シーザーへの愛が何も知らない社会によって抹殺されていくのが耐えられなかった。そして、こんなに愛しているのに二度とシーザーへ自分の思いを伝えられないことを悔いているのだと思っていた。
しかし昨夜、ようやく全てが救われた。完璧なまでにジョセフの心は満たされていた。それは間違いなかった。
しかしそれだけでは、ジョセフの心の孤独は終わってくれないらしい。
ジョセフはヨシュアを置いてベッドから降りようとする。するとヨシュアが腕を掴んだ。
「行かないでください……」
「………俺が何をしようとしたか、分かってる?」
「……なんとなく、なら」
哀れなことを口にするヨシュアに現実を分からせようと、彼のスウェットの下にゆっくり指を滑り込ませる。しかし彼は驚きもしなければ抵抗一つ見せようとしなかった。ただその肌は魚のように素直に跳ねた。
「ヨシュアは男同士で何するか、知ってる?」
意地悪をする大人みたいに、ジョセフはわざとらしく問いかけた。
「あ、あんまり…… 分からないです」
「やることは男女と一緒さ」
スウェットをたくし上げて胸の飾りにキスを落とすと、ヨシュアは困ったように身をよじった。
「俺はさ、シーザーの前では女だった」
ジョセフはきつく閉ざしていた心の扉をゆっくりと開いた。
「女みたいに毎晩抱かれてた」
言葉を伝えるべき唇はブルブルと震えている。一生口にすることはないと思っていたことを口にして脂汗がジクジクとにじみ出す。こんなバカでかい身体をした男が男に抱かれていたなんて言葉を吐きこぼす唇を、ジョセフは厭らしく思った。
「……初めはすげぇ嫌だった。恥ずかしいし、意味分かんねぇって、それなのに……」
唇が震え、喉がハラハラと乾いて、ジョセフは言葉を紡ぐのに苦労した。一語一語が時間をかけてやっと出てくるような息苦しさだった。それでも懺悔をするように言葉を並べ続けた。
「……それなのに、抱かれたくて抱かれたくて、仕方ないんだ。シーザーに抱かれたくて。今でも抱いて欲しくて、気が狂いそうになるんだ……」
頭の中が熱く震えている。自分の言葉に突き動かされるように、内に秘めていた罪のように重たい想いがどろどろと溢れ出てくるのを感じた。贖罪のようにジョセフを閉じ込めるシーザーへの愛という孤独な罪を、ジョセフは誰かと共有したかったのだ。罪を共有したい。一緒に苦しんで欲しい。それはジョセフが一番望んでいたことであり、一番望んでいなかったことでもあった。
「ヨシュアはさぁ、どっちがいい? 男の子と、女の子」
ジョセフがニヤリと笑うと、ヨシュアの顔がサッと赤くなった。
「そ、それは……」
キスで柔らかく濡れた胸の飾りを指先でくりくりと弄ると、ヨシュアは更に顔を赤くした。
「ヨシュアは俺と同じ思い、してくれンの?」
ジョセフが耳元に唇を寄せると、ヨシュアは咄嗟に首をすくめた。
「出来ないなら、もうそんなことしないで……」
色面の絵画が二人を見下ろしている。それはジョセフをあざ笑うかのように、ヨシュアを試すかのように、まるで聖餐を行う趣でただそこに立っていた。その前で、ヨシュアは何もできずジョセフを見つめている。今度こそ終わりだ。ジョセフはヨシュアを置いて立ち去ろうとする。
「……ジョースターさん」
ヨシュアが震える声で呼びかける。
「今、時計が止まってるんです」
唐突に、ヨシュアはジョセフが与えた時計を見つめながら祈るようにして言った。
「だから…… 俺たちは今、世界から取り残されてるんです」
ヨシュアは堕天使のごとく美しく笑った。その言葉はおそらくヨシュアの精一杯の優しさだった。ジョセフはその顔に、胸の内に広がる罪を打ち明けたいと思った。